プレス技術 連載「知って得する!ワンポイント経営アドバイス」
2026.10.07
たべい かなこ:中小企業診断士。経営改善、資金調達、販路開拓など中小企業の成長を幅広く支援。自身も事業を営んでおり、事業者目線に立った実践的な伴走支援を強みとする。
「補助金の活用を検討してみたものの、手をつけられていない」。そのようなケースはないだろうか? 2024年版中小企業白書の「第1-2-23図感染症に関する政府施策の利用経験(2023年11~12月時点)」によると、持続化給付金や政府系金融機関による実質無利子・無担保融資が約半数ほど利用されていたのに対し、IT 導入補助金を利用した企業割合が23.7%、事業再構築補助金を活用した企業の割合が15.5% と2割以下となっている。しかし、省力化やDX(デジタル変革)化、カーボンニュートラルへの対応などが求められる昨今、補助金はただの「資金援助」ではなく、経営を一歩進める「成長の武器」となる。
それでは、どのような補助金を活用していけばよいのだろうか。今回のテーマである補助金について、特に製造業にフォーカスしたものを紹介したい。
製造業が活用できる補助金とその事例
表1 に示すとおり、2025 年度は製造業が活用できる補助金が目白押しである。特に「中小企業新事業進出促進補助金」は、2024 年度まで実施されていた「事業再構築補助金」と支援対象や経費が重複していることから、後継にあたる補助金だと評価されている。いずれも工作機械の導入や製造ラインの再整備などに活用できそうだ。
では、これらの補助金は実際にどのように活用されているのだろうか。ものづくり補助金の成果事例について取り上げたい。
令和6年度ものづくり補助金成果事例集に掲載されている豊田プレス工業㈱は、協働ロボットの導入によって工程を集約し、競争力を向上させた。自動車部品のフェンダーエプロンをつくる同社は、当時の日次の生産能力は4,800 個。それに対しサプライヤーからの要請は1 万個。限られた生産スペース、人員の中、大幅な生産性向上が求められていた。
同社がかかえる一番の課題は、プレス部品を溶接する工程における省力化だ。多品種少量であること、あらゆる生産工程で作業者の介入が必要であることなどを考慮すると、同社にとって生産ラインを自動化することは必要不可欠であった。本件を検討していた2021 年頃、協働ロボットが自動車部品の生産現場で見られることはまれであり、設備の検収や試作にはかつてないほどの時間をかけたそうだ。その結果、旧第1 工程で4,800 個生産するのに13.2 時間要していたところ、現在は8時間で1 万個を生産できるようになった。また、フェンダーエプロン1 個当たりのコストを60%ダウンさせることに成功した。同社はさらにプレス工程の自動化を検討しているそうだ。
同事例から言えることは、現場がかかえるボトルネックを解消することで、さらなる売上拡大が望める好循環を生み出せることである。確かに、短期間で見れば活用経験のない協働ロボットを導入するための準備や専用治具の設置に多くの時間や労力が割かれてしまうかもしれない。しかし、導入し工程を整備することで、生産性の向上だけではなく労災の防止など、人に優しい職場環境にも貢献することができる。
以上のように、補助金は中長期の経営戦略として捉えることができる。
ここまで製造業で活用できる補助金とその成果事例、そして経営戦略への活かし方について紹介した。以下では「よくある落とし穴」と「補助金申請を成功させるためのポイント」について述べたい。
補助金活用の落とし穴と成功ポイント
補助金活用で最も気をつけなければならないのが“補助金頼み”となることである。来年度の収支計画を検討する際に「補助金があるから大丈夫だろう」と安易に考えてしまうことは避けたい。例えば、ものづくり補助金18 次締切分の採択率は35.8%であった。それぞれの補助金に必要とされる条件が細かく規定されているため、必ずしも採択されるわけではない。
また要件が未達である場合、返還が求められるケースも存在する。例えば、補助金が採択されたとしても付加価値額や賃金の増加といった要件が達成できていない場合、状況に応じ返金対応せざるを得ない可能性がある。
そのほか、ほとんどが清算払いであるため、いったん立て替える費用を準備しておく必要があり、事業実施の対象期間が「交付決定後」という制限もある。以上の留意点を踏まえ、補助金を経営判断の軸とはせず、あくまで「中長期的な好循環を生み出すドライバー」として認識しておきたい。
では、補助金の申請で成功するためにはどのような点を押さえておけばよいのだろうか。ポイントは3 点である(図1)。1 点目は「申請する補助金の条件をしっかり確認すること」である。それぞれ公募要領が準備されており、すべての必要条件が集約されている。また、よくある質問などを一読することで疑問点解消にもつながるだろう。
2 点目は「ストーリー性の意識」である。特に事業計画書は「ステークホルダーへのプレゼン資料」であり、行動変容を促すものでなければならない。一般的に審査員が事業計画書を読む時間は30 分~ 1 時間程度と言われており、一読する中で“採択”の決断につながるような内容を意識することが重要である。申請する事業が補助金の“目的”に沿っていることを大前提とし、「共感→理解→納得→決断」の流れを意識し、記載することを心がけたい。
3 点目は「支援機関の活用」である。上述のとおり、補助金は必要条件、提出資料が細かく定められており、申請までにはかなりの時間を要する。そのため、ぜひ信頼できる支援機関(商工会、商工会議所などの支援機関、行政書士、中小企業診断士など士業)に相談することをお勧めしたい。なお、支援機関については、中小企業庁「認定経営革新等支援機関検索システム」を活用し、見つけることができる。補助金ごとに公募や申請締切りまでのスケジュールが異なっているので、余裕をもった準備を実施したい。
ここまで、「補助金を味方にする経営術」について概要から成果事例、よくある落とし穴と申請を成功させるためのポイントについて述べた。補助金の上手な活用は、会社を将来の好循環に導くカギとなる。情報を正しくつかみ、計画的に活用することで経営の可能性や選択肢が広がる。ぜひ、小さなチャレンジから始めてみてはいかがだろうか。