機械設計 連載「教えてテルえもん!3次元ツール習得への道」
2026.10.16
第33回 3次元CAD導入を社内で進めるために必要なこと
いわてデジタルエンジニア育成センター 小原 照記
社内展開で重要なこと
3 次元設計が進まない理由として、設計者たちから上がってくる「ツールを変えたくない」という声もある。使い慣れた2次元CADで作業した方が、楽で早いというのである。確かに、そういう場面もあるだろう。しかし、3 次元CADで正しく、効率良く作業することで、2 次元CADでの作業よりもミスが少なく、コストを抑え、より良い設計が実現できる。ただし、きちんとした使い方をしないと、3 次元CADでつくったモデルを修正しようとした際に、リンク関係が壊れ、エラーが発生して先に進めなくなり、2 次元よりも効率が低下してしまうこともあり得る。
また、前述の「3.わからない」が根本にあるが、設計以外の部門の人たちにきちんと3 次元設計するメリット、運用の仕方を共有できず、脱2次元が進まないことも多くある。設計以外の部門にも、これまでの業務の流れが変わることを極端に嫌がる人たちがいるのも事実である。
3 次元設計を推進しようとする現場に対し、筆者はよく「3 次元CADは、電動ドライバーのような道具を導入するのとは違う」と説明している。電動ドライバーであれば、作業者に渡してすぐに使えるようになるだろう。これまで手動のドライバーで力を入れてねじを締めていたのであれば、電動ドライバーの導入により作業が楽になり、効率もすぐに上がるだろう。しかし、3 次元CADの場合は購入して、すぐに使えるようになるのは難しく、“きちんとした教育”が必要なのである。
また、よくあるのが、3次元化されたのが設計部門だけで、他部門は2 次元図面のままの運用が継続されているケースである。これでは設計者の負担が大きくなるだけで、効果的な使い方や運用に至らず、結局、2 次元設計に戻ってしまったという企業も少なくない。
3 次元CADの活用を社内に広めていくうえで重要なのは、“皆が喜ぶことをする”である。3次元CAD導入のメリットをはっきりと示さず、「業務量が増えてしまうのでは」と現場の設計者を不安にさせてしまうことは絶対に避けるべきである。2 次元ではなく3 次元で設計すれば、作業がより楽に、よりわかりやすくなることを、現場に理解してもらえるように努めていく。“今、進めている3 次元CAD導入が、現場の皆が喜ぶことにつながっている”という認識を広めることが何よりも大切である。IoT やAI、ロボットなどが活躍するDX時代では、人はより人と向き合い、人が喜ぶことを考え、行動していくことが何よりも重要である。そして、そのためのツールの一つとして3次元CADがあり、そこから生み出される3次元データがさまざまなところで役立つのである。
図2 に3 次元CADの使いどころの例を示す。詳細設計の部分で3 次元データを作成し、干渉チェックやCAEによる強度検証などに活用するモデリングツールとしての使い方、設計の仕様段階から構想設計、詳細設計までの設計ツールとしての活用、さらには、設計から加工、検査までの全工程で活用した業務全体の効率化・最適化ツールとしての使用など、さまざまな用途がある。
3 次元CADの導入は、IT システムの導入と同じである。3 次元設計を進める理由は、経営者的な視点、技術者的な視点、現場的な視点など、さまざまあるが、会社全体で話し合いを持ちながら3次元設計に取り組んでいく必要がある。
例えば、生産管理システムを導入しようとした場合、現場や管理部門の人たちが集まってシステムの導入を検討するだろう。それと同様に3 次元CADも設計者だけではなく、会社全体のプロジェクトとして導入、運用の仕方を検討する必要がある。設計者だけで3 次元設計に取り組むのは、失敗する原因となる。特に、3 次元設計のプロジェクトリーダーを若手の社員に担当させるケースもあるが、若手の社員では社内の統率がうまくとれずに社内全体の3 次元化に失敗してしまう場合もあるため、十分に気をつけて人選をしてほしい。
そして、社内だけではなく、社外との連携の中で3 次元設計が思うように進まないこともある。社外と連携して、モノづくりをしていく中で、自社だけが3 次元設計をし、連携先が2 次元設計のままでは、3 次元導入の効果を最大化できない。実際、連携先が2 次元図面をデータや紙で渡してくるので、3 次元設計に取り組めないといったように「周りが2次元だから、うちも2次元のままでよい」という雰囲気になっていることが多くある。
しかし、そうした現場であっても、実際に3 次元CADのデモを見たり、触れたりすることで、そのメリットに気がつくことがある。もともと「3.わからない」の状況だったため、3 次元設計に興味がなく、情報収集しておらず、どんなことができるかがわかっていない状況から一変し、3 次元設計の良さがわかるや否や「ほかがやっていなくても自分たちはやってみよう!」となることもある。実際に、連携先の企業にも3 次元設計の良さを伝え、そこから3次元CADの導入が進んだ事例もある。
3次元設計を進めるための人材育成
3 次元CADとうまく付き合うには、最初が肝心である。3 次元設計のメリットとデメリットをしっかりと理解し、業務プロセスを変えていくことが重要である。そのためには、3 次元CADに関する知識が不可欠だが、独学でマスターするのはやはり難しいものである。そこでオススメなのが、講習会などを活用してきちんとした教育を受けることである。
正しくモデリングできないと、後からの設計変更に苦労したり、リンクが切れてデータが開けなかったりと、3 次元データの作成に手間と時間がかかってしまう。そのため、できることなら、基礎教育だけではなく、実践的なトレーニングを受け、自社製品の3 次元データ作成について講師からアドバイスを受けるなど、導入に向けた準備をしっかりと進めておくべきである。このような事前準備には、どうしても時間も費用もかかる。しかし、こうした準備をおろそかにしていると、3次元CAD活用の立上げがうまくいかず、結局、以前使っていた2次元CADに逆戻りになってしまう。
とにかく、正しいモデリング作法を覚えることが、3 次元CADの導入効果を引き出すための第一歩である。うまくその効果を引き出せない場合、よく「3 次元CADの機能に問題があるからだ」という人もいるが、多くの場合は導入プロセスなどの進め方に問題がある。日々の業務が忙しくて3次元CADの操作を覚える暇がなく、うまく使いこなせないということはよくある。図3 に3 次元CADを導入する場合のスケジュール例を示す。プロジェクト管理者は、設計メンバーが3 次元CAD習得のための時間を確保できるよう努め、習得の進捗度合いを管理してあげる必要がある。また、3 次元CADの操作がわからないときに、誰かに聞ける環境をつくることも重要である。操作方法がわからないとき、周りに聞ける人が誰もいない状態では、無駄な時間ばかりが過ぎてしまい、「3 次元CAD=面倒なツール」になってしまう。
図3 3 次元CAD導入から習得までのスケジュールの例
無事に3次元CADを使える人が何人か教育できたら、社内や協力会社などと一緒に勉強会を開催し、使い方に関する情報交換を図るのもよい。社内外の人たちとの交流は、良い刺激となり、設計者のモチベーションアップにもつながる。社内で3 次元モデリングコンテストなどを実施してもおもしろいかもしれない。
社内における3 次元推進の中心人物を育て、3次元CADによる設計や教育のルールを策定することも重要である。それぞれ独自のモデリング手法で設計している現場は、あまり望ましい環境とはいえない。しっかりと社内で設計ルールを構築していく必要がある。
まとめ
3 次元設計のメリットは、誰でも形状が理解できるという点である。そのメリットを活かし、現場でよりわかりやすいモノづくりができるようになれば、現場の人たちもきっと喜んでくれるはずである。3 次元の良さをしっかりと理解してもらい、不安を払拭する努力を惜しんではならない。
3 次元CADの導入を検討する際には、設備中心の考え方ではなく、人を中心に、人が喜ぶことをするという“モノづくりで最も重要なこと”を忘れることなく、ツール導入やプロセス改善を進め、全社を挙げての3 次元活用に取り組んでほしい。設計者にとって働きやすい環境が構築できれば、その効果はより良い製品づくりにもつながり、人々の暮らしや社会もより豊かなものへと変わっていくはずである。
今回、3次元設計が進まない現場から聞こえる3つの「ない」として、「人がいない」、「お金がない」、「わからない」を挙げた。その中でも最大の理由は「わからない」ことであり、「わからないもの=怖いもの」と拒否反応を起こし、“3 次元アレルギー”になってしまっているのである。これらを解決するための一助として、今回の内容がお役に立てば幸いである。