製品の高機能化に伴い、搭載される部品は精密・複雑化する。その源泉である金型もまた、精密・複雑化が進む。さまざまな工程で、よりていねいなつくり込みが欠かせない一方で、コストの最適化と短納期が求められ、人手不足が重なる厳しい状況が金型製作現場に常態化しつつある。こうした課題に個人の技術・技能を高めながら、チームワークで生産性を高めて高品質な金型づくりを目指しているのが肥田電器金型事業部(滋賀県東近江市)だ。若手と中堅がそれぞれの立場で向上心と責任をもって日々、金型づくりに向き合っている。
金型製作技術者としての付加価値を提供する
企画・意匠設計から金型製作、成形、2 次加工、組立てまでを一貫して手がける体制を構築し、さまざまな分野のモノづくりを支えてきた肥田電器。自社内の金型設計・製作部門である金型事業部を有する強みを活かして事業を拡大している。
近年、金型事業部は車載電池関連部品向けの金型を製作することが増えている。セル間に配置される 部品で、薄肉形状でバリが発生しやすい。製品搭載時は複数枚を重ねて使用するため、ほんのわずかな形状の誤差でも、その誤差が累積され、製品の機能・品質に影響が生じる可能性があり、高い寸法精度が求められる。耐久ショット数が100 万ショット以上を必要とされる場合もある。さらに金型業界全体が抱える短納期やコスト低減、人手不足といった課題に同部も直面しており、取り巻く環境は決して楽観視できない。
こうした状況の中で、個人の技術・技能を高めながら、チームワークによって品質と生産性の両立を追求している。その中心には現場でリーダーシップを発揮し、周囲の意欲も引き出しつつ、自らの力も絶えず磨き続ける頼もしい3 人の技術者たちがいる。
黒木研志さんは製造課仕上係マネジャーとして、部下の指導や業務の進捗管理、他部門との調整といったマネジメント業務に加え、自らも金型部品の磨きや追加工、組立てといった金型製作の最終工程とメンテナンスを担当する。前職は地質調査を行う設計コンサルタント会社で、ボーリング調査の管理や報告書作成などに従事していた。
「分析に必要な地層サンプルは人によって、品質がまったく違う。ていねいな作業やこだわりが結果として表れることに心が動きました。モノづくりが頭の中に浮かびました」(黒木さん)。
入社前に公共の職業訓練施設で機械加工の基本項目を扱う講座を受講し、入社。金型組立て時の部品の勘合調整と合わせ面の段差・かえりの除去といった仕上げ工程と使用中の金型のメンテナンスといった業務を通じて経験を積んできた。
「作業品質が量産性を左右するため、緊張感を常にもっています」と金型づくりに真摯に向き合う。主力として手がける金型の車載電池向け部品成形用金型のメンテナンスに携わる機会が増えた。量産現場から戻ってきた金型を分解し、摩耗や異常を確認し、修理して現場へ送り出す。その際、黒木さんが意識しているのは「異常を予測して対策すること」だ。
「今問題が起きていなくても、この状態なら次に何が起こるかを考えます。単に修理するだけなら誰でもできます。先を予測して、ユーザーと懸念事項を共有することや予防策を盛り込むことで生産性が変わると思っています」(黒木さん)。金型製作部門が修理やメンテナンスを行う意義として「予防保全」という付加価値を提供し、金型製作技術者として期待される役割を果たす。
また、最近は成形部門から新しい仲間が仕上げ係へ加わったことで、金型交換時の扱われ方や異常発生時の兆候など、これまでは見えなかった現場の情報も入るようになった。
「成形現場を知る仲間と話すことで、量産現場で金型がどう使われているか、その実際を理解できるようになりました。金型だけ知っていても十分ではありません」(黒木さん)。周囲の知見を活かすことを意識する。知見の共有によって、量産トラブルを未然に防ぐための提案力が向上し、金型事業部の評価を確かなものにしている。仲間の知見を引き出すマネジメント術も身につけることで、知識と技能だけではない技術者として現場でリーダーシップを発揮する。現在は標準書や手順書の作成に取り組み、感覚に依存しがちな作業をできる限り言語化することを進める。上司の井口修次課長は「問題を見抜く目をもち、安心して任せられる」と信頼を寄せる。
積み重ねてきたものを次代に残す
個人の能力とマネジメント力を磨くことに努める技術者に加えて、専門知識とコミュニケーション能力をもった技術者がその能力を活かし、現場を支えている。設計係の劉旭光さんは中国出身。材料開発の仕事を経験したあとに来日した。滋賀県立大学で材料科学を専攻し、肥田電器へ入社。成形部門への配属だったが出向で金型事業部の前身である肥田電器金型製作所へ。以来18 年間、金型設計を担当する。
現在、顧客との打合せと製品形状の検討から金型構造設計、3D モデリング、加工図面の編集、金型完成後の試作立会いまで、その役割は広範囲に及ぶ。劉さんには金型設計者として自身の知見が深まった手応えをつかんだ1 つの経験がある。製品のXYZ 方向で収縮率が異なる難形状部品の製品モデル製作と金型設計を担当したことである。2 次元図面しかない状態から3 次元モデルを製作し、異なる収縮率を考慮しながら形状を成立させる必要があった。
「何度も補正値を考えて試し、設計をやり直しました。毎日遅くまで作業しましたが、先輩たちと相談しながら乗り越えました。達成感がありました」と劉さんは苦労の先で得た金型設計の醍醐味を素直な言葉で表現する。完成した金型は成形工程で問題なく使用され、自信をもった。
一方で失敗からは謙虚に学ぶ。設計担当として仕事を任せられるようになった直後、ガス抜き溝の設計を忘れてしまったことがあった。
以来、失敗事例や注意点を詳細に記録する習慣を続けている。新しい設計に着手する前には必ず見返し、再発防止につなげている。さらに劉さんは、サプライヤーの開拓でも、大きな役割を果たした。既存取引先では品質や対応面で課題があったため、自ら中国各地の金型メーカーを調査。設備や納期、品質、日本語対応の有無を確認しながら候補を絞った。
上司の久木清孝マネジャーは「問題を深く理解し、自ら改善を実行する力がある」と評価する。
劉さんは「先輩から受け継いだ知識と、自分が積み重ねてきた経験を次の世代へ残したい」と後進を含む組織全体に貢献することを目標にする。
加工の本質を理解する
黒木さんや劉さんのような知識や技能、精神が充実した技術者に加えて、自らの知識を深め、次の目標を定めて取り組む若手技術者がいることが金型事業部の希望になっている。
保海彰平さんは2019 年入社。家業の瓦製造や屋根工事の仕事を経験したあと、入社した。現在はマシニングセンタ(MC)のオペレーションを担当するNC 係で、CAM によるプログラム作成から加工、測定までを行う。
「入社当初はNC プログラムの数字とアルファベットの意味がわからず戸惑いました。しかし、コードと機械の動きが結びつくにつれ、おもしろさを感じました」と振り返る。
転機となったのは、自らNC プログラムをつくるようになってからだ。それまでは先輩が作成したプログラムを実行する立場だったが、自分でNC プログラムをつくるようになったことで加工条件の意味を理解するようになった。
「以前は言われた通りに、機械操作時に補正作業を行っていました。でも、なぜそうするのかを理解することこそが、意味があることだと感じました」(保海さん)。
より広い範囲の仕事を任せられたことで知識が増え、そのことが次につながっている。加工後のバリの方向の考慮や加工痕を軽減するプログラム作成、工具選定を意識し、学ぶことに努めている。
今、保海さんも金型事業部の主要製作金型である車載電池関連部品成形用金型の製作に携わり、数μm単位の形状寸法精度が求められる金型部品の加工を担当している。工具の振れや摩耗、加工条件のわずかな違いが品質へ影響するため、加工記録を残しながら改善を重ねている。磨きによる形状精度のくずれや製作期間の短縮の観点から機械加工で可能な限り仕上げて次工程に引き継ぐことを意識する。
井口課長は「失敗しても自分で方法を考え、対策できる。勘の良さもある。MC オペレーターとしてだけでなく、金型製作全体を理解している技術者へ成長してほしい」と期待する。
保海さんも「エンドミルの振れ精度や業務効率の向上など取り組みたいことがある。設計や仕上げの知識を学び、多能工として成長したい」と前向きだ。
技術を次代へつなぐ
黒木さんと保海さんは高度技能や機械加工品質の再現性向上に挑み、劉さんは設計ノウハウの体系化に取り組む。3 人に共通するのは、自らの成長だけでなく、組織全体の成長を見据えていることだ。
高精度化とコスト最適化への対応と人材不足。金型業界を取り巻く環境は厳しい。しかし、劉さんは「少人数だからこそ報告と連絡、相談をし合って、お互いを認め合って、より良い金型づくりに向けてがんばりたい」と明るい。黒木さんと保海さんも同じ思いをもつ。肥田電器金型事業部には、知見を共有しながら、皆で良いモノをつくって、次につなごうとする技術者たちがいる。その向上心と責任感、そしてチームワークが、金型製作現場の課題や未知の領域を乗り越え、新たな可能性を切り拓く。