型技術 連載「田岡塾の集中講座」
2026.10.08
第3回 破壊的なイノベーションが世界中で起きている! ②
㈱タンガロイ、㈱狭山金型製作所、エリコンジャパン㈱ アドバイザー 田岡秀樹
車体軽量化と工程短縮が究極の目的
ホンダが開発し、N-Box に導入した「STRIP-Body(Strategically Reduced Inner Panel Body)」(図1)について前回に引き続き説明します。
特徴的なのは車体の外側のプレス部品である大型サイド・パネル・アウターがテーラード化されていることです。通常は0.65 mm から1.2 mm の軟鋼板またはアルミ材でプレス成形されていますが、世界でN-Box だけ車体上部が0.65 mm の軟鋼板、下部は1.6 mm の780 MPa 高張力鋼板の異なる板厚と材質の2 枚のブランク材をレーザー溶接し、1 枚のブランク材に仕立てた(テーラード)後にサーボプレスラインによって成形されたサイド・パネル・アウターを使用しています。
STRIP-Body をつくるプロセスはまず、インナーパネル(内板部品)のみでできた鳥かごのようなボディをつくり、その後、ホットスタンプ工法で成形したセンター・ピラー・スティフナーを溶接接合し、最後にテーラード・サイド・パネル・アウターをかぶせるように溶接します。こうすることで、車体下部の厚い板厚の高張力鋼板部分が通常3 層でできている車体構造上、最も重要な2 層目の代わりをしてくれるので2 層目を廃止できるのです。つまり、軽量化と工程短縮を同時に達成できたことになるのです。
もちろん、車体開発チームや溶接生産技術者といくつかの技術開発テーマを推進してきた結果になりますが、塑型・金型生産技術者が中心になってそれまで培ってきた技術と新しく開発した技術の組合せがさまざまなイノベーションを起こしていると言えるでしょう。
トヨタのリーダーたちが実現させようとしていること!
トヨタはBEV ハーフという取組みで生産に関わる工数・投資・リードタイムを従来比50 %削減し、EVを稼げる車にすると言った目標を立て、多様な車種をギガキャストで生産するために車両を前部、中央部、後部の3 つのモジュール構造にした新しい車体構造や製造方法を開発し実現しようとしています(図2)。
図2 TOYOTA 3つに分けたモジュール構造のメリット
自動車生産工場見学をされたことがある読者もいるかと思いますが、組立て工場では約1 分間に1 台のスピードでハンガーやコンベヤに乗せられた車体に部品を組み付け完成車が製造されています。最初に作業者が電気ハーネス(電線類)をフロアー本体に取り付けシートをかぶせたあと、ラインサイドに搬送されている部品を車体の中に乗り込んでハンドルやインパネ、さらにシート類など大物部品を含め、それぞれの工程の中で部品を組み付けていきます。その際には作業員が前向きではなく、斜め上や左右に組み付けなくてはならない非常にやりにくくやっかいなつくり方をしてきました。
ところが、3 つのモジュール化された車体構造にすることで組付けロボットによる自動化を含めて自由に、簡単に、正確に組み付けられる方法に変える可能性が出てきます。さらに3 分割されたフロアー・コンプを自動搬送台車に乗せて工場内を移動させ、専用部と汎用部の棲みわけができ、製造コストやリードタイムそして製品精度の大幅な削減と向上を実現できるメリットがあります。一方で実現させるための重要な開発テーマの一つに、大型のアルミダイカストマシンと金型を活用した大型一体アルミ製の車体部品の量産化技術があります。これまで部分的に車体軽量化を目的に使用されてきた技術ですが、3 分割された大型フロアーを量産する技術開発は商品開発や衝突実験部門、製品設計と生産技術が一体になって同時に推進する新しい開発の仕方が求められ、ここでも金型技術が大いに貢献することは間違いないと思います。
ホンダのリーダーたちが実現させようとしていること!
続いてホンダのEV への取組みはすでにさまざまなニュース媒体で紹介されていますが、私(型屋)の観点を入れて紹介します。
「SALOON」と「SPACE-HUB」と言うモデルを2026 年から30 年にかけて7 モデル、グローバル市場に投入していくプロジェクトが“Honda「0」プロジェクト”(図3)です。なぜ「0」(ゼロ)という名前にしたのか? そこにはホンダの創業当時からの強い想いが込められています。
1 つ目は、原点に立ち返ること。M・M 思想(Man-Maximum、Mecha-Minimum:人のスペースを最大限に機械のスペース最小に)というホンダの商品開発・製品設計・生産技術すべてにつながる思想に基づいたEV 開発です。
2 つ目はゼロから新しいものをつくる、すなわち物理的に人を動かすのではなく、感動つまり心も動かす、という想いです。
3 つ目は環境社会へのコミットメント。CO2 廃棄と交通事故ゼロを目指す。これがホンダの「0」プロジェクトです。
ホンダのモノづくりの原点と言えるM・M 思想に則って、開発しているEV の具体的なコンセプトがThin、Light、Wise です。文字通り薄くて軽く賢い電気自動車となります。
特にEV 特有の高い車高を限りなく低くし、軽量化を図っていくかが重要なポイントになり、ここでも金型のみならず溶接技術と一体になった生産技術の開発がリーダーたちのもとで強力に進められています。
まず、薄型バッテリーケースのメガキャスティング技術による量産化があります。テスラが導入したギガキャスティングマシンや金型を日本国内で活用することは工場レイアウトや搬送のインフラが適切ではないため、困難であり、6,500 t クラスのマシンを用いて薄型のバッテリーケースを分割成形し、摩擦拡散溶接で共通部分と専用部分をつなぎ合わせて使用する技術を開発中です。また、車高の低い完成車の衝突安全要件を満たすためには、これまで以上に高張力鋼板の使用量が増加することが予測されます。通常のスポット溶接技術では高精度な溶接が困難になるために、異なる板厚のプレス部品を同時に溶接接合できるダイレクト・カレント・チョッピング(DCD)と呼ばれる最先端溶接技術の開発も進められています。
私は、この開発の取組みこそリーダーたちが描いた未来予想図-Ⅱであり、単なるEV 開発が目的ではなく自動車製造方法を大きく変える破壊的なイノベーションにつながっていく極めて重要なものであると認識しています。つまり、“ 破壊的なイノベーションの一つとして金型技術を用いて自動車の車体構造を大幅に変えようとしている” のです。