型技術 連載「田岡塾の集中講座」
2026.09.10
第2回 破壊的なイノベーションが世界中で起きている! ①
㈱タンガロイ、㈱狭山金型製作所、エリコンジャパン㈱ アドバイザー
田岡秀樹
たおか ひでき:元ホンダエンジニアリング㈱車体領域・執行役員。自動車用の大型プレス金型と生産技術開発、世界最速プレスラインの開発などを担当。「デザイン1:1」コンセプトによるデザイナーの意思通りの車づくりを推進し、新機種の開発から導入までを推進。欧州OEMとの会議体「Forming in Car Body Engineering」のボードメンバーに就任。元(一社)型技術協会の15代会長で、現在は名誉会員。
自動車がどのように変わっていくのか?いかないのか?
読者の皆さま、こんにちは。
今回と次回の2 回に分けて自動車業界を取り巻く環境が大きく変わり破壊的なイノベーションが起こっているというお話をしたいと思います。いまさら皆さんに説明する必要はないかもしれませんが、自動車をつくるうえで欠かせない金型づくりを大きく変えた「破壊的イノベーション」となったのは1980 年代後半から90 年代前半にかけて登場したCAD/CAM/CAEでした。
それまでマスターモデルという樹脂製のモデルを基準にして倣い加工によって金型の表面を加工し、出来上がった金型を使って鋼板を成形し自動車用のプレス部品をつくっていました。ところがCAD/CAM/CAE の登場によって直接、3 次元データから金型の表面を加工することが可能になり、つまり自動車用のプレス部品の精度や製作リードタイムが飛躍的に向上したのでした。
その後の大きな変化といえばグローバル生産化が進み1 番型からいかにして最終型(グローバル機種によっては同じ車を5~6 カ国で生産する要求があった)に品質や精度アップを速いスピードで達成していくか、が大きな取組みと課題となり、そのために開発された技術がデジタルコピー技術やリバースエンジニアリングでした。そして、その後には金型の設計・製造データを海外各国の金型製造拠点に転送することによって、グローバル機種の開発から生産までのリードタイムが圧倒的に短くなりました。
EV 化は最終目的ではない!
さて今回起こっている破壊的イノベーションの一つに電気自動車またはEV 化があります。その背景には世界的な気候変動に伴う環境破壊や災害があると言われています。CASE(Connected、Autonomous、Shared、Electric)と盛んに言われていましたが2020 年4 月から2022 年4 月までのCOVID-19 コロナ感染によってEV 化がその代表のようになってきました。しかし、電気自動車を製造することが自動車業界の最終的な目的ではないことをまずお伝えしておきたいと思います。
究極の目的と2030 年の世界自動車販売台数予測
自動車業界としては2 つの究極の目的があります。それは、車体の軽量化と工程短縮、すなわち「いかに短い生産工程で完成車を製造するか」なのです。この2 つの目標を達成することによって競合他社と比較して付加価値の高い商品を顧客に提供でき、CO2 やエネルギーの削減も同時に行って「サステナブルなモノづくり」になると言われています。そして電気自動車はその具体的な一つの例でしかないのです。
2020 年には全世界の販売台数が約1 億2,000 万台になりその30 %に当たる3,500 万台が電気自動車になると予想されています。しかし私はその過程で自動車メーカーが3 つのグループに分かれていくのではと考えています。「1. スーパープレミアムブランド」、「2. グローバルプレイヤー」、「3. グローバルサウスグループ」です。そして現在、破壊的なイノベーションとして注目を浴びている新しい技術の一つに12,000 tを超える超大型のアルミダイカスト・マシンと金型を用いて大型で一体化した自動車車体部品(フロアーなどのアンダーボディ)を製造する「ギガ・キャスティング」があります。つまりこの工法は車体軽量化と工程短縮が同時にできる技術であるとも言えるでしょう。しかしそう簡単には導入できないのです。
まず、これまで自動車の製造方法「マルチ・コンプ・ストラクチャ」は、約370~400 個のプレス金型で成形された部品を溶接接合して車体をつくり塗装工程を経て樹脂金型で製造されたインパネやバンパーやトリム類を組み付けるという工法で、この工程を短く効率良くそして同時に車体軽量化を実現させるために、さまざまな技術開発や日々の改善活動がなされてきました。そしてその結果がそれぞれの自動車メーカーの製造工場の現在の姿になっているからです(図1)。
図1 マルチ・コンプ・ストラクチャvs. ギガキャスティング
したがって、すでに重厚長大な生産設備をもっているメーカーの工場に、さらに新しい大型の生産設備を導入する際の大規模な改造工事や搬送上の難しさを含めて課題が残ります。テスラのようなスーパープレミアムブランドメーカーがまったく何もないところから巨大な投資を掛け新しいジャンルの商品を市場に出す場合には、その可能性はあると思いますが。
製造戦略やフィロソフィーからの車体構造の違い!
自動車の車体の断面は通常3 層構造になっています。完成車を見るとどのメーカーも塗装の色やエクステリア・デザインの違い、セダン・SUV・ミニバンといったカテゴリーごとの違いはあるものの大きな差はありませんが、車体構造となるとそれぞれの企業の生産・製造戦略やフィロソフィーなどによって大きくそのつくり方が異なります。大きく分けると2 つの構造・つくり方になります。
まず日本の自動車メーカーなどが使ってきた典型的な製造方法は4 つの大きな塊(フロアー・コンポーネント、ボディサイド・コンポーネント右/左、ルーフ・コンポーネント)を車体溶接治具の中にセットして接合しつくり上げる方法です。メリットは4 つの塊を組み立てるので非常に工程がシンプルです。また塊(コンプ)を構成するプレス単品部品の寸法精度が多少悪くてもコンプ精度が保証されていると車体が製造できることになります。
一方、デメリットは一番重要な2 層目の部品がボディサイド・コンポーネントをつくり上げる際に溶接治具の中で1 層目と3 層目のプレス部品にサンドイッチ状態になり、その材質を替えられないのです。それによって車体が「鉄ありき」のボディになり軽量化に限界があること、また将来的に必要になるマルチ・マテリアル化への困難性も見えてきます。
これに対抗するかのように、欧州メーカーのレイヤー工法があります。3 層構造の車体を1 番目のレイヤー(層)から2 番目3 番目と順番にプレス部品を重ね合わせてつくり上げる方法です。
この方法は2 番目、さらに3 番目の部品の材質が異なっても外側からかぶせていく工程になるので、組付けできることになり軽量化とマルチ・マテリアル化の可能性があります。ただし、この方法のデメリットはボディを構成するプレス部品が極めて高い精度を要求されるという点があります(図2)。BMW は7 シリーズでカーボン・コア・ボディというマテリアルボディを実現させています。
次回に続く! 金型技術の重要性とは?
次回はもう少し車体構造の違いについてホンダがN-Box に導入し軽量化と工程短縮を実現させたSTRIP-Body 工法やトヨタ自動車やホンダが今後どのような車づくりをしようとしているのか?を私なりに「型屋」の観点から解説してみたいと思います。