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工場管理 連載「失策学 ビジネスの誤算から紐解く成功の条件」

2025.09.09

第2回  組織全体を危機に追い込む失敗 その2  ─管理体制の視点から─

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米国公認会計士/公認内部監査人 打田昌行

うちだ まさゆき:日立製作所傘下の監査支援部門に所属し、国内に加え海外30ケ国以上で内部統制を構築する仕事に12年間従事。 対象企業は100社以上に及ぶ。現職では制度導入の社内研修企画やコンプライアンス教育を実施。著書:『 令和時代の内部統制とリスクコントロール』翔泳社他

ビジネスの失敗に隠された成功のヒント

 企業をはじめとする組織や団体では、さまざまな失敗が起きる。そこには多くの教訓があり、苦い経験にこそ成功に向けた豊富な学びが隠されている。失敗から成功のヒントを学び取る逆算の発想を使って、失敗を将来の糧として活かす必要がある。

ハラスメントが企業価値の毀損や信頼失墜をもたらす

 2020 年6 月から、内部通報制度が従業員301 人以上の組織や団体に導入が義務づけられ、多くの企業で反倫理的な実態を通報できるようになった。通報の中には、ハラスメントに関する苦情や通報も多く寄せられる。とりわけハラスメントはセンシティブな問題であるため、企業として対応を誤ると、人権侵害を放置したことで、企業経営者や責任者が法的な責任を追及されることになりかねない。

 中でも、創業者や幹部層に権限と情報が集中し、ガバナンスが未成熟な組織、たとえばワンマン会社など、周囲が反対意見を述べられない状況下では、経営への悪影響、企業の信頼の失墜や企業価値の毀損につながるリスクをはらむ。

第三者委員会や判決に見るハラスメントの実情

 ハラスメントに関して、第三者委員会の報告書や事例を概観してみよう。

1.失敗事例1:JP ホールディングスの事例

 第三者委員会による調査報告書によれば、前代表者(創業者)は、集中する権限を背景に「日常的に、東京支社のフロアに響き渡るような大声で役職員を怒鳴りつけ、時には手元の書類やペットボトルなどを投げつける、役職員に対して、時に侮辱的・差別的発言をする、些細なミス(前代表者(創業者)からの電話に対して3 コール以内に出なかったなど)で始末書を頻繁に書かせるというものであり、周囲の従業員は(中略)萎縮し、前代表者の機嫌を伺って行動をする(前代表者に怒鳴られないようにどうすればいいかを優先的に考える)という状況になっていた」。前代表者は第三者委員会のヒアリングで大声による叱責は認めながら、それ以外の行為は否定した。

2.失敗事例2:原告逆転勝訴の事例(横浜セクシャルハラスメント事件、東京高裁)

 上司の営業所長は、同所勤務の女性従業員を抱きしめ、身体を密着させてわいせつな行為を20 分間にわたり執拗に続けた。女性従業員が会社を訴えてからは、嫌がらせのために仕事を与えないなどのパワーハラスメントを働き、退職に追い込んだ。女性従業員は、慰謝を求めて裁判に訴えたが、個々の行為に関する立証や証拠に欠けていたため、一審の横浜地裁では被害者(原告)が敗訴した。しかし控訴審の東京高裁では、一転して被害者(原告)の供述の信ぴょう性が認められ、逆転勝訴を勝ち取った。

失敗から逆算するための解説

 失敗から教訓を導き出す視点がどこにあるのか、企業経営を前提に挙げてみる。

1.パワーハラスメントが組織に及ぼす影響

 失敗事例1 で取り上げたパワーハラスメントとは、職場で行われる優越的な関係を背景とした言動で、仕事の上必要な範囲を超えているために、従業員の就業環境が害されて本来の能力を発揮することが困難になる状況をいう。言動がさらに暴行、傷害や脅迫に及べば刑事上の責任が追及され、相手が精神的な疾患を病むなどのダメージを被れば、民事上の損害賠償も求められる。

 加えて第三者委員会は、前代表者の機嫌を損なわないように備えるなど、役職員を委縮させてしまうハラスメント行為が、会社経営上重大な影響をもたらしかねないことを指摘している。ほかにも有能な人材の流出、そのための人手不足や補充採用コストの増加、企業の評判の低下に関わるリスクも想定できよう。

2.セクシュアルハラスメントが組織に及ぼす影響

 失敗事例2 で挙げたセクシュアルハラスメントとは、職場で行われる従業員の意に反する性的な言動や行為である。男性の女性に対する被害にとどまらず、その逆や同性間でも起こる。個人としては民事、刑事の責任に加え、会社の就業規則に基づく懲戒処分による責任も免れない。

 組織に対する影響として信頼の失墜はもちろん、企業価値の毀損や取引へのダメージが想定される。さらに判決は、個人の責任に加え、会社に対しても個人への賠償責任を果たすことも求めている。つまり会社が使用する従業員が、ほかの第三者(従業員)に損害を与えた場合に、会社は賠償をしなければならない。使用者責任といわれ、会社が組織としての管理責任を担えなければ、賠償責任を負うことを念頭に置いておく必要がある。

失敗から逆算して得られる豊富な教訓

 失敗にこそ、本当の教訓が隠されている。企業の規模に関わらず、今回の失敗から次の教訓と失敗に陥らない、成功への対策を学び取る必要がある。

■ハラスメントに対する毅然とした方針の表明

 ハラスメント防止とそれが起きた場合の厳正な対処方針について会社が表明し、根拠となる就業規則への反映を行う。

■相談体制の整備

 失敗事例1 で見た企業は、その後ハラスメント撲滅宣言を行い、相談窓口に相談員を任命するなど、さまざまな改革に取り組んでいる。

■プライバシー保護と不利益な取り扱いの禁止

 ハラスメントについて内部通報制度による通報があった場合、通報者の秘密を守り、決して不利益な取扱いをしてはならない。他方、事実関係の調査からハラスメント行為が明らかになった場合は、厳重な処分を行うことが肝要になる。

■ワンマン型ヒエラルキーの改革

 事業の飛躍的な推進を図るために、上層経営陣が経営の陣頭指揮を執ったワンマン型も上意下達の権限階層も、企業の成熟の度合いに応じ組織の改編を行う必要がある。職務の分掌、分担による牽制型の権限と責任体制へと変革してゆく必要があることを認識すべきである。

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