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プレス技術 連載「値決めの鉄則」

2024.12.13

第6回 目からウロコ!? 加工費の正しい計算方法

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西田経営技術士事務所 西田雄平

にしだ ゆうへい:代表取締役
2009年、大学を卒業後、ミネベアミツミ㈱に入社し購買管理業務に従事。24歳のときにタイ工場に赴任。現地マネジメントに加え、現地の経営者とタフな商談や価格交渉を経験。2015年、西田経営技術士事務所入社。全国の中小製造業へ「収益改善プログラム」を導入。原価と値決めにメスを入れ、顧問先企素の利益創出に億単位で責献。主な著書『中小企業のための「値上げ・値決め」の上手なやり方がわかる本』(日本実業出版社)。
https://www.ni-g-j.co.jp/

※記事の無断転載は固くお断りいたします。
 今回のテーマは加工費の計算です。多くの企業ではチャージ(レート)と呼ばれる数字を用いて加工費計算を行っていますが、その中身をつぶさに見ていくと非常にいい加減であることがほとんどです。しつこいようですが、原価がいい加減だと儲かる値決めはできません。個別製品の損益判断ができず、黒字顧客なのか赤字顧客なのかの区別もつきません。これから自社が向かう方向性を決めるためにもビシッとした原価が出せるようになってほしいと思います。

加工費の位置付け

 まずは、加工費の位置付けから見ていきましょう(図表1)。今回は点線で囲んだ部分について、加工費として考えていきます。
図表1 原価の構成(例)

図表1 原価の構成(例)

なぜ加工費は「マン」と「マシン」に分けるのか

 今月の最大のハイライトはここです。

 加工費をマン(人)に関するものと、マシン(機械)に関するものとに分けて考えておくことです。マンの加工費のことを「直接労務費」といい、マシンの加工費のことを「設備費」といいます。直接労務費とは、作業者の給料が製品1 個当たりの加工費としていくらかかっているのかを計算したものです。設備費とは、プレス機やタレットパンチなどの生産設備の取得費用やその維持にかかる費用が製品1 個当たりの加工費としていくらかかっているかを計算したものです。
 
 では、なぜ直接労務費(マン)と設備費(マシン)を分ける必要があるのでしょうか。

 その理由は至って単純。コストダウンのメスの当て処が一目瞭然になるからです。そして最近問題となっている人件費や経費の上昇による価格転嫁を適切に行っていくためです。

 一口に「加工」と言っても、人がズラリと並んで作業を行っている工程もあれば、機械がほぼ無人で加工を行ってくれる工程もあります。このような現場の実態を原価計算書に見える化しておくことが大切です。

 反対にこれを「加工費」とひとくくりで計算してしまうと、「何人で、何分かけて、何個作る前提なのか」とか、「給料の高い作業者なのか、安い作業者なのか」「使用する設備は高価なのか、安価なのか」「その稼働率は高いのか、低いのか」といったことが原価計算書に現れてきません。

そしてそれは間違ったコストダウンの指示につながったり、製品1 個当たりの人件費や経費の上昇率が捕まえきれなかったりして価格転嫁活動が進まなくなっていきます。

加工費はマンとマシンに分け、自社の実態を反映した数字を用いて計算できるようになっておく必要があるのです。

加工費計算のNG 例

 それでは筆者が過去に出会った「誤った加工費の計算」をされていた企業のNG 例を紹介します。読者の皆さんは自社のやり方と比較しながら読み進めてみてください。

 NG 例その1:マンとマシンに分けていない
 経験則になりますが、当社にご相談に来られる企業の7 ~ 8 割がこの状態です。

 NG 例その2:チャージ(レート)が相場で決められている
 チャージ(レート)とは、賃率と言って時間当たりの加工費のことを言います。例えば「当社の金属プレス加工は、時間当たり5,000 円だ」と定めてはいるのですが、その根拠には「ライバル社は5,000 円だと顧客から聞いた」とか「市場価格に合わせ込むには、我が社のチャージは5,000 円でなければならない」といった相場や市場価格、顧客の指値などから逆算されているのです。残念ながら、このようなもので計算した数字は原価とは言えません。

 NG 例その3:チャージ(レート)が過去に誰かが決めたきり
 非常に多いのが「何年も前に当時の担当役員であったA さんが決めたきりで、そのままになっている。しかしA さんはすでに引退して、もう会社にはいない」というケースです。当時と比べて現在は機械設備が入れ替わっていたり、運転費用が高くなっていたりするのでメンテナンスは必須なのですが、そもそもA さんがどのような根拠に基づいて算出されたものかも記録に残っておらず、手が付けられないといった具合です。

 NG 例その4:一部の工程しか計算していない
 E社では、第1工程は何億円とする設備を用いて生産を行っていました。そのため原価管理に力を入れており、原価計算書にも第1 工程の費用がしっかりと計算されていました。しかし、第2 工程である「仕上げ作業」が全く原価計算されていなかったのです。理由を聞くと「大したことないから」ということでしたが、これが大間違い。

 実績原価を正しく捕捉していくと、“利益一覧表のワーストランキング”に上がってきたのは、大半が「仕上げ作業」を行っている製品群でした。※利益一覧表とは、どの製品、どの顧客がどれだけ儲かっているのか一目で見てわかるようにした帳票のこと。詳しくは本連載:第1 回目(2023年11 月号)をご参照ください。

 NG 例その5:実際は出来もしない工数で見積っている
 H社では、これが横行していました。営業マンが顧客の指値に合うように工数をいじって見積書を作成していたのです。具体的に述べると、工場の見積り担当者は1 ラインにつき5 名の作業者が現実的に必要であると言っているのに、「それだと市場価格に合わないから」という理由で勝手に作業者を3 名に減らした原価で見積りしてしまっていたのです。

 引き合いの段階では儲かるかのように見えますが、いざ量産になってみれば赤字です。実際には5 名の作業者を投入してもの作りを行うわけですから、当たり前ですよね。
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