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工場管理 連載「キラリと光る技術をM&Aでつなぐ」

2025.10.21

第7回 トラブルに巻き込まれないために重要なこと

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スピカコンサルティング 鈴木 裕太

すずき ゆうた:製造業支援部 M&Aコンサルタント アメリカ生まれ、福岡県育ち。関西学院大学理工学部卒業後、2020年に新卒でキーエンスに入社。2024年スピカコンサルティングに参画。
URL:https://spicon.co.jp/
 2024 年は、M&A に関する譲受企業側の悪質な詐欺やトラブルがニュースに取り上げられ、M&Aを検討している経営者にとって不安な情報が増えているように感じます。
 
 本来M&A は、双方がメリットを享受し、契約を締結のうえ、慎重に行われるものです。ではなぜ、このようなトラブルが増え、後を絶たないのでしょうか。今回は、その点について“実態や注意点”、そしてトラブルに巻き込まれないための“対策”について解説していこうと思います。

 M&A で失敗をしない経営者が少しでも減っていけばという想いでお伝えしてまいります。

ルシアンホールディングス事件とは

 メディアでも大きくとり沙汰されている「ルシアンホールディングス」の事件(以下、ルシアン事件)は、皆さまの記憶にもまだ新しいのではないでしょうか。ルシアン事件の概要は、経営状況が悪化している複数の中小企業に対しM&A を行い、相次いで売り手企業を倒産させ、さらに売り手企業の経営者・役員らに多額の負債を残したとする詐欺事件です。2021 年秋ごろから、日本全国で30社近い企業の被害が発覚し、譲渡企業にとっては非常に不幸な事例となってしまいました。このルシアン事件は、振り返ってみると不審点がいくつもあったといわれています。

 事件の特徴は、“買収先の現金の抜き取り”と“経営者の個人保証の未解除”にあります。買収後、さまざまな理由をつけて自社の口座に現金を振り込み、従業員の給与や金融機関への返済、取引先への支払ができず資金繰りが悪化、最終的には経営の存続危機に陥るという状態になりました。また、代表者の個人保証は通常買い手側に引き継がれるのが一般的ですが、本件の場合その約束は守られませんでした。

失敗しないように注意すべき3 点

 被害にあった企業には「経営状況が悪化している」という特徴があります。このような場合、売り手(譲渡)企業側は買い手(譲受)企業よりも不利な立場で交渉が進むケースが多いです。

 「債務超過で慢性的に赤字経営が続いてしまっている」、「経営者が高齢になっているが引継ぎ準備ができておらず後継者を急いで探している」など、譲受企業から見て複数の課題があり手がつけられない状況であると判断されてしまうと、通常はM&A での譲渡は難航します。そこで上記のような状態にならないために、注意すべき3 点について解説していきます。

1.早めの準備を進める

 M&A は、実際に動き始めてから交渉が成立するまで短くても6 カ月~ 1 年ほどかかります。多くの資料収集や譲受企業との交渉に時間を要すためです。いい相手先を見つけるためには、譲受企業の買収投資のタイミングを逃さないためにも、常にアプローチを受け入れられる体制であることが重要になってきます。普段から自社の立ち位置を確認し、評価と改善のサイクルを続けていくことで、相手先から見てもいい状態にブラッシュアップされていき“選ばれる側から選ぶ側”の状態になることが可能です。また、そのような状態になってくると複数の相手先から手が挙がり、不審な相手先が出てきても不審さが浮き彫りになるため相手先として選ぶことはなくなります。

2. 決断は慎重に行う

 M&A 業界では、“準備は早めに、決断は慎重に”が鉄則といわれています。M&A仲介から判断を急かされたり、納得がいかないまま進めたりすることは、後々のトラブルに遭遇したり後悔を招くことにつながります。不明点や不審点を、すべて洗い出した状態で進めるようにしましょう。また、ほとんどの経営者にとって譲渡の経験は人生で一度きりであり、そもそも不明点や不審点には気づけないことがほとんどです。信頼のできるM&Aアドバイザーや顧問税理士の力を頼るべきです。

3. 情報漏えいに細心の注意を払う

 M&A は、機密性が高く情報が漏えいしてしまうと事業上のリスクや従業員の不安を煽ることになりかねません。そのため、必ず「NDA(Non-Disclosure Agreement)」と呼ばれる秘密保持契約書を締結のうえ情報を開示し、譲受企業側には社内で情報を共有する際の管理も徹底してもらいます。しかしながら、それでもなお情報が漏れてしまったり譲渡企業オーナー自身が話してしまったりするケースを耳にします。

 M&A 仲介との契約のうえ進める場合は、このような情報漏えいのリスクを一元管理し、万が一漏えいした場合にも漏えい源を追える状態にするために“専任契約”でアドバイザリー業務を進めるケースが多く、その中で“直接交渉の禁止”についても締結することがあります。M&A の実施期間は長きにわたり、オーナー自身の多大な労力とストレスの負担が生じます。そういった点からもプロの経験と知見を頼ることも検討が必要です。

仲介会社の選び方

 数多くある仲介会社の中からどのように選んだらよいのかわからないという声もお聞きします。ここでは仲介会社とアドバイザーの理想像についてお伝えいたします。
M&A 仲介会社の選び方

M&A 仲介会社の選び方

1. 製造業特有の動きを把握しているか

 M&A の仕組みや流れ、事業承継といった一般論ではなく、製造業特有の課題や最新動向、業界特有のトラブル事例や論点などを知っているかどうかが大切です。見極める際には、専門用語や業界特有の話題を投げかけてみてください。同じ業界にいる人間同士だから理解できる“共通言語”で会話できる相手なら安心です。

2. 自社(クライアント企業)を理解しようとしているか

 決算書に表れる定量的な部分だけでなく、貴社ならではの定性的な強みや弱みについて理解しているかどうかです。特に製造業の場合は、現場の設備や技術は決算書に表れない部分が多く、アドバイザーが技術を深く理解できていくかどうかは非常に重要な要素となります。

3. 迅速な対応をするか

 迅速な対応はビジネスにおいて基本ですが、最初だけはよかったがアドバイザーとして選定した後に連絡が滞ったり、いい加減になったりすることがあると聞きます。具体的に、どのようなスケジュール感で何をするのか明確な相手を選ぶことをおすすめします。
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 M&A 仲介業者はトラブル回避のポイントや、M&A の成功を導くための論点を熟知しています。信頼できるアドバイザーを見つけ、二人三脚で成功までのストーリーと、譲渡後の人生についてもイメージしながら時間をかけて議論していくことが重要です。M&A はゴールではなく、本来企業同士が手を取り合って新しく再スタートを切るタイミングです。M&A を今後検討される方、現在検討されている方が、満足のいくM&A ができることを心より願っております。

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