人材不足・人材教育の問題への処方箋
大髙
デジタル技術の重要性が増している背景にあるのが人手不足です。皆さんの会社では人材採用や教育、技術伝承などで工夫していることはありますか。
渡邊
当社は日本人の若い人材が少なくて数えるほどしかいません。現場は半数が外国の方で、若手というとほぼ全員外国の方です。当社はベトナム工場があるので、やはりベトナムの方が多いです。
松原
当社も同様で日本人の若い人材は少ないですね。現場は基本的にベトナム人が担っています。当社グループ全体で言うと従業員約600 名のうちベトナム人は約500 名。だから、当社では人手不足という問題は日本で広く言われているほどには感じていません。日本人で優秀な若者を当社経営陣の後継者として育てなければとも思いますが、個人的には日本人でもベトナム人でも、能力ややる気といった適正さえあればこだわりはありません。
近藤
当社の場合は逆で、20~30 代の方はわりと現場にいて、海外の方は今年初めて2 名採用したという状況です。技術伝承については、ちょうど私の社長就任時から、社内の20~30 代の社員を集めて会社の未来を考える「ムツミアップデートプロジェクト」という活動を行っています。
まだ始まったばかりなので実績があるわけではないのですが、彼らも彼らの視点で「今後どうしていけばよいか」を考えてくれていることがわかりました。その中で出てきたのは、社内教育をある程度体系化するということ。「入社後のこの時期までにこの作業を教える」という目標を立てて教育を進め、加工テストで仕上がりの精度や段取り時間を主任と課長が評価し、良い点と改善点をフィードバックするという仕組みを彼らが考案してくれました。
うまくいけば本人も自分の成長が自覚できるし、先輩たちもどう教えればうまく伝わるのか考えるようになるはずです。また、このプロジェクトによって、すり合わせ技術のように昔からある重要な技術が失われるのを防げるのではないかとも期待しています。今はマシニングセンタ部門だけで行っていますが、うまくいけば対象部門を広げていきたいと考えています。
大髙
それは良い取組み事例ですね。教える側も試行錯誤しながらという感じでしょうね。
近藤
もう40 代くらいの上司たちはめちゃくちゃ悩んでいますよ。どう教えるとよいのかとか、言い過ぎるとやめちゃうかもしれないとか。
渡邊
そこはチャッピーが役立つと思いますよ。人材教育は金型業界に限らない全国共通の話題だし、良い対処法を考えるヒントを教えてくれます。
大髙
先ほどベトナムの話が出てきたので、国際情勢の話をうかがわせてください。本日6 月現在、中東情勢に伴うナフサ不足や中国の輸出制限によるタングステン相場の高騰などがメディアで話題になっていますが、そのあたりの影響はいかがでしょうか。
渡邊
困ってはいますが、今日明日どうにかなるという話ではないですね。今は政府が供給の偏りを是正するよう動いているそうなので、私としてはそれを信じています。あと2~3 カ月で少し落ち着くのかなと冷静に受け止めています。今は政府のお達し通り、昨年と同じ量の注文をかけて、あとは待つという状態にしています。ただ、実はベトナムでは石油が不足するという話は聞かないんですよね。
松原
そうですね、ベトナムでは騒がれていないですよ。だから、当社の場合、いざとなればベトナムから材料を送ってもらうという手も考えていました。向こうで調達しているものはわれわれが日本で使っているものと品質もほぼ同じものなので。
大髙
そういう状況というのは少し意外でした。私は知らなかったです。
松原
「日本はどうですか。足りなくなったら教えてください」と心配して聞いてきてくれていました。ただ、輸入ライセンスの関係で実際には材料の移転はそんなに簡単ではないんですが。
地域連携・産学連携で広がるつながり
大髙
中小企業が生き残りを図るうえでは、企業間連携や地域連携、あるいは産学官連携など、外部とのさまざまな連携が重要になってくると思います。皆さんの取組み状況はいかがですか。
近藤
私と渡邊さんは日本金型工業会の分科会「かながた小町」で頑張っています。会長は渡邊さんが務めています。金型業界で女性が活躍できる環境を整えることをミッションに掲げて、工場見学やセミナーなどを開催したりしているのですが、何より企業間で女性同士が交流を図れることが大きな価値になっています。
渡邊
社内では相談しにくい女性ならではの悩みを共有したり、「自分はその壁をこう乗り越えた」といったアドバイスを先輩からもらったり。ぶっちゃけトークが出ることもあっておもしろいですよ。
近藤
最近で一番うれしいのが、リピートで参加してくれる方が結構増えてきたこと。参加者の方々からは「話ができる関係がありがたい」と言ってもらえています。
大髙
ムツミ工業では、地元の学校との連携も行っているそうですね。
近藤
はい。地元の工業高校では3 年次に1年間かけてチームでモノづくりを行う「課題研究」という授業があるのですが、その中の1 チームと連携して活動しています。きっかけはMEISEI が行っているペットボトルキャップのアップサイクルの取組みを紹介いただいたことでした。私たちもプレス金型メーカーの立場でキャップを板材に加工してアップサイクルする取組みを始めて、「こうしたテーマで何か一緒にできれば」と付き合いのある先生方にもちかけて実現しました。
渡邊
金型メーカーとして「生徒と交流したい」と学校にもちかけてもなかなか扉が開かないんです。そもそも先生が金型を知らない。でも、環境の話題から入っていくと不思議と一気に扉が開きます。先生や保護者の方々にも興味をもってもらいやすいのでしょう。
大髙
学校との連携は、将来の就職先として自社を候補に入れてもらうという点で非常に重要ですね。渡邊さんのところはいかがですか。
渡邊
当社の場合は、地域の祭りやイベントで、来場者の方々にプラスチックのリサイクルやアップサイクルを体験してもらうワークショップを開いています。言わば地域全体との連携ですね。その中で重視しているのは「モノ」より「コト」。細かく刻んだペットボトルキャップを溶かして卓上成形機でキーホルダーを成形するという体験を通じて、金型やプラスチックのことを広く知ってもらいたいと考えています。おかげさまでさまざまな業種の人からお声がけをいただけるようになって、いろんなイベントに参加しています。
松原
子供が興味をもてるというのが一番いいですよね。当社は今は産学連携がメインで、ちょうど今年初めから金属積層造形(AM)の分野で岐阜大学とコンソーシアムを組んでいます。豊田自動織機や大同特殊鋼など名だたる企業が集まりました。私自身は今春まで、金属AM をもっと日本に普及させたいという思いで、経済産業省素形材産業室のAM検討会という有識者会議にも参加していました。金属AM 技術の可能性やおもしろさがまだあまり知られていないと感じていて、それが学生の方々にもっと伝われば素形材産業に興味をもつ若者も増えるはずだと思っています。
近藤
3D プリンタが出た当初、日本のダイカスト金型や射出成形金型も変わっていくだろうと受け止めていたのですが、意外に広がらない印象ですよね。そのあたりは以前から気になっていました。
松原
理由はいくつかありますが、やはり切削加工と比較して品質保証の規格が非常に少ないことが大きいですね。欧米では良いと思ったらまず使ってみて、そこで得られた成功事例がエビデンスとなって規格ができていくのですが、日本ではそういう流れが生まれにくいので採用も進まない。だから私は岐阜大学のコンソーシアムで金型における金属AM の規格をつくろうと思っています。それでAM の普及が進めばコストの問題もクリアできるようになるはずです。
渡邊
私としてもぜひ頑張ってほしいです。AMは金型の補修技術としても優秀じゃないですか。
松原
そうですね。これから補修のところはすごく伸びていくと思います。
50周年を目指して
大髙
今回は型技術協会40 周年企画ということで、協会員である皆さんが型技術協会に思うことや今後期待することなどを教えてください。
松原
型技術協会は、参画している企業の規模に関係なく技術交流ができる唯一の協会で、自社だけでは得られない知見や人的ネットワークを構築できることが大きな財産になっています。一方で年齢層が高めで、若い方や女性が少ないことが気になっていて、そうした方々が気軽に参加して活躍できる部会のようなものがあってもよいのではと感じています。
渡邊
当社は型技術協会には父の代からお世話になっていますが、技術的な交流をしっかりやっている印象です。セミナーにも何度か参加させていただきました。松原さんがおっしゃるところは私も同感ですね。
近藤
日本金型工業会は中小企業、型技術協会は大手企業で棲み分けされていると言われるのを聞きますが、そういう意味で型技術者会議などへ行くと、大手企業が手がける最新の金型技術を知ることができるのは中小企業としては非常に魅力的だと思います。逆に言えば、大手企業の名前が連なり、重鎮の方が多くいらっしゃるのを見ると、中小企業の方々は気後れする場合があるかもしれません。
大髙
皆さんの意見からの思いつきなんですが、先ほど話に出たかながた小町と型技術協会が絡むことって可能でしょうか。日本金型工業会と型技術協会が横断して交流する機会があってもよいのではと思って。
渡邊
もちろん問題ありません。呼んでいただければ、私たちはどこにでも行きますよ。かながた小町を若手や女性が参加する入り口に使っていただくのはいいんじゃないかと思います。
近藤
いいですね。そうした出会いがきっかけとなって、熟練の技でこれまでの金型業界を支えてきた世代とデジタルネイティブ世代がうまくつながれたら、すごく良いものが出てきそうな予感がします。日本の金型技術の強いところを活かすきっかけづくりの場にできるかもしれません。
大髙
今日皆さんと話してみて、日本の金型業界もまだまだいけるんじゃないかという手応えを感じました。型技術協会も50 周年を目指して今後も金型業界の振興を支えていってもらいたいです。本日はありがとうございました。