型技術 連載「モノづくりの未来を照らす高専突撃レポート」
2025.09.10
第14回 学生主導で電気の世界を探求 E プロジェクトが示す新しい教育の形
フリーアナウンサー 藤田 真奈
ふじた まな:大阪府出身。元とちぎテレビアナウンサー。関西学院大学卒業後、金融業界の企業に就職。その後転職してアナウンサーに。とちテレニュース9(とちぎテレビ)、アクセント!、ミライを照らせ~KOSEN*Passport to the world~(ともに栃木放送)、Berry Good Jazz(Radio Berry)などに出演中。
Instagram:mana.fujita
自然とアートと技術の調和 宇部市が育む未来のエンジニアたち
山口県の南西部、瀬戸内海に面した美しい海岸線が広がる宇部市。温暖で雨の少ない瀬戸内式気候に恵まれ、週末のハイキングに適した荒滝山や、街中に点在する約200 の彫刻など、自然とアートが調和した魅力的な街並みが広がっています。
そんな宇部市に位置する宇部工業高等専門学校(以下、宇部高専)には、電気にまつわるさまざまな分野について学びを深めている電気工学科の学生たちで組織するグループ「E プロジェクト」があります。以前は女子学生を中心とした団体「PE-girls(PowerElectronics girls)」として活動していましたが、性別関係なく参加できるようにしようと2021 年度にリニューアル。名前を変えて活動を継続しています。
電気の魅力を自由に発信! E プロジェクトの挑戦
E プロジェクトがおもしろいのは、決まっているのが「学内外に電気工学の魅力を伝える」という目標のみというところ。この目標を達成するために、誰を対象に、何を題材にして、どのような活動をするかというのはすべて学生に委ねられていて、学生たちが自らテーマを決めて活動を行っているというから驚きです。現在は75 名が所属していて、テーマごとにグループを組んで研究開発を進めています(図1)。今回は、そのうちいくつかのグループの学生にお話を聞きました。
図1 各グループのリーダーと指導教員の吉田雅史准教授(写真左端)(写真提供:宇部高専)
1 つ目は「手づくりのモータを使って電動カーを走らせる」というグループです。このグループは、巻き数やパターンを工夫したモータをつくったり、ドライバーのプログラミングなどを行ったりして、レースで完走することのできる電動カーをつくり上げることを目標に活動しています(図2)。以前に宇部高専に勤務していた先生から引き継いだ取組みで、現在は車好きの学生たちが集まって日々試作を繰り返しているのですが、アクシデントがつきもののようで…。ある学生は、モータを動かすために必要不可欠な部品、インバータを壊してしまった経験が忘れられないと話してくれました。実験中、モータに必要な出力の大きさを見誤り、インバータに普段よりも大きな負荷をかけてしまったことが原因だったそうですが、こうした経験からしっかりと事前に出力計算を行うことの重要性を再認識したと言います。
図2 製作した電動カーと学生たち(写真提供:宇部高専)
2 つ目は、「地域のイルミネーションイベント参加」に向けたグループです。宇部市内の公園(ときわ公園)を会場に行われたイベントを自分たちの作品で彩ろうと、学生たちが知恵を出し合って製作したのは、その名も「ときわ公園の動物たちと座れるベンチ!」(図3)。
図3 学生たちが製作したイルミネーション「ときわ公園の動物たちと座れるベンチ!」(写真提供:宇部高専)
ときわ公園らしさもありつつ、見るだけでなく触れられるものがつくりたい!というメンバーのアイデアを活かしてつくられました。ときわ公園にちなんだ動物たちのモチーフを取り入れ、訪れた人たちが座れる「ベンチ」という形状になっています。当初は多くの人が全方位から座れるように設計していましたが、設置場所や動物たちの配置を考える中で少しずつ修正を繰り返し、最終的にはイルミネーションがきれいに見えることを最優先に完成させました。製作段階では、学生たちがまだ授業では習っていない高度な技術が必要になる場面もあったそうで、先生や上級生のアドバイスを受けながら作業する場面も多かったと言います。
そして3 つ目は、「電気の良さを伝える」グループです。このグループでは、地域の小中学生向けの工作教室を開いています(図4)。直近に行われた工作教室は、特定のライン(黒い線)を追跡しながら動く「ライントレーサー」という車を製作するという内容で開催し、子供たちはセンサの感度調整やライントレーサーを正確に動かすためのライン描きを体験しました。
工作教室で取り組む内容は、学生たちが授業では直接扱うことのないものも多く、その都度勉強しながら準備を進めているため、通常の授業よりも学びを深められているのだそうです。企画段階で常に考えているのは、難しいことを説明せずに、いかに子供たちに楽しんでもらうかということ。この教室に参加した子供たちが、将来自分たちの後輩になってくれたら…と目を輝かせていた姿が印象的でした。
主体性が織りなす学びの連鎖 日本のモノづくりを支える新たな教育モデル
ここまででも十分素晴らしい取組みなのですが、さらに驚いたのは、こうした各グループに加えて、E プロジェクトで活動するすべてのグループを統括して管理する役割の学生がいるということです。
具体的には、オープンキャンパスでの学外の人に向けたE プロジェクトの紹介や、メンバーを増やすための校内向けの勧誘活動。また、より良い活動ができるように、各活動チームのリーダーを集めた中間報告会に、交流会の開催。そのほか予定管理、設備利用についての呼びかけなどなど、言うなれば「プロジェクトを存続させていくための業務」を任されているのです。
学生がやりたいことを見つけて、やりたいように動く、そして活動しやすいように支えてくれる学生の存在もある。お話をうかがう中で、E プロジェクトは学生が主体性をもって主体的に取り組んでいる活動そのもので、これこそが「主体性を育む教育プログラム」なのだと感じました。また、この活動を通して、主体性だけでなく技術力、創造力、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力も培われます。こうした能力を携えたエンジニアがどんどん社会に出ていくことで、日本のモノづくりは活性化されていくことでしょう。