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機械技術 巻頭インタビュー「独自技術で光る日本の機械加工現場」

2025.06.23

薄形状加工とアルマイト処理の技術を活かし、事業領域を広げる―コアマシナリー

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コアマシナリー㈱ 代表取締役
岡本 真樹氏

Interviewer
オーエスジー㈱ 今泉英明

 半導体製造装置の部品加工を手掛けるコアマシナリー(京都府福知山市)。作業者が自身の高度な技能や判断を活かせる職場を目指し、工作機械への加工物の着脱を自動化した、効率の良い生産体制を構築。需要変動が激しい業界で競争力を磨いている。近年は、自社製品の企画・販売で新しいビジネスチャンスも探る。率いるのは岡本真樹社長。事業承継後、企業風土の改革と社員の意欲向上のために奮闘してきた。岡本社長にこれまでと次の成長に向けた取組み内容などを聞いた。
岡本真樹代表取締役

岡本真樹代表取締役

精密機械加工と表面処理の2 本柱

今泉

手掛けるモノづくりを教えてください。

岡本

半導体製造装置や光学系の部品加工とアルマイト処理を手掛けています。部品加工に関しては、たとえば、半導体材料洗浄工程に使用される装置に組み込まれる機構部品があります。製品の厚みを2~25mm 程度に仕上げるものが多いです。加工実績としては0.3mm もあります。薄い形状はそりやひずみの抑制がポイントで、お客様の要求を満たすための加工・管理技術が独自性だと認識しています。
アルマイト処理は普通アルマイトと硬質アルマイト、カラーアルマイトが可能です。材質は展伸材や鋳物、数量は単品と大ロットに対応できる処理設備を保有しています。1 級アルミニウム陽極酸化処理技能士が在籍しており、正確な知識に基づいた、確かな品質を提供できます。
アルマイト処理(写真提供:コアマシナリー)

アルマイト処理(写真提供:コアマシナリー)

事業の変遷を教えてください。

もともとは、近隣の大手ねじメーカーのカメラ事業部の兄弟会社という位置づけで、カメラ部品を手掛ける同族経営のオーナー企業でした。創業した1970 年代当時は板金・プレス加工による部品を製造していました。その後、お客様が移り変わり、切削による真ちゅう部品を手掛けたことをきっかけに部品加工に参入しました。半導体製造装置の分野を手掛けるようになったのは90年代初頭からです。

岡本社長がモノづくりに携わるきっかけは。

私はもともと京都府の臨時職員でした。任期を終え、新たな職場として、事務職で定時に帰宅できる職種を探していたときに見つけたのが当社でした。創業者や歴代の社長が親族というわけでもありません。モノづくりに対して特別な思いはありませんでした。
ただ、入社してから、自分も加工現場で作業すると、金属加工やモノづくりの面白さに気が付きました。最初はスクレーパーによる部品の面取りを担当しました。その後、ボール盤で穴あけをしたのですが、切りくずが出たときは面白かったです。自分が手を加えて物の形状が変わる面白さに気が付きました。その後、G コードを覚え、マシニングセンタ(MC)を使って初めて円弧加工ができたときは感動しました。専門教育を受けたわけではなく、高度な技能ももっていなかったのに、今、金属加工業の経営者になっているので人生何があるかわからないですね。

モノづくりへの適性があったからでしょう。スムーズな従業員承継だったのではありませんか。

まったく違います。前経営者は癖が強い方だったので、ものすごく大変でした。親族でも何でもない社員が経営幹部になり、その後に事業承継する例はありますが、普通は、承継後に円滑に事業継続できるように前経営者はそれなりの段取りやサポートをしますよね。しかし、当社はそうではありませんでした。私が社長になった後も株式は前経営者が保有していました。なので、経営に関する意思決定が私個人でできないのです。複写機を入れ替えるのも時間がかかる。高機能な工作機械やシステムなどの導入であればなおさらです。かといって、私には担保になる資産がないので株式を買い取るお金が借りられない。
そうした中で銀行が驚きのスキームを提示してくれました。私個人ではなく会社にお金を貸して、それで、株を買い取るという仕組みです。最終的に銀行の支援を受けて実施しました。2016 年のことです。

銀行や中小企業を題材にした小説みたいですね。

今になったからこの経験を詳細に話せますが、当時はどうすることもできず、自分はどうなってしまうのか不安でした。事業承継について整理がついた後は早急に組織風土改革に取り組みました。これまでの経営陣の主義や思想は現場の士気を高めるものとは程遠く、自ら行動するマインドがありませんでした。加工技術の面でも相当遅れていました。
社員と対話してみると、これまでの企業風土や仕事の仕方について、問題意識をもっていることがわかりました。私の想いや方向性にも理解を示してくれました。社員のマインドは少しずつ前向きになっているように感じました。もう1 つの課題だった加工技術については、17 年にCAM を導入したことが転機になりました。「それまでずっと手打ちでプログラムをつくっていたの?」と思われそうですが、本当なのです。現場のMC のオペレータはCAM の必要性を認識していましたが、導入を提案したところで決裁が下りないことがわかっていたのでしょう。展示会で見るCAMや自動化システムは当社にとってはファンタジーの世界でした。
主力加工機のマシニングセンタ

主力加工機のマシニングセンタ

CAM 導入がきっかけで生産性向上を実感

CAM なしでもMC は運用できますが、もったいない気がします。

シングルブロックで運転して、プログラム内容を確認していました。CAM を導入した当初は、「使わない方が早い」と従来のやり方に戻してしまうオペレータもいました。しかし、使用していくうちに間違いなく、早く狙った形状や寸法に仕上がることが実感できるようになり、そこから活用が進みました。現場に聞くと、今でもCAM が算出したデータでの加工を見ているとじれったく感じるときはあるそうですが、それでも品質が安定し、早く仕上がるという認識は定着しました。先進の技術を導入したわけではないのですが、大きなインパクトがあった出来事でした。
こうしたきっかけで、技術トレンドに興味をもつことや導入による生産性向上の意味を考えることができるようになりました。工作機械へのワークの着脱を自動化するのは一般的ですが、当社のように人手が限られた現場は、複雑な段取りや判断が必要な工程に人を配置できるので、生産性が高まるのです。
ロボットを活用した着脱工程の自動化の仕組みを構築

ロボットを活用した着脱工程の自動化の仕組みを構築

合理化ができて、生産性が高まると社内に勢いが出て、現場の意欲が向上すると感じます。

技術の導入に加えて、自社製品の企画と製造にも取り組みました。「ソリッドハニカムテーブル」です。アルミ製の天板とベース部、脚の3つの部品で構成し、頑丈でありながら軽量で、スタイリッシュなテーブルです。天板のハニカム構造パネルは大学の研究室が開発したもので、各部品には当社のアルミ切削技術とアルマイト処理が活かされています。直径600mm の天板の裏面をハニカム状に切削しました。中央部の厚さは12mm、先端は2mm で、強度と軽さを両立する構造を実現しました。自社製品を開発・販売したことは当社にとって大きな意味があることでした。3 次元形状についての理解が深まり、設計データの扱い方や効率的なバリ除去に最適な加工データの作成方法など、既存の部品加工事業に多くのことがつながりました。
また、この取組みがきっかけで店舗用什器の製作依頼がありました。「珍しい取組み」で終わらない成果を得ることができたと認識しています。
ロボットを活用した着脱工程の自動化の仕組みを構築
アルミテーブル(上)の裏面のハニカム構造(下)

アルミテーブル(上)の裏面のハニカム構造(下)

どんな人材も成長できる会社へ

素晴らしい取組みですね。今後は。

私個人としては、事業の継続性ということ考えています。今日の事業環境が明日も続くとは限らない。今は半導体製造装置に関連した部品を手掛けている加工業は忙しく、この流れに乗っていれば安泰かもしれません。しかし、この業界はサイクルが早いのです。常に、自社技術がどの分野に活かせるかを考えて行動しないといけないと感じています。もっと深く考えると、われわれのような部品加工業の存在は保証されているものではありません。需要がなくなる可能性だってあります。そうならないように、考えて、市場を開拓したり、付加価値を高める取組みをしなければいけないと緊張感をもっています。

そのための取組みで考えていることは。

組織風土や社員のマインドが変わり、良い方向に向いています。管理職を含めた年長者が、若い社員の面倒を見ることもできています。この数年は賃上げも実施できました。この流れを継続していきたいです。課題は中堅層の育成です。若手の育成をしてもらいつつ、新しい付加価値のある仕事をしてもらうために、経営者として何をするべきかということを考えています。管理職、ベテラン・中堅社員、若手社員のすべてに成長を実感してもらいたい。1 人でも多くの社員に自分のキャリアを自信にしてほしい。
私は携わる人を「大喜びさせたい」という思いは常にもってきたつもりです。100 点ではなく、120 点、150 点を目指し、出力を上げていきます。
おかもと まさき/ 1982 年、京都府福知山市生まれ。42 歳。2004 年、東海大学海洋学部卒業。京都府の臨時職員を経て、2007 年、田中技研(のちのコアマシナリー)入社、14 年から現職。平日夜と休日は地元の小学生にバレーボールを指導する。

いまいずみ ひであき/1957 年愛知県出身。1980 年大阪工業大学卒業後、オーエスジー㈱入社。エンドミルやドリルの設計、開発に長年携わる。特殊工具の打合せや使用状況確認のために国内外多数の切削加工現場を訪問した経験をもつ。著書に「目利きが教えるエンドミル使いこなしの基本」(日刊工業新聞社)。

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