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機械技術 巻頭インタビュー「独自技術で光る日本の機械加工現場」

2026.02.24

家族的社風と堅実さを強みに、技術開発・人づくりに挑む―大和合金

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大和合金㈱ 代表取締役社長
萩野源次郎氏

Interviewer
オーエスジー㈱ 今泉英明

 大和合金(東京都板橋区)は特殊銅合金の開発・製造メーカー。溶解や鋳造、鍛造などの塑性加工、熱処理、機械加工、非破壊検査までを社内で対応できる一貫性が強みだ。技術・製品の開発と経営の両面で独自の戦略を立て、手堅く事業を展開してきた。現在も創業から蓄積した知見に加え、IoT やAI など、先進的な技術の活用でさらなる生産性向上に取り組む。家族的な社風を大切にし、堅実にモノづくりと向き合う萩野源次郎社長にこれまでと目指す姿を聞いた。
萩野源次郎代表取締役社長

萩野源次郎代表取締役社長

溶かす・形状をつくる・熱冷・検査・加工の一貫生産が強み

今泉
 特殊銅合金について教えてください。

萩野
 銅にアルミニウムやジルコニウム、ベリリウムなどさまざま材料を混ぜてつくる合金です。製造する主な銅合金はアルミニウム青銅やクロム銅、クロムジルコニウム銅、ベリリウム銅、高力黄銅、コルソン合金などです。主な工程は溶解や鋳造、熱間鍛造・押出し/引抜き、溶体化処理、時効処理です。その後、材料検査を行い、必要であれば機械加工と製品検査を行い、梱包・出荷します。ユーザーは航空機や自動車、鉄道、船舶、半導体、通信、重電、防衛関連などさまざまな業界です。歯車やシャフト、ボルト・ナット、軸受などの部品や金型材料としても使用されます。
萩野源次郎代表取締役社長
溶体化熱処理炉(上)からフォークリフトで材料を取り出し、水槽(下)で冷却する

溶体化熱処理炉(上)からフォークリフトで材料を取り出し、水槽(下)で冷却する

今泉
 特殊銅合金を製造するのにさまざまな工程があることがわかりました。

萩野
 たとえば、析出硬化型合金の鍛造品の製造では最初の工程である溶解について知見や作業に関するノウハウを蓄積してきました。機械的強度や加工のしやすさなど、ユーザーが求める機能をもつ合金になるように、材料の配合や温度管理、混ぜ方、作業時間などについて再現性のある方法・手順を確立することも多いです。

 材料を鋳造したあとは押出し/引抜きなど機械によって形状をつくる工程もあれば、フォークリフトの掴む爪部分を改造したマニプレーターで保持した材料をエアハンマーで叩くフリー鍛造の工程もあります。フリー鍛造の工程はエアハンマーとマニプレーターの操作者が相手の動きを見ながら絶妙なタイミングでオペレーションします。素材を扱うので材料学的な知見と、装置の扱いや人手作業など技能の両方が欠かせません。こうした業界で80 年以上、事業を継続してきたことが誇りです。
エアハンマーによるフリー鍛造

エアハンマーによるフリー鍛造

今泉
 御社の独自性がわかりました。現在までの会社の生い立ちを教えてください。

萩野
 大和合金で銅合金の加工・販売、グループ会社の三芳合金工業(埼玉県三芳町)で銅合金の開発・製造を行っています。創業は1941 年、設立は1953 年です。創業者は祖父・茂です。父・茂雄が2 代目で、私は3 代目です。祖父は山口県・下関近郊の出身で旧制三高に入学したものの、健康上の理由で中退、家業である銀行業を継いだものの、その事業も整理することになり、32 歳で千葉大学工学部の前身である東京高等工芸学校金属科に入学。卒業後、現在の三菱製鋼にあたる東京鋼材でばね鋼の研究に従事するなかで、合金の製造にも関わるようになり、その後、独立しました。大和合金の前身の富士特殊金属研究所を設立し、研究開発した結晶微細化強力合金(YG ブロンズ)の生産を開始し、戦車や魚雷、そのほか重要機械部品用特殊材料として採用され、その性能が認められるとともに戦後は自動車や航空機などでも急激に需要が増加しました。

 その後、父が材料と用途の開発を継続し、国内に拡販してくれました。この流れを引き継いで、新規分野を含めて世界に拡販することが私の役割だと認識しています。

今泉
 合金製造の分野で大きな実績をあげてこられたのですね。

萩野
 現在、そして私が育ってきた70~80 年代と比べて、技術や価値観などすべて違うと思いますが、祖父と父は相当に努力したと思います。80年以上続く事業を承継していますが、幼少の頃は家業に対する理解は深くありませんでした。ただ、壊れた玩具の部品を父親が砂型鋳造でつくってくれたときは、純粋に「すごい」と思いました。私は次男だったので、兄が継ぐものと思って、自分の好きな分野の勉強をして、大学卒業後は大手消費財化学メーカーに入社。家庭用洗濯洗剤の商品開発に携わりました。同僚や上司に恵まれ、非常に充実していました。一方で事業を継ぐと思っていた兄もまた自分の興味・関心がある建築の道に進んで、海外で生活していました。年老いた父親が働いている姿を見て、「自分は見ているだけでよいのか」と思い、家業に入ることを決心しました。

今泉
 大きな決断だったと思います。

萩野
 前の職場では、自分が退職しても同僚に迷惑をかけないところまでやりきって引き継げるかをよく考えて、準備しました。上司にも自分の置かれている立場、考えなどを十分に説明し、理解を得られました。いろいろな思いがありましたが、次の道に進むことにしたのです。
大型素材加工用の複合加工機

大型素材加工用の複合加工機

若手とベテランにキーパーソンがいる心強さ

今泉
 事業展開で印象に残っていることは。

萩野
 2018 年の航空機分野への本格的な参入です。海外大手の航空機メーカーにランディングギヤと呼ばれる部品の素材を供給しています。従来、補修向けが中心だったのですが、新造機の部品サプライヤーになれたのです。きっかけは展示会への参加でした。最初は成果が得られなかったのですが、続けていくうちに少しずつ興味を持ってもらえて大きな話につながりました。

 ただ、出荷後、要求強度を満たしていないものがあることが判明するというトラブルがありました。試験プロセスを含め要求仕様を満たすことを条件に交渉したところ、再チャレンジが認められ、予定より1 年遅れたものの出荷が始まりました。海外メーカーは中小企業でも技術や管理力、誠実さが認められれば大手と対等に扱うこと、反面、気の緩みや甘えは禁物だということを認識しました。

 また、23 年にフランス・プロヴァンス地方にある国際核融合実験炉の重要機器の部材のサプライヤーになったことも印象的な出来事でした。

今泉
 手応えを感じている様子が伺えます。

萩野
 ようやく、会社らしくなったというのが私の客観的評価です。大手企業と取引をさせていただく中で、生産計画に基づいて進捗管理ができるようになりました。一方で人材面は急速に充実しました。社員の親族が入社するリファラル採用が多かったことに加え、近隣の女子大学から継続的に採用できるようになりました。さらに外国青年招致事業のプログラム参加者を対象にしたキャリアフェアに参加したことがきっかけで、海外出身者も入社してくれるようになりました。今では管理職で活躍する人材もいます。

 また、縁があって大手企業の技術者だった方や大学教授なども、技術顧問として当社にアドバイスをしていただいています。さらに、心強いのが、銀行出身の高校時代の友人をはじめ、さまざまな方面での古くからの仲間が加わってくれたことです。製造現場、生産技術、経理・財務にキーパーソンがいて支えてくれるのは本当に恵まれており、感謝しています。
安全に留意して集中力を高めて作業を実施

安全に留意して集中力を高めて作業を実施

基本を見直し、先進技術を活用

今泉
 今後取り組みたいことは。

萩野
 これまで、特殊銅合金の製造を主力事業にして、材料で特徴を出してきました。最近、材料の供給だけでなく、「仕上げの前段階まで機械加工した形状を供給してほしい」という要望も増えてきました。そうした要望にしっかり応えていきたい。そのためには機械加工の基本を見直す必要性も感じます。切削時の現象を理解し、切削工具の摩耗を抑制しながら生産効率を高める条件の選定、切削工具の交換の時期など、品質とコストを両立するための知見を蓄積する必要があり、管理体制の構築も必要になります。

 また、求められる形状も複雑になり、積層造形技術の知見も必要になっていると感じます。以前から、ワイヤ材料で積層造形する金属3D プリンタの活用について研究を進めており、導入を本格的に検討しています。一方で、稼働していない設備が多いことや属人化しているノウハウがあることが課題です。IoT やAI を活用し、生産性向上と次世代への承継の仕組みを整えたいです。

 手掛ける領域については、従来の自動車や航空機、重電から半導体、核融合分野などに広げてきました。こうした従来の分野のお客様を大切にしつつ、宇宙分野をはじめとする最先端分野とのつながりをつくっていきたいと思っています。国内だけでなく世界にも目を向けます。押売りではなく必要とされるものを供給したいと考えています。

今泉
 やるべきことが明確で頼もしいですね。

萩野
 いつでも薄い氷の上を歩いている気持ちでいます。一歩誤れば社員を路頭に迷わせてしまう。緊張感をもって臨んでいます。でも、家業を承継して良かったことはたくさんあります。サラリーマンをやっていただけでは、つながりができないであろう方々にもお会いすることができました。

 当社にはさまざまな経歴を持つ人がいます。ある人は「これまでの人生で春夏秋冬の時期があったけど、再び春を迎え今が楽しい」と言ってくれました。アカデミック・エリート層も普通の人も活躍できる組織にしたいと考えています。
はぎの げんじろう/ 1968 年、東京都生まれ、57 歳。94 年、上智大学大学院理工学研究科修了、花王入社。家庭用洗濯洗剤の商品開発に携わる。99 年大和合金・三芳合金工業入社、2010 年、博士(工学)取得(宇都宮大学)、13 年から現職。高校時代はサッカー部、大学ではヨット部に所属。高校、大学時の友人と定期的に交流し、仕事上の悩みを相談することで、自身の考えを整理する

いまいずみ ひであき/1957 年愛知県出身。1980 年大阪工業大学卒業後、オーエスジー㈱入社。エンドミルやドリルの設計、開発に長年携わる。特殊工具の打合せや使用状況確認のために国内外多数の切削加工現場を訪問した経験をもつ。著書に「目利きが教えるエンドミル使いこなしの基本」(日刊工業新聞社)。

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