icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH

機械技術 巻頭インタビュー「独自技術で光る日本の機械加工現場」

2025.01.24

自動化やIoT の活用で生産性向上と柔軟な働き方を実現

  • facebook
  • twitter
  • LINE

㈱カワトT.P.C. 代表取締役社長
桐田 直哉氏

Interviewer
オーエスジー㈱ 今泉英明

桐田直哉代表取締役社長

桐田直哉代表取締役社長

 加工時の材料の供給や測定、箱詰めなど機械加工に付随する工程で自動化を行っているカワトT.P.C.(山口県岩国市)。IoT 技術も活用し、稼働監視や遠隔から工作機械を制御する体制を構築して生産性向上に取り組んできた。こうした試みは多様な働き方の実現につながり、多くの中小企業を悩ませている人手不足という課題を解決。会社と働き手側の双方に大きなメリットをもたらす仕組みの確立に成功しつつある。同社の桐田直哉社長に取組みの内容と目指すモノづくりを聞いた。

自動化機器を導入して生産性を高める

今泉

手掛けている加工の特徴は。

桐田

大手住宅設備機器メーカー向けに洗面台や浴室などの水栓金具部品を手掛けています。継手部品や洗面台に設置されているオートソープディスペンサー(自動水石鹸供給栓)の筐体部品、排水溝のふたなどです。継手は円筒状の材料に穴やねじの形状などを加工します。ディスペンサーの筒状部品は外観は単純な形状に見えますが中にフランジがついていて、加工工程を工夫しています。排水溝のふたは、平板形状の材料を削るのですが、切削部分が多く、外観品質は厳格です。これらをNC 旋盤やマシニングセンタ(MC)で加工します。最近は、5 軸MC を導入し、航空機や半導体製造装置に関連した部品の加工も手掛けています。自動化機器も導入して連続稼働による生産性向上に取り組んでいます。また、機械加工のほかに集合住宅向けの樹脂配管の組立ても手掛けています。

今泉

自動化の内容を教えてください。

桐田

材料は供給機で供給し、加工後の製品はローダー装置で取り出し、測定機まで搬送して測定後、寸法や形状が仕様を満たしていれば、パレタイジングストッカが箱詰めを行います。昨年からセンサを活用したIoT 技術を導入し、稼働監視と遠隔地から加工条件の変更が可能なシステムを構築して運用しています。
ローダーで加工物を取り出して測定機まで搬送。寸法形状の測定、良・不良の判定、箱詰めを自動化

ローダーで加工物を取り出して測定機まで搬送。寸法形状の測定、良・不良の判定、箱詰めを自動化

今泉

IoT を活かした仕組みについて取組み内容を教えてください。

桐田

稼働監視はセンサとカメラを使い、加工中、段取りによる停止中、異常による停止中を判別できるようにしています。当社の機械加工で製造する製品の寸法や形状などの諸精度に影響を与える因子は温度なので、温度センサを設置してデータを収集しています。また、その情報に基づいて、切込みや送りなどの加工条件をAI が判断し、自動で補正したり、遠隔から制御できる遠隔操作の仕組みも構築しました。自動補正は、測定結果と温度変化の傾向から判定します。その傾向をもとに、たとえば、3 個前と同じ結果になるように補正するのです。当社の機械加工部門は工場が本社内と遠隔地に合計5 つあるので、不具合の解消のために管理者が現場に行く機会を減らすことができ、業務の効率化につながっています。

今泉

理想的な仕組みですね。

桐田

当社の目指す企業の在り方と課題解決の両方を達成する良い取組みになったと感じています。工場増設時は本社の近隣に設けることができれば理想なのですが、広さや環境、人材などの条件が都合良く整った敷地を確保するのは簡単ではありません。遠隔地であっても、いくつかの条件が良ければ、そこを確保するしかないのです。また、人材も機械加工に関する知識や技能を有する人材を雇用できれば理想ですが難しい。また、可能な労働時間も人によって違います。そうであれば、制約のある人材を活用するしかないのです。やる気はあるけれど、知識や技能、時間がないといった人材に活躍してもらうための方法が自動化やIoT の活用なのです。

今泉

規模や業種を問わず抱えている課題です。

桐田

当社は本社から車で2 時間ほどかかる山口県萩市に5 つ目の工場を保有しています。廃校になった県立高校の体育館を居抜きで利用しています。敷地だけでなく建物もついているわけです。そこにCNC 旋盤と搬送ロボット、検査用カメラで構成するラインを8 つ配置しました。この工場を運用するのに自動化やIoT を活用する方法が機能しています。遠隔地に工場をつくったことは人材確保の面でも有利でした。この地域の方は農業に従事している方が多いという点がポイントです。季節や天候により閑散期があり、その時期を活用したいという方やフルタイムではなくて、1日数時間だけ働きたいという方がいらっしゃったのです。専門知識を有していない人材や時間が限られている人材は雇用しづらいと感じると思いますが、実は違うのです。
機械加工を行うテックマック事業部。萩工場は高校の体育館だった施設を活用

機械加工を行うテックマック事業部。萩工場は高校の体育館だった施設を活用

制約を活かす

今泉

どういうことですか。

桐田

まず、専門知識を有していない人材を活かすには、役割をはっきりさせるということです。当社には数量が比較的多い製品もあります。その製品を萩工場で生産するのです。そういった製品は自動化が導入しやすい。作業者に高度技能や知識がなくてもできる作業を行えばよい仕組みにするのです。そのために、IoT による稼働監視や遠隔制御の仕組みがあるのです。不具合が起きた場合は、スマートグラスを活用して、その画面を本社の管理者と共有して、管理者から指示を受けて対応してもらう。これで、現状は問題なく生産できています。また、数時間しか働けないということに関してはシフト制にすればよいのです。自動化と遠隔稼働・制御の仕組みができているので、当社としては作業者に簡単な段取りを滞りなく実施してもらえさえすればよいと思っていました。だから2 名採用できればよいと思っていたのですが、15 名の応募があり、ゆとりをもって4 名採用できました。シフトも問題なく組めて、生産の計画を無理なく立てられます。

今泉

制約も考え方次第で利点になるんですね。

桐田

制約のある中で収益性を高める秘訣は自動化やIoT 技術の活用だけではありません。組織体制にも特徴があります。子育てや介護など事情を抱える社員のために1 時間ごとに有休休暇を取得したり、正社員とパート・アルバイトの雇用形態を月ごとに選択できる仕組みをつくりました。このことで女性の採用が進みました。機械加工部門は80 名のうち43%が女性で、もう1 つの事業部門である集合住宅配管組立事業は80%が女性です。多くの企業で人手不足が課題となる中でありがたいことです。

今泉

フレキシブルな仕組みを取り入れると多方面に良い影響が生まれることを再認識しました。

桐田

また、当社の管理職は創業者である会長の川戸俊彦と私のみです。あとは、5 名から10 名で構成する55 のグループが、それぞれに割り振られた月間の目標の売上金額・利益率の達成を目指す仕組みです。利益率が4%以上になったグループはその分をグループ内に配分します。「内部留保は社員の通帳へ」という考え方です。備品の購入や交際費も権限をもたせています。とにかく目標達成が至上命題で、そのために必要かどうか各自が判断する仕組みです。また、仕事がなければ、ほかのグループに“ 出稼ぎ” に行き、売上金額をつくります。人材の採用もグループに任せます。人手が足りなくて売上げがつくれないなら自分たちで人を見つけてくるのです。それでも目標を達成できなければそのグループは解散。どこかのグループに引き取られるという仕組みです。グループリーダーは経営者感覚で考えなければならないので、社員1 人ひとりが良い緊張感をもっていると思います。

企業は地元地域の雇用のために

今泉

驚きの仕組みです。

桐田

個人の多様な背景・事情が尊重できる職場を構築しようと心がけてきました。当社の考えは、経営理念に示す「企業は地元の雇用のためだけにある」ということです。そのために必要なことを考えて、実行してきたことが今につながっています。無理のない働き方で、十分な経済力をつけて生活を充実させる。「土曜日は家族のために時間を使い、日曜日は自分のために時間を使う」という考え方で会社を運営しています。また、小学校の職場見学や高校生の就業体験などを受け入れ、地域に積極的に関わることを続けてきました。そうした中で当時、見学した小学生が社会人になって、入社してくれました。当社の思いが通じた1つの出来事として励みになっています。

今泉

今後は。

桐田

現在の社員の雇用をしっかり守って、経済力をつけてもらうことです。収益性の優れたモノづくりで雇用を維持して、十分な給与で経済力をつけてさらに意欲的に仕事をしてもらう。その流れを継続していくことです。ただ、社員にはしっかりと考えて仕事をしていただく。社員も経営側も緊張感をもちつつ、お客様に評価いただき、地域に貢献できるモノづくりを続けていきたいです。
きりた なおき/ 1975 年、山口県周南市生まれ。49 歳。98 年、愛媛大学卒業後、金型メーカーを経て、2003 年に川戸鉄工(現カワトT.P.C.)入社。23 年から現職。高校まで剣道で体力と精神力を鍛えた。趣味は次男(14 歳)の剣道の応援。

いまいずみ ひであき/1957 年愛知県出身。1980 年大阪工業大学卒業後、オーエスジー㈱入社。エンドミルやドリルの設計、開発に長年携わる。特殊工具の打合せや使用状況確認のために国内外多数の切削加工現場を訪問した経験をもつ。著書に「目利きが教えるエンドミル使いこなしの基本」(日刊工業新聞社)。

関連記事