icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH

機械技術 巻頭インタビュー「独自技術で光る日本の機械加工現場」

2025.01.10

世界を駆動するシャフト製造技術を活かし、新分野でも独自性を示す

  • facebook
  • twitter
  • LINE

中山精工㈱ 代表取締役
道中 亜紀子氏

Interviewer
オーエスジー㈱ 今泉英明

道中亜紀子代表取締役

道中亜紀子代表取締役

 1950 年の創業からシャフトを一筋に手掛けてきた中山精工(大阪市東成区)。社会や経済など、モノづくりを取り巻く状況の変化に直面する中でも、顧客が求める機械部品を、仕様の品質とコストで製造するために常に研究し、知恵を絞り、供給してきた。その真摯な姿勢に対して取引先からの信頼は厚く、大手電機や重工業メーカーを顧客にもつ。2023 年には道中亜紀子社長が就任。手堅いモノづくりを続けてきた機械加工現場が次の時代に向けた成長へ、今、歩み出した。

日本社会を支える機械産業に部品を供給

今泉

手掛けている加工の特徴は。

道中

サーボモータやコンプレッサーなどの産業用製品に加え、自動車向けのシャフト形状の部品の製造を手掛けています。主力加工機は自動盤や円筒研削盤で、形状だけでなく、仕上げまで一貫して対応できます。外径を加工したシンプルな形状だけでなく、溝や深穴、横穴があったり、偏心部があったりと、さまざま形状を製造しています。
たとえば、サーボモータ向けはS45C の丸棒の切断材を、端面の旋削を行った後、ドリルでセンタ穴の加工を行い、外径を加工し、フライス、タップなどの加工を経て、溝やねじ形状をつけた後、円筒研削を行います。コンプレッサー向けは鍛造材の端面、センタ穴、外径を加工した後、深穴や横穴をあけ、偏心部の溝を加工した後、円筒研削を行います。

今泉

自社の特徴や強みとして認識している点は。

道中

創業時から現在も手掛けている工業用ミシンの上軸や下軸に使用されるシャフト部品の加工で培われた、丸物部品の加工に関するノウハウです。そのノウハウは工作機械の操作や切削工具の知識、外観形状の検査といった技能的なものだけではありません。当社は特に自動化を早くから実施してきました。現在、機械加工現場で産業用ロボットを導入して、加工する工作機械へ材料を着脱する作業を自動化する取組みが増えていますが、当社では1990 年代にはある程度の仕組みが完成し、運用できていました。現在はその後の工程にあたるバリ取りやひずみ取りの工程で使用する自動機器を自社で設計・製作して運用しています。
ロボットで材料の着脱工程を自動化

ロボットで材料の着脱工程を自動化

今泉

先進的な現場を構築していたのですね。

道中

コスト競争力をつけるために自ら取り組みました。当社の成長をけん引したのがハードディスクドライブ(HDD)に使用されるシャフト部品を手掛けたことです。大手産業用モータメーカーが取引先で、精密加工技術に加えてコストに対して厳しく指導を受けたそうです。そのときにロボットを活用したモノづくりでコストメリットを出す仕組みを研究しました。中小の機械部品サプライヤーがロボットを導入した製造を行うのは当時は珍しかったので、その取引先の社長が自ら視察に来たそうです。現在はHDD が使われることが少なくなり、当社での生産量は多くありませんが、たとえば、SUS440 の棒材を外径公差±0.0008mm、真円度公差0.001mm、表面粗さRa0.1 で仕上げてシャフトとして量産した実績があります。現在は当社のフィリピン工場で量産を手掛けています。

今泉

現在取り組んでいる自動化についてもう少し詳しく教えてください。

道中

センタ穴加工と複数の旋削加工の工程の連結やマシニングセンタ(MC)と自動測定およびバフによるバリ取りの工程を連結した自動化セルでの加工、円筒研削工程を連結した自動化ラインなどです。量産品の加工は材料の着脱工程や搬送にロボットを活用しながら、省人化を徹底して実施しています。さらに長物加工では、外周振れ測定や最大振れ部の割出しを行い、油圧シリンダーでプレスし、ワークの変形を監視しながらプレス矯正も自動で行います。こうした設備は自社で開発・設計、製作しています。円筒研削盤の自動化に際しては、「ケレ」を自社開発しました。研削負荷がかかっても滑りが発生せず、荒加工での研削しろを大きくできます。この「オートグリップケレ」は油圧もエアーも使用しないため、環境にも工場にも優しく、メンテナンス性にも優れています。
2台の工作機械と自社設計の洗浄・計測用装置を連結

2台の工作機械と自社設計の洗浄・計測用装置を連結

今泉

社内の自動化の仕組みや自社開発のケレなど、まさに独自技術だと感じました。

道中

ケレは外販も行っています。目立つ製品ではありませんが、興味をもっていただいているそうです。また、自動測定システムは、省人化に加え、ヒューマンエラーの排除にも貢献します。さらに、工程内での自動測定は、寸法補正の自動対応を可能とし、不良が発生した場合でも、発見が遅れることはありません。再製作手配も即座に行えるし、測定結果はモニターに表示され、加工機や加工日時とともに日ごとにパソコンにファイリングされます。この取組みにより、紙を基にした検査表作成作業の省人化が進むとともに、トレーサビリティが明確になり、必要な情報を即座に取り出せるようになりました。

原理原則は同じ

今泉

御社の独自性と歴史はわかりました。道中社長が機械加工に携わるきっかけは。

道中

創業者である中山五一氏の娘である、オーナーに請われてやってきました。私は機械加工の専門教育を受けていませんし、経験もありません。地方公務員や呉服、建築資材、家具の取扱い会社、飲食店など、数社の経営を経てこの業界にやってきました。その中の1 社で、オーナーの長女が私の秘書として勤めていたことが、請われたきっかけです。請われたといっても最初は「当社のような金属加工の経営者に適任な人材を探してほしい」という「経営者探しの依頼」でした。
知人には事業家や経営層として活躍する方々がおり、経営を引き受けてくれそうな方に心当たりはあったので、「そういうことであれば」と引き受けました。しかし、見つからない。そうした中で、私に声を掛けていただき2023 年から副社長として携わらせていただき、同年11 月に社長を拝命いたしました。

今泉

込み入った事情があったのですね。

道中

拝命したものの業界について無知だったので不安はありました。無知なりに自分でシャフトを製造する会社のホームページで知識をつけ、切削加工や旋盤に関するあらゆる本を読みました。そして、当社の加工品に対するクレームシートを見せていただいたときに不安が少し軽減されました。書かれていることがわかったからです。「不具合」、「発生原因」、「対策」の3 構成になっているのです。これまで経験してきた呉服や家具を扱う会社と、原理原則は同じだと気がつきました。

今泉

鋭い指摘ですね。経験は活きると思います。

道中

また、社員の方々と話をしてみると、非常に勤勉で誠実さを感じました。当社は本社が大阪ですが、製造は鳥取県倉吉市を拠点にした4 つの工場で行っています。鳥取県の方々の穏やかな雰囲気も良いモノづくりに向いていると感じました。同時に、旧知の大手電機や重工業メーカーの方に会ったときには、当社との取引口座があることも教えていただきました。人材の素晴らしさ、外部からの評価を目の当たりにして「優れた会社」だと確信しました。誇張した表現に思われるかもしれませんが「鉄の先にある未来」が見えたのです。

真の技術力をもつサプライヤーになる

今泉

現在、取り組んでいることは。

道中

戦略的な自動化で創出した人員を、人手が必要な業務に割り当てることを進めています。繰返し作業で、あまり付加価値が高くないにも関わらず人を割り当てていた工程を自動化できれば、新しい仕事を覚えてもらうことができますから多能工化が進みます。これまで当社は自動化を進めている割に単能工が多かったのです。さらに、技能検定などの資格取得も奨励します。ありきたりの仕組みかもしれませんが、正しい知識や技能を身に付けようと努力する人、身に付けた人を会社はしっかりと評価するということを伝えたい。
 また、高度な技能をもつ現場の中心的な技能者や製品に関する知見をもつ設計担当者に営業に同行してもらう取組みを始めています。現場のモノづくりの技術的な課題やコスト、納期などがわかるのはやはり現場の担当者です。営業と現場、設計の3 者が一緒に顧客とコミュニケーションをとることで、踏み込んだ深い話も可能になりますし、各担当者がそれぞれの業務を理解して新しい知識やスキルの習得の機会になります。大手企業の経営層として活躍していた人材も迎えることができたので、そこから学び、お客様への提案や交渉の仕方など営業力を高めてほしいです。

今泉

今後は。

道中

試作や少量の依頼に積極的に対応していきたいと思います。当社は大量生産の仕事を想定した考え方と仕組みで成り立ってきました。しかし、今後そうはいかない。自動化による人員の創出や戦略的な設備投資での生産性向上、精密・高精度加工技術の蓄積は欠かせません。適切な判断を経営者として確実に行います。お客様対応では難しい依頼に対しても「1 度、もち帰って検討します」と言えるように意識付けをしたい。また、事業領域の拡大に向けて、地域のコンソーシアムにも参加し始めました。道筋をつけて次に良いバトンを渡したいと考えています。
みちなか あきこ/ 1970 年、京都市右京区生まれ。54 歳。1990 年京都地方法務局入局。結婚を機に退職後、20 代で起業し、家具雑貨製造販売会社を設立。飲食店の経営や商業施設のデザイン建築など多業種を経営。2023 年中山精工入社。同年11月から現職。家具製造や建築業で培った経験を糧に、斬新な目線で新たな仕組みを構築。「情報の共有と意識改革」に重きを置き、新しい管理方法を取り入れ、関わる人・物事を成長へ導く。

いまいずみ ひであき/1957 年愛知県出身。1980 年大阪工業大学卒業後、オーエスジー㈱入社。エンドミルやドリルの設計、開発に長年携わる。特殊工具の打合せや使用状況確認のために国内外多数の切削加工現場を訪問した経験をもつ。著書に「目利きが教えるエンドミル使いこなしの基本」(日刊工業新聞社)。

関連記事