「世界電気自動車(EV)市場の現状と展望 EV化に足踏み感」について
同資料は、丸紅経済研究所上席主任研究員の李雪連氏によるもので、Ⅰ . EV 化に足踏み感、Ⅱ .産業構造の変貌、Ⅲ . 中国の台頭と逆風、Ⅳ . 今後の展望からなる。
主要国・地域のBEV 販売動向としては、2024年で中国は2 桁増を維持、欧州は前年割れ、米国も鈍化としている。その結果、BEV 販売に減速感があり、欧州での落ち込みが著しい(図3 の結果と同じ)。要因としては、ドイツなど主要国の購入補助金の減額・撤廃や米国における税額控除要件の厳格化のほか、アーリーアダプター(早期購入者)の一巡や充電設備の不足などが挙げられるとしている。
BEV 販売の低迷や主要国の政策変更などを受け、欧州自動車メーカーを中心に相次ぎ軌道修正が行われている。自動車メーカーの生産体制調整の具体例としては、ドイツのメルセデス・ベンツの人員削減・生産移管(2025 年2 月)、VW の国内工場即時閉鎖を回避するも人員・生産能力削減を計画(2024 年11 月)、アウディのベルギーBEV 工場閉鎖発表(2025 年2 月)、ポルシェの2030 年新車の8 割をBEV とする目標変更、ICEV やHEV 拡充(2024 年7 月)などを挙げている。ほかにも、テスラやBYD の動向に触れ、中国のEV 化促進策について紹介しているので、同資料を参照してほしい。
EV 化の今後の見通しとして、以下のように指摘している。
① 世界エネルギー機関(IEA)は、公表政策シナリオ(STEPS)では、EV の新車販売数は2035 年には5,670 万台(新車乗用車販売全体の55%)、累計登録台数は2035 年には4.8 億台(乗用車登録台数全体の31%)に達すると見込んでいる。
② しかし実際には、足元のEV 販売台数の減速や、それに合わせたメーカーの生産体制の調整、市場歪曲的な中国製EV・部品などの輸入への対抗の高まり、EV バッテリーに用いられる重要鉱物のサプライチェーンの偏りなど、さらなる普及に向けた課題も多い。また、補助金の拡充や充電インフラの整備など需要喚起策において、国や地域で格差が生じれば、EV 普及にばらつきが生じるおそれがある。
以上のまとめに筆者はほぼ同意である。IEAのシナリオにある、2035 年でEV(BEV+FCEV+ PHEV)が新車乗用車販売全体の55%になるとする見込みは達成できないと筆者は見ている。HEV がまだ頑張って需要を引き受け、2035 年頃には、CO2 排出量がゼロとみなされる合成燃料(e︲fuel)利用のICEV や水素エンジン車とBEVの三つ巴合戦が始まるのではと予測している。
「EVの普及率はどのくらい?日本と世界のEV事情を解説」について
同資料は、東京電力エナジーパートナーによるEV DAYS で公表されている記事であり、自動車ジャーナリストの桃田健史氏が監修している。同資料では、多くの定量データがグラフ化されており非常に見やすい。読者もWeb で検索して参考にしてほしい。
同資料の「EV 普及率の今後」では以下のように述べている。
① 欧米を中心としてEV 普及の鈍化がみられるものの、世界は着々と「ガソリン車・ディーゼル車禁止」に向かって動いている。低燃費・CO2削減のために車の電動化が進み、その中でもBEV の普及率が高まっていくことは間違いない。
② しかし、国や地域によってエネルギーインフラや社会情勢が大きく異なるので、EV へのシフトが問題ない地域があれば、ガソリン車やディーゼル車の方が適している地域もある。
③ 資源採取~製造~流通~使用過程~廃棄・リサイクルまでの、LCA(ライフサイクルアセスメント)も考える必要がある。
④ そういったさまざまな視点から考えると、全世界の車がすべて早い時期にBEV に置き換わることは考えにくい。要は「適材適所」であることが重要である。
上記は無難な結論である。3 つの資料を取り上げて紹介し、筆者の見解を述べてきたが、少し突っ込んだ筆者の個人的見解を以下にまとめとして示しておきたい。
筆者のEV化動向への結論
2035 年に向かって新車販売でのガソリン車をなくし、BEV にしていこうとする目的はCO2 排出量の削減である。目的がCO2 排出量削減にもかかわらず、その手段が新車販売をBEV に限定していくことになっている。開発項目としては、1 回の充電でガソリン車に匹敵する走行距離が得られるよう、またコストが補助金なしでガソリン車並みになることを目指している。筆者は、バッテリー車として、この課題をクリアすることは難しいと考えている。
CO2 排出量削減が目的ならば、むしろバイオ燃料や合成燃料利用のICEV や水素エンジン車開発で目的達成を進めた方がよい。特にトヨタ自動車は水素エンジン車を含めた水素ビジネスの展開を進めており、2035 年にはBEV、合成燃料車、水素エンジン車の三つ巴の戦いが起こっていると予測できる。
資料①の有識者コメント①に示されたバッテリー開発を可能と判断するか困難と判断するかによって、EV 化動向予測の結論も変わってくる。筆者はバッテリー・イノベーションを困難と評価しているので、2035 年以降BEV は終焉に向かい、次世代自動車は水素エンジン車になると予測している。
現在のエンジン車の基本形は受け継がれていくという前提で、プレス部品関連メーカーは取組みを進めていけばよいと筆者は考える。今後の連載では、筆者の予測への反論を含め、プレス技術関係者とディスカッションしていく予定である。