製造業DX の潮流と量産工場における 調達改革
製造業を取り巻く環境は、少子高齢化による人手不足や労働時間規制の強化を背景に、大きな転換点を迎えている。特に、特定の製品を大量生産し、マスオペレーションで稼働する量産工場では、「品質・コスト・納期」を両立した高い生産性が求められ、その実現には生産ラインの効率化に加え、必要な部品や資材を適切なタイミングで手配する調達業務の高度化が不可欠である。
機械部品・工具供給を通じて製造現場を支えてきたミスミは、近年、従来の部品販売にとどまらないDX 戦略を推進してきた。3D データのみでAI が自動見積りをする「meviy」や、大量調達を効率化する「D-JIT」など、調達業務そのものをデジタル技術で変革する取組みを展開している。こうした流れの中で誕生したのが、量産工場における間接材調達の課題に正面から向き合う新サービス「MISUMI floow(フロー)」(図1)である。
「需要データ」×「確実短納期」で 間接材調達を変える
量産工場の調達業務には、「直接材」と「間接材」の2 領域が存在する。直接材(自動車におけるハンドルやタイヤなど)は生産計画と密接に連動しDX が進んでいる一方、間接材(手袋や工具など)は多品種少量かつ不定期な発注が多く、在庫状況の把握や発注、棚卸に多くの手作業が残されている。その結果、在庫切れによるライン停止のリスクや、過剰在庫によるムダが慢性的に発生している。こうした業務に費やされる時間は1 工場当たり年間1,656 時間にものぼり、本来、生産性向上に充てるべきリソースを圧迫している。
この課題に対し、MISUMI floow は量産工場における間接材の調達・在庫・棚卸を一体で最適化するトータルコストダウンサービスである(図2)。最大の特徴は、利用頻度に応じて3 つの調達チャネルを使い分ける点にある。
1.高頻度使用品:自販機による“富山の置き薬”モデル
工場内に設置した自販機に、顔認証またはID カーでログインし、必要な分だけ取り出す方式を採用。使用実績はリアルタイムで記録され、使用量に応じて自動補充。在庫はミスミの資産として管理されるため、発注業務や棚卸業務は不要。
2.中頻度使用品:定期便配送
使用サイクルに応じて月に2 回程度の定期配送を行い、必要な数量を適切なタイミングで補充。
3.低頻度使用品:EC サイト・専任窓口
急な発注ニーズには、EC サイトまたは専任窓口が迅速な見積り・発注対応を行い、従来発生していた見積り依頼や納期確認などの非効率なやりとりを削減。
この3 つのチャネルを顧客の需要データとミスミの確実短納期サプライチェーン(納期遵守率99.7%)と組み合わせることで、「欲しいときに、すぐ使える」間接材調達体制を実現している。
4 つの「レス」が生み出す 現場改革のインパクト
1工場当たり年間1,656 時間発生している間接材調達業務のうち、約7 割の時間を削減できる点がMISUMI floow の最大の特徴である(図3)。本サービスは日本および中国を中心に590 の工場で導入され、自販機は2,000 台以上(2025 年10 月現在)が稼働している。国内では、自動車部品、食料品、精密部品製造など、幅広い業界での採用が進んでいる。今後、日本の製造業約38 万工場*1に本サービスの仕組みが広がった場合、年間で約12万人工分*2の時間創出につながると想定されており、現場の生産性と競争力に与えるインパクトは大きい。
MISUMI floow を導入することで、工場は以下の4 つの「レス」を実現できる。
①在庫レス:VM(I Vendor Managed Inventory)により在庫負担がゼロ
②管理レス:在庫データ可視化により在庫確認の手間を削減
③発注レス:自動補充と定期便で発注作業が不要
④棚卸レス:在庫はミスミの資産となるため、棚卸作業が不要
実際の導入企業では、調達部門における在庫管理・発注業務の工数が約50%削減され、その結果、改善活動や人事業務など付加価値の高い業務へ注力できるようになっている。また、欠品不安の解消により現場の日常業務における心理的負担も軽減されたとの声も寄せられている。さらに、蓄積された使用実績データを活用し、現場改善の高度化や精緻な予算計画へと展開している企業もある。
こうした取組みは外部からも高く評価され、MISUMI floow はグッドデザイン賞、IT 賞(IT 最優秀賞)、日本DX 大賞(サステナビリティトランスフォーメーション部門奨励賞)を受賞している。調達業務の非効率をデジタルで解消し、現場の生産性向上とサステナブルな業務変革を両立した点が評価理由である。
調達DX 起点に、競争力強化へ
製造業を取り巻く環境は大きく変化しており、生産現場にはこれまで以上に高い付加価値創出が求められている。限られた人員と時間の中で成果を最大化するには、個々の改善だけでなく、日常業務そのものを見直す視点が不可欠だ。その中で、間接材調達は次なる変革を要する領域である。
MISUMI floow は、発注・在庫管理・棚卸といった従来業務をデジタル技術で再設計し、現場が本来注力すべき改善活動や価値創出に集中できる環境を実現する。調達DX を起点に、製造現場の競争力を持続的に高めていくことが、本サービスの目指す姿である。
*1 出所:平成28 年経済センサス活動調査
*2 計算背景: ・38 万工場×導入率50%×工数削減率70%
・1 工場当たり間接材調達時間1,656 時間/ 年