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工場管理 連載「失策学 ビジネスの誤算から紐解く成功の条件」

2026.04.10

第11回 社員をダメにする失敗 その2 ―企業の秩序維持の視点から―

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米国公認会計士/公認内部監査人 打田昌行

うちだ まさゆき 日立製作所傘下の監査支援部門に所属し、国内に加え海外30ケ国以上で内部統制を構築する仕事に12年間従事。 対象企業は100社以上に及ぶ。現職では制度導入の社内研修企画やコンプライアンス教育を実施。著書:『 令和時代の内部統制とリスクコントロール』翔泳社他

いま求められる失策学

 企業や各部門の現場では、事業上のさまざまな失敗や失策が起きる。その苦い失敗や失策には、豊富な学びと将来の成功につながる糧が隠されている。隠れた学びや成功につながる糧に気づけない企業や部門は、過ちを繰り返し後戻りできない逆境に陥りやすくなる。そうならないため、失策や失敗から成功のヒントを前向きに学び取る逆算と逆転の発想、つまりエラーから学ぶ失策学のアプローチが大切である。

人事評価をめぐる公平性

 働き方が多様化し、企業には一部の従業員に有利、不利とならない公平な人事評価制度が求められている。裏返せば、そうした仕組みの構築と運用がいかに難しいかを示している。人事評価をするうえで、すべての従業員が等しく扱われず、一部の者の主観やえこひいきが慢性的となれば、企業の秩序は保てずに従業員の労働意欲は削がれ、有能な従業員は去っていくだろう。公平性を欠く人事評価が続けば、従業員が持つ本来の能力発揮が妨げられ、モチベーションを下げて従業員をダメにしてしまう。

公平性を欠く人事評価と処遇が招く混乱

 納得できない偏った人事評価は、従業員のヤル気だけでなく、いつの間にか企業の活力を奪い、競争力すら蝕(むしば)む。

1.事例1:不当な人事評価

 ファストフードチェーン店に勤務する男性社員は、人事評価の結果を無断で書き換えられた。上司は、社員が行った業績に関する自己評価を、評価があまりに甘すぎるとして評価を下げたうえ、自己PR 欄にある記述内容を本人の同意なく半分ほど削除して評価を下げる文言を書き加えた。その後その社員は同僚による暴言を受け続け、精神疾患を発症した。2023 年、組合を通じて会社と交渉をした結果、会社は当該社員に謝罪、解決金を支払って和解した。不公平な人事評価に加え、パワーハラスメントの問題も含む事件である。

2.事例2:既婚女性の評価差別

 2001 年、保険会社に勤務する12 名の女性従業員が、既婚者であることから人事考課上、昇給、昇格の差別をされ、嫌がらせを受けたとして声をあげ会社に損害賠償を求めた。既婚女性をもって一律に低査定を行い、既婚女性が勤務を続けることを快く思わず、上司が個人的に嫌がらせをしていたとすれば、それは違法な行為に当たると裁判所は言及した。さらに、産前産後の休業、育児休暇の取得により業績や成果がほかの職員に比べ低下することやほかの従業員の負担が増すことを理由に、人事考課上のマイナスとして認識することは、働く者の権利を妨げると断じた。長年にわたる女性差別の人事制度を認め、会社側に賠償を命じている。

失敗から逆算するための解説

 人事評価は社内の客観的で公平な基準に基づき、個別かつ相対的に行われる。そのため、上司は従業員の自己評価を必ずしも鵜呑みにしない。しかし、自己PR 欄を勝手に削除したうえに評価を下げる書き換えを行うことは、従業員の給与、賞与や生活に直接の悪影響をもたらし、決して適切な評価とはいいがたい。事例1 では、評価する側とされる側、双方の間での評価結果をめぐる会話と理解が決定的に欠けている。上司の好みによってお気に入りの部下が優遇される偏った人事評価を疑われても、反論の余地はないだろう。不公正で偏った評価に対する不満が、業務に向かう積極的な姿勢や労働活力を減退させ、仕事上のミスが増えることにもつながる。

 事例2 の判決時、すでに労働力人口数に占める女性の割合は40% を超えていた、そして今もなお増え続けている。にもかかわらず、産前産後の休業制度の活用を妨げる、育児休暇の取得者に昇進の機会を与えないなどのマタニティハラスメントが未だに絶えない。こうした偏見や差別的な行為も、優秀な従業員モチベーションを減退させ、会社に貢献する成長可能性を奪い、社員をダメな方向に向かわせてしまう深刻な要因となる。

失敗から逆算して得られる教訓

 従業員の可能性を最大限に引き出し、会社が長きにわたり発展するためには、適切な人事評価をおろそかにできない。

■わかりやすく納得のいく評価基準

 評価の物差しは、売上の貢献度や顧客の成約数など客観的な数値のほか、積極性やヤル気など定性的で数値化が難しいものは、社内プロジェクトの推進度や貢献度など具体的な事実に即した基準を設けたい。従業員にとり、わかりやすく納得がいく、透明性のあるものにする必要がある。主観が入りやすく一貫性を欠く基準では、評価者と被評価者の関係の中で、共通理解は生まれずに誤解と不信の種を撒くだけである。

■定期の人事面談とコミュニケーション

 定期的な人事面談の際に、一定期間の目標を設定して共有し、従業員に能力やスキルを伸ばすために議論の場をつくろう。評価を巡り、互いのすれ違いによる誤解の増幅が起きないように、意見交換の場を少なくとも四半期に1 回は設ける。ビジネス環境の変化に応じ目標を更新していくのもよい。

■定期的なフィードバックの実施

 人事評価にフィードバックは欠かせない。一方的に低評価を下しておきながら、根拠すら説明する場を与えなければ、従業員に対して一方的に不利益をもたらす嫌がらせやハラスメントとなりかねない。不当な評価として、事例で挙げたようなトラブルや裁判のもとにもなりやすい。定期的なフィードバックが、従業員に足らない点を気づかせ、ヤル気を鼓舞して、成長の機会を与える前向きなものでなければ、従業員はもちろん上司も会社も成長しない。

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