プレス技術 連載「世界のなかの日本、日本のなかの世界」
2026.10.01
第22回 「留学生」だけでは語れない時代
帝京大学 平田 好
ひらた よしみ:外国語学部長 兼 日本語教育センター長。早稲田大学卒業後、1995 年からベトナムを皮切りに世界各国で日本語教育に携わる。2021 年より帝京大学教授。2022 年より日本語教育センター長、2025 年より現職。修士(国際関係学、2000 年早稲田大学)。
毎年4 月になると300 名以上の外国人留学生が、筆者の所属する大学キャンパスに入学してきます。留学生のみならず新入生にとっては、大学の履修制度、科目登録方法を理解して、授業に出席するまでが大きなハードルのようです。
大学には必修科目、選択科目、共通教育科目などがあり、学生はそれらを理解して履修登録を行います。もちろん、学部学科ごとのガイダンスがあり、教員や職員は個々の学生からの質問に答えながら適切な科目を履修するように指導しています。
日本語を学びたいのに学べない
必修の言語科目を確認すると、経済・法・文・教育学部の1 年生は、日本語科目あるいは英語科目を原則として週2 コマ受講することになっています。一見すると、留学生は日本語を、日本人学生は英語を勉強しなければならないようにみえますが、話はそう簡単ではありません。
「日本語の力が不足しているので必修日本語科目を履修したいのですが、どうして履修できないのですか」と言ってきた学生のA さん。A さんの第一言語は中国語で、国籍は中国でした。
一方、B さんは「日本語は十分にできます。日本の学生と同じように英語科目を履修したいのですが、日本語クラスに出席しなければなりませんか」と尋ねてきました。B さんは日本で初中等教育を受けてきたベトナム国籍の学生でした。
二人とも外国籍の学生ですが、一人は日本語を学びたいと言い、一人は日本人学生と同じように英語を学びたいと言います。学生からさまざまな履修相談を受けますが、現在の制度では、どちらの希望も受け入れることができません。なぜならば、「在留資格(留学)」をもっているB さんは「必修日本語科目」、「それ以外の在留資格」をもつA さんは(多くの日本出身の学生と同様に)「必修英語科目」を履修するルールになっているからです。
もちろん、単位は認められないものの聴講生として日本語クラスに参加したいと言う学生もいます。可能な限り、そのような学生は受け入れるようにしていますが、時間割の関係から参加できないことが少なくない状況です。
「留学」以外の資格で入学する学生も
外国人が日本の大学などで教育を受ける在留資格は「留学」です。在留資格とは、外国人が日本に滞在し、特定の活動や身分に応じた法的地位を指し、全部で29 種類あります。日本での就労に応じた在留資格、日本人の配偶者などの身分に応じた在留資格などがあり、「留学」も資格の一つです。
現在、日本に在留する外国人は約412 万人以上とみられます。出入国在留管理庁による2025 年度末の数字です。過去最高を更新したとともに初めて400 万人を越えたと報道されたことも記憶に新しいものです。この数字には、観光旅行などで短期滞在している外国人は含まれていません。日本で中長期に仕事をしたり、学校に通ったり、家族として生活している外国人の数です。そして外国人一人ひとりが日本に在留する資格をもっています。
これまで、大学に正規生として入学する外国人の多くは、出身国の日本大使館で留学ビザを取得して、日本入国時に「在留資格(留学)」が付与されるという流れでした。しかし、地球上での人の移動が激しく、加速度的に日本国内で外国人が増加している現在、「在留資格(留学)」以外の資格をもって日本の大学に入学する外国人が増えているようです。
外国籍であっても「留学生」とは限らない
永住者である両親のもとに日本で生まれ育った外国籍の子どもは日本国籍ではありませんが、在留資格が「留学」でなければ大学入学時には留学生とはみなされません。このように、外国籍であっても留学生ではない学生が増えているのです。
日本の大学に入学する前には12 年間の学校教育を修了していなければなりません。しかし、12年間の教育をどこで、どのように受けていたかは原則として問われていません。したがって、小学校から高校まで日本以外の国で教育を受けていても、一般選抜の入学試験に合格して留学以外の在留資格をもっていれば日本の学生と同様の待遇です。たとえ日本語の力が不足していても留学生ではありませんので、必修科目は日本語ではなく英語になるわけです。
「在留資格(留学)」を有する外国籍学生の中には、日本語母語話者と変わらない日本語能力をもって入学してくる学生もいます。出身国の言語で、出身国の学校で教育を受けながらも、日常的にインターネットなどを通じて、日本語によるコンテンツを視聴し、日本語話者と交流し、自然習得のように日本語を身に付ける若者も増えています。
教育組織のルールや規定を変更することは一朝一夕にはできませんが、どのような学生に、どのような言語教育が必要なのか、深く考えなければならないことがますます増えています。
そして、外国語教育を専門とする学科においても、これまでになかった、あるいは顕在化していなかった課題が起きているようです。出願資格として「日本国籍以外の方は、母語、母国語のコースを選択することはできません」と明記されていれば、フランス国籍者がフランス語コースに入学できないことは理解できます。しかし、日本国籍でフランス語を母語とする学生をどのように受け入れるかは、従来の制度では想定されていなかった課題でしょう。
一人ひとりの背景を理解する
日本で生まれ、日本で育ち、日本の学校教育を受けながらも、家庭ではフランス語でコミュニケーションをして、フランス語の本を読み、フランス語を母語とする友人たちと交流している日本国籍者もいます。例としてフランス語を挙げましたが、中国語、コリア語、ベトナム語、英語、スペイン語、ドイツ語などでも同様です。
100 年前であれば、日本人の多くは、日本で生まれ育ち、家庭でも学校でも日本語で話して、肌や目や髪の色も同じで、国籍は日本でした。現在は、日本国籍であっても、外見も言語もさまざまです。そして、外国人と言っても在留資格も、言語運用能力も千差万別です。国籍や在留資格だけでは、その人の言語能力や文化的背景はわかりません。
日本社会が多様化する中、一人ひとりの背景を理解し、先入観をもたずに向き合う姿勢が、教育の現場だけでなく、これからの職場や地域社会にも求められているのではないでしょうか。