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機械設計

2026.05.27

日本の機械装置設計を支援する3次元CAD・3次元設計のあり方《前編》

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iCAD株式会社設立15周年スペシャル座談会

 “300万部品のアセンブリデータを0.2秒で処理”。その抜群の操作性を誇る3次元CAD「iCAD SX」は、大規模な機械装置や製造ラインの設計者に強く支持されてきた。3次元CADで扱いたい機械装置や製造ラインが複雑化・大規模化する中で、iCAD SXの開発を手がけるiCAD社の高速処理技術の開発には大きな期待がかかっている。
 2025年3月、同社は設立15周年を迎えた。そこで、本座談会では、同社の代表取締役社長 大宮豊広氏、同社技術部山内克弥氏、iCAD SXの3次元機能の初期ユーザーである(株)IHI 技術開発本部 統合開発センター エンジニアリング部主幹 百々泰氏に、iCAD SX独自の高速性能CADカーネル技術はどのように発展を遂げ、今後どのように進化していくのか、現在の機械装置設計の現場ではどのような課題が生じているのか、そして今後の3次元CADへの期待、日本の機械装置設計の方向性などについて語ってもらった。(司会:フリーアナウンサー 藤田真奈氏)
藤田 初めに皆さまの自己紹介からお願いします。
大宮 1983年に富士通に入社して、当時メインフレームと呼ばれる大型コンピュータで動作するCADの開発から、CADの拡販などの業務に従事し、2000年にiCAD開発メンバー全員でデジタルプロセスに移籍しました。その後、2010年に日本の機械設計に最適なCADを開発するため、CAD技術に専門特化したスペシャリストが必要と考え当社が設立されました。当社は富士通グループの中でCAD開発に専門特化した技術者集団として活動しています。私は2024年に3代目の社長に就きました。
山内 2016年に当社に入社して以来、技術部に所属しています。iCAD SXを導入している会社を訪問し、iCAD SXをより使いこなせるようにするための方策や、3次元データを幅広く活用するための施策などをお客さまと一緒に考え、改善を繰り返しながらお客さまの業務をより良くすることが仕事です。また、私は「CAD内さん」という名前でYouTubeやX、LinkedInで3次元データ活用にかかわる情報などを発信しています。オンラインで交流イベントを開催することもあります。
百々 IHIの技術開発本部 統合開発センター エンジニアリング部に所属しています。2025年に勤続30年表彰を受けました。入社して20年くらい製鉄設備や製鉄プラントの詳細設計を担当してきましたが、現在は当社の製品や社内で使う特殊な加工機、原子力プラントや航空機関連の特殊な機械装置の開発設計を担当しています。その中で、入社5年目頃に設計を3次元化しようという活動が始まりました。そのワーキンググループに参加したことで、iCAD SXに出会い、現在では、社内のiCADSXの取りまとめ役のようなことをしています。

CAD開発当初から一貫して続く 大規模・高速レスポンス対応

iCAD ㈱ 代表取締役社長 大宮 豊広氏

iCAD ㈱ 代表取締役社長 大宮 豊広氏

藤田 1980年代にiCAD SXの原点ともいえる、国産CADソフトウェアの開発が富士通のソフトウェア開発部門で開始されましたね。当時の状況をお聞かせください。
大宮 このCADは最初メインフレームで動かしていたのですが、機能は非常に乏しいものでした。2次元で線を描く、円を描くぐらいの機能です。iCADの「i」はもともと「インテグレーション」を意味していますが、お客さま自身が業務のアプリケーションをつくることを前提に、その土台となる会話処理やデータベース、形状処理技術を中心に開発していました。お客さまは独自に板金部品やプリント基板、鉄塔システムなどの設計アプリケーションの開発に取り組んでいました。業種に特化した専用アプリケーションをお客さまが自らつくる、そんな時代でした。もちろんすべて2次元です。それらのアプリケーションを富士通が販売することもありました。当時、すでに海外製のCADが存在する中で、後発である富士通のCADが目標にしたのは、大規模データ処理、高速レスポンス、設計者思考の操作性です。現在のiCAD SXの中核技術の開発はこの時点から始まっています。
藤田 大規模・高速レスポンス対応はCAD開発当初からの目標なのですね。
大宮 お客さまが一番気にされていることはレスポンスです。CADのレスポンスが遅いと思考が妨げられて設計に集中することができません。ファイルを開く際のロード時間や処理待ちの時間は付加価値を生まない時間です。そのため、開発では高速レスポンス、大規模データ処理にはずっとこだわってきました。
山内 2次元CADの時代から開発目標やこだわりが変わっていません。1980年代の資料を見たのですが、その頃から絶対目標は0.2秒だと書かれていて、非常に驚きました。
藤田 1990年代に入って3次元の時代に入り、御社では“機械装置設計”に特化した3次元CADへ転換されましたが、どういった理由があったのですか。
大宮 3次元CADは自動車のボディや家電製品の筐体向けのイメージが強かったのですが、製品や部品を製造するための機械装置、生産設備の裾野が実はとても広いことがわかりました。日本が強い分野ですし、機械設計に特化して、そこに絞って開発をしようと判断しました。
藤田 その中で、CSG理論という、基本形状を積み木のように組み合わせることで目的の形にしていく設計の考え方を採用されました。当時、性能面で不利と言われていたようですが、あえて採用されたのはどのような理由からですか。
大宮 1980年代後半に3次元CADを開発していましたが、機能的ではありませんでした。あるプラントメーカーさまから、プラント設備を全部表現したいという話が持ち込まれ、それを表現するためには大規模データを高速処理しなければならなかった関係で、新たにCSGを採用したことがきっかけです。CAD上で形状を表すソリッドモデラーには、B-repとCSGの2つの理論があります。B-repは複数の面を縫い合わせて物体を表現しており、最終形状を履歴・フィーチャで管理しています。
 一方、CSGはプリミティブと呼ばれる基本形状の集合演算で物体を表現しており、プリミティブごとに情報を持たせています。CSGは最終形状をフィーチャや履歴で管理していないため、形状を扱う際にいちいち交線の計算を行っています。この計算が遅いため、一般的にCSGを採用するCADは少ないのです。ところが、形状を平面や円筒など、1次・2次式で表現できる解析曲面に限定すると、すべての交線を解析的に計算できるため圧倒的に速くなります。まさにプラント設備の特徴と合致した方式と言えます。3次元CADを機械設計に特化することを決めてからもCSGのままでいくことにしました。プラント設備と同様に、機械装置や生産設備を構成する1個1個の部品はほとんどが単純な形状面で構成されています。これは機械部品の加工方法から見ても明らかで、旋盤加工やフライス加工、板金加工でつくられた部品は必然的に単純形状になっています。CSGを用いれば、その解析曲面同士を高速・高精度に計算することができるのです。逆に、意匠性が求められる自動車や家電、航空機などで扱う自由曲面同士の計算にはCSGは向いていません。解析曲面に絞ったCSGで超高速レスポンスを可能にしています。また、CSGは最終形状を履歴やフィーチャで管理しないので、直感的に操作することができます。
2000 年発売のiCAD SX V3

2000 年発売のiCAD SX V3

ユーザーの困り事をともに 解決していくことでiCAD SXが進化

㈱IHI 技術開発本部 統合開発センター エンジニアリング部 主幹 百々 泰氏

㈱IHI 技術開発本部 統合開発センター エンジニアリング部 主幹 百々 泰氏

藤田 当時の百々さんの設計環境はどのようなものでしたか。
百々 当時IHIグループ全体でいえば、ジェットエンジンやターボチャージャー、船舶の一部などはすでに3次元CADを使って、当たり前に3次元設計をしていました。一方で、私の担当である産業機械の設計に3次元CADを使うことはまったく考えていませんでした。ただ、当時使っていた2次元CAD の保守が打ち切りになることもあって、CADの乗り換えを考えたときに、どうせなら世の中で普及し始めている3次元CADの導入を検討してみようと活動が始まりました。2000年頃です。私は途中からそのワーキンググループに抜てきされたのですが、当初は大反対派でした。私は一部の業務ですでに3次元CADを使っていましたが、この3次元CADでわれわれの設計の仕事ができるわけがないと思っていたのです。
藤田 それはどういった理由からですか。
百々 とにかく動作が重く、操作が面倒でした。ターボチャージャーのような曲面の表現が重要な製品とは異なり、われわれが設計する産業機械は自由曲面や流体曲面はほとんどなくて、円柱と立方体の組合せでできています。それを設計するのに自由曲面を関数で示すような3次元CADを渡されても面倒なだけで、まったく仕事に使えないという感覚でした。
藤田 では、3次元CADに否定的な意見を持ちながらも、iCAD SXの導入に至ったのはどのようなきっかけからでしょうか。
百々 先に活動していた3次元CAD導入ワーキンググループのメンバーがいろいろなベンダーに声をかけて、10種類ぐらいの3次元CADを比較しました。私がこのグループに参加したのはこれらベンダーのヒアリングが一通り終わってからでしたが、先に活動していたメンバーからは1社だけほかのベンダーとは異なる話をしていたということで、もう1度呼ぶから一緒に聞いてほしいと言われたのがiCAD SXを扱っていたiCAD社(当時はデジタルプロセス)です。ほかのベンダーは、「3次元設計を取り入れれば全体の生産性が上がるから、設計業務が大変になるのは仕方がない」と、皆、口を揃えて言っていたようですが、iCAD社だけは違いました。「とにかく大規模なデータを高速に操作できる『設計者が使える3次元CAD』」という話をされたのです。私がいだいていたイメージとはまったく異なり、それなら使えるかもしれないと思いました。
山内 当時は1万部品のアセンブリを0.2秒で動かす性能を実現しましたが、この開発にはIHIさんが深くかかわっていましたね。
大宮 IHIさんで検討が始まってすぐに相談がありました。まずはプレス機の設計で試され、「このプレス機を丸ごと表現できなければ仕事にならないから何とかしてほしい」と。そこで1万部品のアセンブリを0.2秒で動かす開発に取り組み提供しました。しかし、しばらくすると遅いとまた言われるので現場に行ってモデルを見せていただくとプレス機が何台も並んでいて…。
百々 自動車メーカー向けのプレス機でした。ボンネットやドアパネルをつくるためにプレス機を複数台並べて1ラインにするのです。当然こちらはプレス機単体ではなく、製造ラインを設計するのが目的ですから4、5台並べるわけです。
大宮 そうですよね。設計者にしたらデータ量の制限など気にせず、設計検討の過程でどんどんデータをつくり込んでいくのは自然です。
藤田 では、IHIさんで3次元CADを実際の設計業務で使用するまでにはどのような取組みを行いましたか。
百々 当部では3次元CAD導入ワーキンググループをつくって、定例会を毎週開催していましたが、あるときからiCAD社の担当者が同席してくれるようになりました。定例会では、運用ルールをどうするか、ライブラリをどうするかといった、さまざまな事案が挙げられ、その解決策を検討して試し、うまくいかずにまた検討して詰めるということを繰り返しました。時系列でまとめると、2001年の秋に当時の産業機械システム事業部にワーキンググループを発足させて、2002年の4月に3本購入しました。初めて出図をしたのがさらに1年後の2003年。1個出図するまでにだいぶ時間がかかっています。また、その頃、配管設計も3次元で行いたいという意見が出て、当時iCAD SXにもオプションで配管のシステムがあったのですが、そのままではまったく使い物にならずに突っ返しました。しかし「こうやって配管設計するのだから、こういう機能がないとダメだ」というように、iCAD社も交えて毎週議論していく中で、だんだんiCAD SXの配管機能が成長していったという感じです。
大宮 機械設計はまだ2次元が主流の時代で、3次元で機械設計を行うための手本となるようなルールや適用手法が確立されておらず、各社各様でした。なので、とにかく現場・現実・現物で理解しようと、お客さまのもとへ通いました。お客さまのモノづくり現場にとことん入り込み、現場の事実をもとに業務フローを理解していきました。この中で捉えたお客さまの業務課題に対して、業務効果が出るまで議論と提案を繰り返し、CAD技術で1個ずつ課題をつぶしてきました。CAD技術とは、設計情報、特に形状を扱う技術です。われわれも日々勉強でした。そうした勉強は今でも続けています。普通は、開発する人、売る人、サポートする人は別々の会社で担っていると思うのですが、当社は、それを一気通貫でお客さまが使えるようになるまで携わっていくことをその頃から始めました。とにかく現場に行って、お客さまが困っていることを自分たちが一緒になって解決することの繰返しが現在の姿になっています。IHIさんと行ったのが始まりだったはずです。

ソフトウェア技術だけで 大規模・高速レスポンスを実現する

300 万部品0.2 秒の超高速レスポンスを実現した iCAD SX V8

300 万部品0.2 秒の超高速レスポンスを実現した iCAD SX V8

藤田 2010年になって分社化され、新たなスタートを切りましたが、その当時はどのくらいまで技術、要望に応えられるようになっていたのですか。
大宮 2010年にはiCAD SX V7で100万部品を0.2秒で動作させることを実現しました。絶対目標で100万部品に対応すると決めたうえで、どうしたらそれを実現できるかということで、方式や構造を論理的に検討し、仮説検証を繰り返すことでたどりつきました。
藤田 そうすると、そこから10年ほどで300万部品を実現したことになりますね。
大宮 しばらく100万部品であぐらをかいていたのですが、急速に進展した半導体製造装置の分野では、もはや100万部品では仕事にならないと言われるようになり、300万部品に対応する技術を開発しました。
iCAD ㈱ 技術部 山内 克弥氏

iCAD ㈱ 技術部 山内 克弥氏

山内 「いたちごっこ」のような状況ですね。すでに300万部品でも少ない、レスポンスが遅いと言われます。3次元CADの性能を上げても、お客さまからは常に、「もっと大規模を、もっと速く」と要求され、それに応えるために性能改善を追求し続けています。
藤田 ユーザーの立場から見ると、まだまだ足りないのですか。
百々 業種によって異なるとは思いますが、ラインだけではなく、工場全体の設備をつなぐところまでどんどん表現していくとなれば、300万部品では足りない気がします。
藤田 こうして歩みを振り返っていますと、iCAD SXの開発の中でここが転機だったと感じる場面はありますか。
大宮 やはり、産業機械や装置・設備などの機械設計に絞り込んだことが転機でした。あとはその時代の大規模・高速対応を死ぬ思いでやってきたことですね。実は1万部品と100万部品の間に40万部品に対応した技術を開発しています。それは家電メーカーさまの製造設備における要望で、開発メンバーは一丸となって3カ月ぐらいで実現しました。何とかしなければいけないときに集中して開発して実現した技術がいろいろとあります。
山内 大規模・高速対応をハードウェアの性能に頼るのではなく、ソフトウェアの技術で解決してきたことがポイントであり、当社の特徴です。
大宮 ほかのCADベンダーは「パソコンのスペックはどんどん高性能になるので、大規模データのレスポンスも問題なくなりますよ」とよく言っていました。けれども、われわれは「そんなはずはない、良くなる部分もあるけれど、そんなことで大規模データを高速に処理することはできません」と言い続けてきました。われわれはソフトウェアの技術だけでさらに大規模・高速レスポンスを追求していきます。その取組みがほかのCADベンダーとは違うのかなと思います。

司会:フリーアナウンサー 
藤田真奈氏
(後編につづく)

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