型技術 連載「モノづくりの未来を照らす高専突撃レポート」
2026.07.06
第26回 教室を飛び出した若者たち─ 仙台高専が拓く、新しい学びの風景
ふじた まな:大阪府出身。元とちぎテレビアナウンサー。関西学院大学卒業後、金融業界の企業に就職。その後転職してアナウンサーに。とちテレニュース9(とちぎテレビ)、アクセント!、ミライを照らせ~KOSEN*Passport to the world~(ともに栃木放送)、Berry Good Jazz(Radio Berry)などに出演中。
Instagram:mana.fujita
宮城県の中央部に位置し、太平洋に面して発展してきた仙台市。豊かな緑に囲まれた「杜の都」として知られています。都市機能と自然環境が近接するこの地域は、東北最大の経済圏として製造業、物流、IT 企業が集積し、周辺の名取市や仙台空港エリアと一体となって産業基盤を形成しています。こうした都市と自然が隣り合う環境は、研究や実習のフィールドとしても活用され、地域と連携した技術教育を進めるうえで大きな強みとなっています。
この仙台の地で、地域とともに新しい学びを切り拓いているのが仙台高等専門学校(仙台高専)です。仙台高専は名取キャンパスと広瀬キャンパスの2 つからなる学校で、それぞれが異なる専門領域を担っています。そのうち、名取キャンパスに2025 年新たに創設されたのが「情報と創造コース」(図1)。モノづくりと情報技術を融合させ、社会とつながりながら学ぶという、これまでにない教育を掲げてスタートし、今年で2 年目を迎えています。
図1 2025年度新設された「情報と創造コース」の学生たち(写真提供:仙台高専)たち
新しいコースで1 年間学びを深めてきた1 期生たちが、今どんな気づきを得て、どんな成長を遂げたのか─。今回は、指導教員の熊谷進准教授と学生さんたちにお話をうかがいました。
創設1年目の挑戦─「社会とつながる学び」をどう形にしたか
熊谷准教授は材料力学を専門とし、「モノがどのように壊れるのか」を長年研究してきた研究者です。破壊のメカニズムを探るその姿勢は、材料の性質だけでなく、社会の課題や構造をどう読み解くかという視点にもつながっています。だからこそ熊谷准教授は、新コースの立ち上げに関わる中で、学びを社会と結びつけることを強く意識したと言います。これからの社会では、情報を使って判断し、新しい価値を生み出す力がより重要になる─その考えのもと、「学生が自分で考え、社会と関わりながら学べる環境をつくりたかった」と語ります。研究室の中だけでは完結しない、現実社会と接続した学び。それこそが、このコースの中心に据えられた理念です。
その象徴が、「回遊型教育」と呼ばれる学びのスタイルです。これは、学生が学校の中だけで学ぶのではなく、企業・自治体・地域コミュニティなど複数の現場を「回遊」しながら学ぶ仕組みのこと。教室から飛び出し、実際の社会の中で課題を見つけ、対話し、試行錯誤する。そうした経験を通して、教科書では得られない視点や判断力を育てるのが狙いです(図2)。技術の進歩が加速する現在、今教えている内容が数年後には陳腐化してしまう可能性もあります。だからこそ熊谷准教授は、学生自身が最先端を見つけに行き、変化にしなやかに対応できる力を育てたいと考えています。現場に触れ、自ら問いを立て続ける姿勢こそが、これからの技術者に求められる基盤になるのです。
図2 展示会の見学に訪れたときの様子(写真提供:仙台高専)
1期生が語る「1 年目の気づき」─社会と触れたからこそ見えたもの
1期生たちに志望理由を尋ねると、その言葉の端々から「自分の意思で選んだ学び」への強い思いが伝わってきました。新しい文化や技術に触れたいと、地元を離れて仙台に飛び込んできた学生もいれば、幼い頃に触れたプログラミングの楽しさが忘れられず、名取の落ち着いた雰囲気に惹かれてこのコースを選んだ学生もいます。「企業や地域を巡りながら学ぶ回遊型教育に魅力を感じた」という声も多く、教室の外に広がる学びの可能性が、彼らの背中を押したようです。こうした多様な動機が交わりながら、1 期生たちはそれぞれのペースで学びを深めてきました。
1年間の学びを経て、学生たちの言葉には確かな実感が宿っています。例えば、建設会社の現場を訪れた際、情報系の人材が強く求められている現状を知り、「自分たちを必要としている場所がある」と気づいた学生は、その瞬間から学ぶ意欲が一気に高まったと話していました。また、複数のプロジェクトを同時に進める経験を重ねる中で、計画性や時間管理の重要性を身をもって理解した学生もいます。企業訪問を通じて、自分がどこで力を発揮できるのかを考えるようになり、起業という選択肢に興味を持ち始めた学生もいました。さらに、これまで触れたことのなかった業界に出会ったことで、将来の視野が大きく広がったと語る学生もいます。どの言葉にも、教室の外へ踏み出し、社会とつながりながら学んだからこそ得られた気づきがにじんでいるように感じます(図3)。
図3 学びを深める学生たち(左奥が熊谷進准教授)(写真提供:仙台高専)
「学生も社会の一員」という発想が未来をつくる
取材の中で心に残ったのは、「学生も社会の一員として扱われるべきだ」という考え方でした。社会人と学生を明確に線引きするのではなく、早い段階から社会に入り、見て、触れて、考える。その積み重ねが、知識だけではなく、自分の判断で前に進む力を育てる。この言葉には、そんな教育観が強くにじんでいました。変化の激しい時代において、社会と接点をもちながら学ぶことこそが、将来の自立につながるという確信が感じられます。
その理念を実際の学びとして形にしているのが、今回紹介した「情報と創造コース」です。入学してまだ1 年ほどの学生たちが、自分の考えを言葉にし、社会の中でどんな役割を果たせるのかを真剣に探り始めている姿は、とても印象的でした。現場での経験を通して得た気づきを自分の中で咀嚼し、次の行動へつなげようとするまなざしには、確かな成長の兆しが宿っています。
高専は、単に技術を身につける場所ではありません。若者が社会とつながりながら、自分の可能性を見つけ、未来を主体的に描いていく場所です。学生たちの姿を見ていると、その本質が自然と浮かび上がってくるような気がします。
これから彼らがどんな未来を描き、どんな景色を見せてくれるのか。その歩みを見守ることが、楽しみでなりません。