原油・原材料費の高騰や急激な為替変動などを背景に海外生産からの国内回帰が進み始めている。大手機械メーカーのソディックは中国、タイで生産していた放電加工機などの量産品の国内生産に着手。主力拠点である加賀事業所での生産体制の見直しに取り組んでいる。従来、多品種少量で付加価値の高い製品を手掛けていた現場を量産に応じた仕組みへとシフトし、生産性を重視した体制の構築が目的である。現場からの要望をもとに標準作業手順書の策定からBOM(部品表)の見直し、品質管理のデジタル化など本格的な改善活動をスタートしたところだ。グローバルな事業環境の変化をばねに一段上のモノづくりを目指す。
グローバル生産体制の見直しに着手
ソディックはNC 放電加工機メーカーの草分けとして創業以来、放電電源装置の研究、NC 装置開発に取り組み、各種の放電加工機を市場投入してきた。さらにマシニングセンタ(MC)、金属3Dプリンタ、レーザ加工機、射出成形機、食品機械など工作機械から産業機械へと事業を拡大し、国内外での顧客開拓を展開している。
生産拠点は加賀事業所(石川県加賀市)、福井事業所(福井県坂井市)、宮崎事業所(宮崎県宮崎市)の国内3 カ所のほか、海外は中国(蘇州、厦門)、タイの2 カ国3 カ所に置く。これまで放電加工機やマシニングセンタなどの量産品の主力機種はグローバルでのコスト競争力の強化を狙いに海外で生産し、国内では放電加工機の特殊対応機や高精度機をはじめMC、金属3D プリンタでも高機能で付加価値の高い製品の生産に特化してきた。
しかし、コロナ禍以降、ウクライナ紛争などの影響もあり、原油や原材料価格の高騰、急激な為替変動を背景に従来の生産体制では日本単体での安定した収益確保が難しいという課題に直面。為替変動リスクなどを回避するため海外で生産していた主力機種を国内でも生産する体制へとシフトすることを決め、2023 年から量産への移行を進めている。
組立に場所をとるためリードタイム短縮による回転率向上が増産の決め手となる
「経験と勘」から「平準化」へ
生産移管の中心は国内の主力工場である加賀事業所。工作機械、産業機械、食品機械を手掛け、18 年に増設した「マルチファクトリー」では事業環境や市場動向の変化、各種機械の受注動向に対応し、生産品目を限定せず、柔軟かつマルチプルに生産できる機能を備えている。
ただ、これまでは多品種少量生産で工程数も長い製品が多くを占め、「経験と勘」といった現場力に頼ったモノづくりが行われてきた。量産体制を構築するには工程の標準化や作業の整流化が必要となる。工作機械事業本部 機械事業部 技術統括部 生産技術部 生産技術課の酒井喬平氏は「25 年1 月に生産技術部が発足しましたが、それ以前から開発部門を中心に作業環境の整備や工程計画の見直しなどの検討を進めてきました。一品物のモノづくりに長年取り組んできた現場の負担をできるだけ少なくし、効率的で安定した量産体制のへのスムーズな移行と体制構築に向けた継続的な改善を組織的に進めることがわれわれの役割です」と現場の声を反映し、より効率的で安定した生産体制を築くための土台づくりを目指す。
改善活動の最初に着手したのは生産計画の立案方法の見直しだった。特殊仕様の製品が多いため作業標準化が難しく、計画が遅延するケースも少なくなかった。モノづくりにこだわる職人気質で現場力は高いものの量産には結びついていなかった。このため作業標準類を新たに作成し、生産を「可能な計画」でなく、標準時間を意識した「できる計画」を立てる考え方に変更した。各工程の負荷をガントチャートで可視化し、目標台数を達成できるスケジュールを作成することで作業の平準化と計画制度の向上を図った。組立台数は着実に増加し、計画と実績の乖離も減少していった。
次に取り組んだのがサブアッセンブリ工程の導入だった。機械製品はベッドとよばれる台の上に部品を組み付けていくためリードタイムの短縮は組立場所の回転率を上げ、組立台数の増加に寄与する。このため組立作業のリードタイムの短縮を狙い複雑なユニット部品をサブ工程で事前に組み立て本機に組み付ける方式を採用。さらに小型部品の組立に特化した作業場を設けることで作業性が向上し、効果の大きい機種では最大8 日間の組立日数短縮を実現した。
BOM の見直しで現場の整流化を推進
BOM(部品表)の全面的な見直しも進めた。従来は、完成までの1 台分の部品をすべて揃えていたため不必要な部品が早期に現場に供給されることもあり、作業スペースが部品で圧迫されることもしばしばあった。このため必要な部品を最適なタイミングで供給するようにBOM を工期ごとに細分化した。部品の配置や供給方法も見直したことで現場の整流化が進み、部品を探し回る時間や社内在庫の削減にもつながった。「現場のホワイトボードに部品の出庫日を記載して可視化したことで組立の遅れや前倒しを現場の話し合いで対応できる協力体制も生まれました」(酒井氏)と改善によって現場の雰囲気も変わってきた。
品質管理の強化にも乗り出した。まず取り組んだのがチェックシートの電子化だった。それまで、Excel の紙ベースで運用していたが、記入ミスや異常値(バラツキ)の見落としが課題となっていた。電子化によって異常値の自動検出やデータの蓄積が可能になった。さらに測定器のデジタル化にも着手。アナログ測定器による読み取りミス、作業者による測定のバラツキを防ぐのが目的だ。「まだ、測定器のデジタル化は始めたばかりですが、電子化によってデータの一元管理とトレーサビリティの強化を図っていきます」(同)と品質保証体制の整備を進める。
チェックシートのデジタル化。タブレットへの入力でバラツキなどを防止
改善活動の機運が向上
こうした取組みによってこれまで平均1.5 カ月だったリードタイムを1.0 カ月に短縮するまでにこぎつけた。今後は3 週間を目標に改善活動を推進する計画だ。同生産技術課の亀岡隆介課長は「生産技術課の発足によって現場の課題を吸い上げて解決する仕組みができてきました。現場からのVE提案に迅速にフィードバックできる体制を整えることで改善活動を活発化していきたい」と組織的な展開に期待を寄せる。
ここまでの経過について酒井氏は「現場の方々に習慣を変えてもらうことが大変でした。チェックシートへの記入など長年親しんでこられたやり方を新しいシステムへと移行するには抵抗感もあったと思います。ただ、実際に使いだすと課題の発見や解決に役立つことを理解していただき、生産技術とのコミュニケーションを通じて改善に積極的になってきたと感じています」と現場のモチベーションも上がってきはじめたという。
すでに同社で各部門が品質・環境・安全面の改善を目指す「QVP +活動」(QualityVictoryPlan)を展開。5S に安全を加えた6S パトロールを実施するなど改善提案の素地は整っていたことも量産体制の構築に向けた改善活動の成果につながっていると見られる。
組立て中のマシニングセンタ。生産台数はかつての2倍に拡大
今後のさらなる現場の意識向上への課題として挙げるのが製造現場での「見える化」。その1 つが「工数の見える化」である。これまで手掛けていた一品物では機種ごとに工程が異なり、作業者が工数を把握するという意識が薄かった。「まだスタートしたばかりですが、日々の作業実績を意識することで工数についての関心を高め、作業の進捗や課題についての対話が活発になることを目指していきます」(同)と改善機運の向上を狙う。
国内外の協調でグローバル品質の向上を目指す
グローバル生産体制の再構築が進む中、海外工場との連携にも取り組む方針。すでにタイから現地従業員が交代で加賀事業所に応援にきており、国内外の現場を結んでの品質、技術の両面での向上が狙いである。「海外の協力工場の技術など図面に書かれていない暗黙知があり、そうしたノウハウを共有することでグループ全体のモノづくりをさらに強化できると見ています」(亀岡課長)。
日本、中国、タイの生産技術の協調、競争によって世界同一品質による製品づくりをブラッシュアップしていく。