icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH

型技術 連載「中国の金型業界のリアル」

2026.07.24

第14回 中国金型業界の年末の話題と目標

  • facebook
  • twitter
  • LINE

杭州谷口精工模具有限公司 小方 暁子

おがた あきこ:薫事長、OISHIエンジニアリング㈱代表取締役 神奈川県川崎市出身。留学経験後、日本と海外の文化や交流に興味をもち、旅行専門卸業勤務を経て、中小企業向け業務システム会社を立ち上げ。中国浙江省・杭州市にて業務経験ゼロから金型メーカーを事業承継。日本では金型商社事業と工業・農業系地方創生・海外ビジネス交流事業も手がける。
 当社がある浙江省には、北京に本部を置く中国金型工業協会の支部とは別に、地元発の金型企業をメインとした浙江省金型業界協会(中国語:浙江省模具行业协会)があります。

 この協会や、中国の金型専門雑誌『金型工業』(中国語:『模具工业』)の今年の総会(年会)では、2026年はAI 導入により金型業界を「経験駆動からデータ駆動」へ、勇気をもって変革の第一歩を踏み出す1 年となることが予測されています(図1)。
図1 浙江省金型業界協会年会

図1 浙江省金型業界協会年会

 人手不足に関する話題も多く挙がっています。本当に人手不足に悩まされている中小企業にとって必要なのは、実は単純な人手ではなく、各金型企業の業務内容に合ったより高度な人材であり、こういった人材を育成できないのが現在の大きな問題であると、一歩踏み込んだ議論が展開されていました。

 また、金型関連企業の海外進出についても議論されました。新興国への市場拡大とその事例、中国にとって比較的開かれている欧州市場の開拓、米国市場の再構築などの現状分析と、協会として2026 年以降の現地視察や交流事業などへの積極的な支持体制が発表されました。第14 回5 カ年計画の最終年であり、2026年からの新しい5 カ年計画「十五五」を迎える時期にふさわしい、3 つの方向性が示された年会となりました。

 年会から見えた3 つの方向性として、以下のようにまとめられます。
 ・AI の現場への本格的な導入
 ・人材育成
 ・海外交流と市場開拓

 年会のティーブレイクタイムでは、参加した企業どうしで、消費傾向が変わったことによる自社戦略の立て直しが話題に挙がりました。

消費疲れと販売疲れ

 中国のEC 市場における最大のオンラインショッピングイベント「ダブルイレブン」(中国語:双11)の総流通額は前年比14.2 %増の約37 兆円であったと、中国のビッグデータ分析サービス会社の星图数据(英語名:Syntun http://www.syntun.com)より発表されました。

 このイベントは2009 年から始まり、イベント規模も流通額も年々大きくなっている一方、約1 カ月もの間、先行予約割引などのウォームアップ活動が行われたことによる予熱疲れを指摘する声や、購入者に対する過剰な割引クーポン発行に起因する返品率の高さ、広告費高騰による利益圧迫など販売側の疲弊も数年前から指摘されています。

 今年は、TikTok やwechat チャンネルなどの動画配信プラットフォームの普及により、視覚的なわかりやすさから衝動的な購買に誘い込む方法ではなく、真のニーズにていねいに訴えかけることに注力するオンラインショップが増えているそうです。また、アリババグループが運営するオンラインショッピングサイトの天猫や淘宝も、「88VIP」という高額消費会員向けに大々的なクーポン配布を行っており、ハイエンド市場の獲得に力を入れていたようです。

 全体的に、不景気でモノが売れないのではなく、必要なときに必要なモノを買うという理性を伴った消費行動に変化してきているとともに、販売側も商品の価値をわかりやすく伝え、良質な顧客の獲得を重視するようになってきていると感じます。

金型企業の2026 年度目標

 「大量の金型を安価に請け負っていた金型企業が、今、苦境に立たされている」と、ティーブレイク中に金型企業の間で雑談が始まりました。常に価格競争の中に置かれ、自分たちの本来の価値を誤った方向に導いてしまったと、数人が大きく頷く中で、40 年以上の歴史をもつ「元」金型企業の方が話を続けます。

 その企業は、鋳造金型専業としてスタートし、顧客ニーズから成形も請け負うようになって業務を拡大し、90 年代後半には金型部門はメンテナンスのみとし、製造はすべて外注にしたそうです。「選択と集中をしたことにより、金型の知識をもった企業として顧客と一緒に製品開発するようになり、価格競争から脱却し社内に余裕が生まれた」とのことでした。もともと海外との取引が多かったこの企業は、2026 年以降は欧州市場の開拓を予定しているそうです。

 ティーブレイクの話題はさらに進み、国内同業者間の格差が広がり、専門性を追求するために注文を選別する企業が増えていることや、海外の注文をどうやって獲得するかなど、具体的かつ熱を帯びた内容になっていきます。加工機メーカーや材料メーカーなどと一緒に海外へ市場調査に行く企業や、技術だけにとどまらずAI やマーケティングを社内教育に取り入れて社員のレベルアップを目指している企業、海外の展示会や広告戦略を考えている企業もありました。できない理由を言い合うのではなく、行動に移すためのきっかけを探しているかのように、お互いの2026 年以降の計画を積極的に話して情報交換できたことは、大変貴重な時間となりました(図2)。
図2  ティーブレイクの場には企業PR ブースも併設

図2  ティーブレイクの場には企業PR ブースも併設

変革の前の静けさ

 中国は、大量生産・大量消費の直線型経済が根づいており、コストが最大の競争力である時代が長く続いています。発表される数字は常に拡大・増加を示しており、生産力も消費力も巨大であることは間違いないものの、ここ数年消費行動に変化が見られます。そして、生産するためのツールを提供する金型業界が今、その変化を敏感に感じとり、動きはじめようとしています。

 ロボットやAI の分野において世界をリードしている中国で、2026 年以降どういった消費が見込まれるか、生産側として何が必要なのか、明確な答えはまだ見つかっていないのかもしれませんが、2026 年以降の本格的な変革に向けて、静かな準備のときを迎えているようです。

関連記事