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機械設計 連載「若手技術者戦力化のワンポイント」

2026.07.07

第28回 パワハラが怖くて若手技術者育成に取り組めない

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FRP Consultant 吉田 州一郎

よしだ しゅういちろう:代表取締役社長。東京工業大学工学部卒業後、Fraunhofer Instituteでのインターンを経て、同大大学院修士課程修了。繊維強化プラスチック関連の技術指導や支援を企業に行いながら専門性鍛錬を行う一方、技術者に特化した育成事業を法人向けに展開。自らの10 年以上にわたる研究開発と量産ライン立上げ、国内外企業連携によるプロジェクト推進の経験を踏まえ、繊維、機械、化学などの企業の研究開発現場での技術者育成の指導、支援に尽力。福井大学非常勤講師。
若手技術者戦力化のワンポイント
「パワハラが怖くて若手技術者育成に取り組めない」場合、「育成を行うリーダーや管理職は、自分の若い頃に受けてきた育成・指導経験をひとまず忘れて若手技術者に向き合い、若手技術者と意見交換する」ことを繰り返す。

はじめに 

 若手技術者育成に取り組むリーダーや管理職にとって特に、注意しなければならないものの一つが“パワハラ”だろう。とりわけ成長が見込める、成長の兆しが見えるといった“期待のできる若手技術者”に対しては、育成にも熱が入りがちで、指摘や指導に関する言葉遣いが厳しくなりがちだ。多くの場合において、指導を行う側に“厳しくなっている意識”はなく、気がつくとそのようになっていたというのが、育成に取り組んできたリーダーや管理職の本音だろう。かくいう筆者もその一人で、見込みのある若手技術者への指導は厳しくなりがちであったと、今になってわかることも多い。結果として、リーダーや管理職からの若手技術者育成の取組みが、被育成側の若手技術者から見ると“パワハラ”と感じることも少なくない。

 昨今は企業コンプライアンスの観点から必要以上にこのパワハラに警戒感が強く、技術者をかかえる技術チームの現場では、リスク回避という意味合いで若手技術者育成に取り組むことを避ける傾向にある。一方で、企業は自社の技術力の基礎を担う技術者育成の必要性を強く意識し、取組みを加速させたいと考えていることが多い印象だ。実際、COVID-19(新型コロナウイルス)流行の影響もあって削減された教育研修費用は、増加傾向にあるというデータも示されている1)。このように若手技術者育成を含む人材育成については、企業組織としての戦略と現場の熱量に差があるのが実情だろう。 

 このような状況であっても、若手技術者育成を進めたいと考えるリーダーや管理職が第一歩を踏み出すきっかけを提供することを目的に、育成する側だけでなく、育成される側の視点という両面から、留意点を解説する。

若手技術者戦力化のワンポイント

 「パワハラが怖くて若手技術者育成に取り組めない」場合、「育成を行うリーダーや管理職は、自分の若い頃に受けてきた育成・指導経験をひとまず忘れて若手技術者に向き合い、若手技術者と意見交換をする」ことを繰り返してほしい。

若手技術者育成の取組みは何でもパワハラになるわけではない 

 改めてパワハラについて、その基本を確認する。もともとは造語のpower harassment という表現を使用する地域は日本や韓国に限られるが、それに該当する事象は世界共通のようだ。厚生労働省は職場におけるパワーハラスメントとして、
 ①優越的な関係を背景とした言動であって、 
 ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
 ③労働者の就業環境が害されるものという①から③の3 つの要素をすべて満たすものとして定義している2)。 
 ・身体的な攻撃 
 ・精神的な攻撃 
 ・人間関係からの切り離し 
 ・過大な要求 
 ・過小な要求 
 ・個の侵害
といった各該当項目に分類できる言動であっても、パワハラに該当するものとそうでないものに分かれることが、具体的な例も含めて記述されている。業務上必要な指示や注意・指導が行われている場合はパワハラに該当しない、という趣旨の記述もあることから、例えば冒頭に示した若手技術者育成におけるリーダーや管理職の言動が、本当にパワハラに該当するか否かは、詳細を検証しなければわからないと言える。 

 このような基本情報を踏まえると、若手技術者育成が必ずしもパワハラに直結するわけではないと言えよう。場合によっては厳しい言い方になることは、それが業務上必要な指示や指導であればパワハラではない。リーダーや管理職はもちろん、育成される側の若手技術者もここで述べたようなパワハラの定義を理解すべきだ(図1)。
図1  若手技術者育成に取り組むリーダーや管理職だけでなく、若手技術者自身もパワハラの定義を理解すべき

図1  若手技術者育成に取り組むリーダーや管理職だけでなく、若手技術者自身もパワハラの定義を理解すべき

若手技術者育成の典型パターンとパワハラの関係 

 若手技術者育成とパワハラの関係について述べる。一般的に製造企業の現場で、技術者や元技術者のリーダーや管理職が陥りがちな若手技術者の育成は、大きく分けて4 つのパターンがある。それが職人系、体育会系、軍隊系、放置系だ。それぞれについてコンセプト、技術者育成の観点での懸念、そしてパワハラとの関係を示す(表1)。 
表1  技術者や元技術者が陥りがちな技術者育成のパターンと懸念、そしてパワハラとの関係

表1  技術者や元技術者が陥りがちな技術者育成のパターンと懸念、そしてパワハラとの関係

 職人系は育成に長い時間がかかるというのが問題である一方、育成を行う側と育成される側にほどよい距離感があり、かつ育成側の姿勢そのものが教材であるため、常に指導が行われている状態とも言える。よって、今回挙げた4 つの中では最もパワハラのリスクが低いと筆者は考える。ただし、育成する側が技術者として重要な“知恵”を有することが大前提であることは加筆しておく。 

 体育会系は“スポ根”が基本にあり、言葉遣いに配慮がないうえ、育成する側とされる側の距離も近いことからパワハラと認識されやすい。本育成パターンは育成する側に相応のカリスマ性がある場合を除き、ほぼ育成の効果は望めない。 

 軍隊系は規則を重視するため、その規則を守っていればパワハラと認識される可能性のあるやりとりは発生しにくい。ただし、当該規則から外れた瞬間に、体育会系に基づく叱責が生じやすく、そこではパワハラのリスクは一気に高まる。技術者育成でいえば、軍隊系は卓越した技術的な知恵を有する人物がいて、その人物に全権限を集中できるのであれば、技術者個々人ではなく、技術チームとしての成長は期待できる。組織戦略としては選択肢になり得るが、個々人の成長を目的とする筆者の目指す若手技術者育成の方向性とは合致しない。 

 放置系でも、長時間にわたるモチベーションの維持と自己研鑽ができるまれな若手技術者は育つだろう。この放置系は、パワハラを怖がる(面倒と考える)場合にリーダーや管理職が選びがちだ。若手技術者育成を行わないというリーダーや管理職、または中堅技術者の存在は筆者から見れば疑問符がつくが、さまざまな実情を鑑みるとこの選択をすること自体は想像できる。若手技術者と関係を持たないことで、一見するとパワハラとは無関係な状態を構築できていると感じるかもしれないが、前述の通りパワハラの定義の中にある“過小な要求”と認識される可能性はある。
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