射出成形金型を専門に製作するワールド工業(兵庫県宝塚市)は、厳しい時代を生き抜く活路として航空宇宙分野に新事業のフロンティアを求めてきた。その中で、主に航空機などに用いられる炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のリサイクルや、「宇宙で使える金型」などユニークな事業に取り組み始めている。
射出成形金型を主に手がける
ワールド工業の創業は1974 年。現在も同社の代表取締役を務める今中猛氏が立ち上げた金型メーカーで、創業当時から一貫して射出成形金型の売り型の製作を手がけてきた。
創業当初は弱電系の電子機器関連やカメラなどμm 単位の精度が求められる精密部品の金型製作が主だったが、国内弱電メーカーの景気低迷という時代の流れを受けて対応分野を多角化。現在では、自動車や航空電装系の部品、医療・バイオ関連、ライフスタイルグッズなどさまざまな成形品の金型を手がけるようになっている。
本社営業技術部の砂山和俊次長(図1)は、「昨年秋までは自動車部品の仕事が多かったのですが、最近では容器などライフスタイルグッズの受注が増えています」と近況を振り返る。
生産拠点は本社工場と鹿児島工場(鹿児島県鹿屋市)の2 カ所。鹿児島工場は金型加工がメインで、本社工場でその組付けを行う。鹿児島工場には牧野フライス製作所の微細精密加工機「iQ300」を2 台所有しており、過去にはスマートフォンのレンズ金型を製作した実績もある。「今中代表の本音を言えば、創業当初に手がけていた精密金型をまた中心事業に据えたいという思いがあるようです」(砂山次長)。
航空宇宙分野への進出を目指して
同社も他の多くの金型メーカーの例に漏れずリーマンショックやコロナ禍の影響を強く受け、業績が大きく傾いた時期を経験した。その中で、同社が活路を見出す糸口と捉えた事業の一つがCFRP のリサイクル事業だ。
取組みの契機となったのは、2016 年に鹿児島工場で取得していた航空宇宙関連の品質マネジメント国際規格のJIS Q 9100。同規格を取得した背景には今中代表の「航空宇宙分野へ事業進出したい」という強い思いがあり、同工場には5 軸加工機も2 台導入したが、「実際は規格取得後も活用できていない状態が続いていました」(砂山次長)。規格の維持・更新にも少なくない費用がかかることから何らかの形で事業に活かしたい考えがあった。
そうした中、同社は2022 年、地元商工会議所の仲介で兵庫県の企業間連携プロジェクト「ひょうご航空ビジネス・プロジェクト」(HAC)と出合う。HACは新産業創造研究機構(神戸市中央区)が地元企業支援活動の一環で進めている取組みで、企業間の協力によって航空機部品の加工に対応できる生産体制の構築を目指すというもの。
同社はこれを好機と捉えて、HAC への参画を決めた。「初めて金型業界の外の世界に触れることができ、新たな受注も得られるようになりました」(砂山次長)。プロジェクトへの参画をきっかけに、同じく宝塚市に工場をもち、航空機事業を手がける新明和工業と連携し、航空機用CFRP 部品の端材を用いたリサイクルトレーの金型製作に関わるなどの実績も得られた。
2025 年11 月には岐阜大学工学部名誉教授で、CFRP の研究などを行う守富環境工学総合研究所の守富寛所長からCFRP のリサイクル研究に用いる実験装置(図2)を譲り受け、以来そのリサイクル技術の開発に取り組んでいる。
この実験装置は、使用済みのCFRP 板材を短冊状に細長く切断し、その両端を加熱してほつれさせ、ほつれた部分を絡ませて短冊どうしを継いでいくことで長いひも状に加工していくというもの。「具体的なリサイクル方法については現在研究開発を続けているところ。建材として鉄筋コンクリートの鉄筋代わりに使用する案なども出ていますが、コスト面で合わないという課題もあって、現在はさまざまなアイデアを収集している段階です」と砂山次長は説明する。同社が得意とする金型技術と組み合わせることで強いシナジー効果が生み出せることを期待しながら、研究を進めている最中だ。
月面で成形する「スペースモールド」
一方で、同社は上記とは異なる角度からの航空宇宙分野へのアプローチも開始している。それが同社の西岡正幸取締役社長(図3)が旗振り役となって推し進めている「宇宙で使える金型の開発」の取組みだ。構想を形にすべく踏み出すきっかけとなったのは、航空宇宙関連の展示会である2024 国際航空宇宙展への出展だった。
月に人類を送り込むことを目標としたアルテミス計画が進められたり、スペースX など民間企業が宇宙ロケットを飛ばしたりする時代の中で、「宇宙に進出するための技術開発の流れが確かにある。人類が月に滞在するなら、現地で必要となるモノをつくり出す金型は必須となるはずと考えました」と西岡社長は事業を開始した当時を振り返る。
同社が開発を目指すのは、月面で月の砂「レゴリス」を成形材料としてプレス加工を行うための金型で、「スペースモールド」と名づけた(図4)。「宇宙には持っていけるものが非常に限られるので、成形材料は現地で調達することを想定しています」(西岡社長)。また、成形時に微量に使用するバインダ(結合剤)の研究も進めており、「人の排せつ物に含まれる尿素(カルパミド)が使えないか」とあらゆる可能性を探る。太陽光で稼働するプレス機械の開発も構想中だ。「スペースモールドの取組みが新聞記事で知られたことで鳥取県庁とつながりが生まれ、鳥取砂丘月面実証フィールド『ルナテラス』に興味を持ち、宇宙産業ネットワークに参画しました。」(西岡社長)。
生き残りには協業が必須
同社の今後について、砂山次長は、「これからは金型メーカーが自社のみで生き残っていくのが難しい状況にある」という認識をもっている。「同業種、異業種を問わず、もっと協業を進めていかなければいけないと考えています」。特に創業時から同社の強みとする精密金型の製作技術を活かした精密部品加工に取り組みたい思いは強く、HAC での協業の中ではH3 ロケットの試作部品を手がけた事例もある。今後はこうした実績を積み重ねて、企業間での協業をさらに推し進めながら精密部品の事業を広げていきたい考えだ。