大手自動車メーカー向けの足回り部品の板金プレス金型の設計・製作が主力の旭洋工業製作所須山工場(静岡県裾野市)。手がけるのは、スポーツ多目的車(SUV)やピックアップトラックなど、近年需要が旺盛な車種の安全性や走行性能と密接な関わりがある製品を生み出す高付加価値な金型で、世界中に送り出している。ドライバーに安全・安心、運転する楽しさを提供する機能・技術の源泉である金型づくりを支えているのは、自分の役割を考え、責任をもって向き合う技術者の存在である。
金型設計・製作から量産に対応し、自動車メーカーを支える
富士山のふもと、緑豊かな静岡県を中心に国内に5 つ、タイとインドネシアにも拠点を置き、大手自動車メーカーとその1 次サプライヤーに向けた自動車部品やプレス金型を手がける旭洋工業製作所。
須山工場で製作されるプレス金型が成形するのは、自動車のシャシー部分の中心である「ラダーフレーム」の部品。「クロスメンバ」や「ハウジング」と呼ばれる部品である。エンジンやサスペンション、ステアリングなど駆動系や足回り部品などを支え、ボディとつなぐ。路面からの衝撃の緩和や衝突時のエネルギーを吸収する役割があり、走行時の車体のねじれを抑え、乗り心地と操縦安定性を向上させるポイントになる部品の一つである。重要な役割を担う部品を生み出す金型を須山工場は設計・製作する。
そんな高付加価値な金型づくりを支えるのは、理論と現実を理解し、モノづくりに向き合う若手と中堅技術者に加えて、現場で鍛え上げられながらリーダーシップを養い、自分の能力だけでなく、周囲の能力も高めようとするベテラン技術者である。
生産性・品質に携わる責任
金型製作の最初の工程である設計。確かな製品を高品質で生み出す須山工場の金型製作のすべてはここから始まる。工機事業部設計グループの室伏佑哉さんは設計に関する知識と経験を積み上げることで自分の能力を高めることに努めている。
「条件が厳しい金型の設計をやり切ったときに成長した手応えを感じます。大変ですけどね」と穏やかに話す。手がける金型で生産される自動車骨格部品は、板材を抜き・絞り・曲げの多様な工法を組み合わせて成形する。そのため、金型に組み込む部品も多く、構造は複雑になる。トランスファー金型の場合は、製品が要求される形状・品質を満たすことはもちろん、高速で生産できるように金型の構造を考え、設計する必要がある。特に近年は、部品の難易度が高まり工程数が増える傾向にあるため、金型サイズの小型化が求められている。
室伏さんは「製品に対して、金型のサイズは小さいものが求められ、その一方で生産速度は速まっていますので、剛性や耐久性が必要なのです。大きいサイズの方が剛性や耐久性は高まり、設計はしやすいのですが、ユーザーの要求仕様を満たす機能を発揮する金型の構造を考えます」と実直に向き合う。金型設計の醍醐味を「制約条件がある中で要求仕様を満たすこと」と表現する。
プレス成形後、金型内から製品を次工程に送る際、跳ね上がる現象が生じる。工程品が跳ね上がると搬送機構が適切に製品をつかめず、狙いとする位置に製品を配置できないため、搬送不良になる。そのため、上型に跳ね防止の機構や部品を組み込み、対応するが、簡単にはいかない。ピンやガススプリングなどを組み込むスペースがないのである。
「いろいろな部品を組み込むことができれば、課題に対応できるのですが、必要な部品や機構を追加するスペースがない。スペースの奪い合いなのです。頭が痛いのですが、どうにか収めて、想定通りに成形できる金型に仕上げることができると、達成感があり、ノウハウが自分に身についた手応えを感じられます」(室伏さん)。仕上げ工程と連携して、課題をクリアすることもあり、そのときも達成感や金型づくりのおもしろさを実感するが、室伏さんは「自工程のみでやり切りたい」という思いが強い。自らを厳しく律し、豊富な知見をもち、それを適切な場面で活かすことができる金型設計者を目指している。
円滑なモノづくりを支える
旭洋工業製作所では、金型設計・製作を手がける一方で、協力工場から仕入れたプレス金型を使用し、量産することも主要事業の一つである。自動車部品や冷凍機の部品を供給する。仕様通りの精度、品質を、目標速度で生産し続けるために金型が果たす役割は大きい。協力工場に金型の製作を依頼し、自社で問題なく運用できるか評価し、量産につなげる担当者として、知見を積んできたのが工機事業部プレス技術グループの池沢啓さんである。
「思うように協力工場に意図が伝わらないことがあり、試行錯誤を繰り返すときもありますが、原因を突き止めて無事に完成したときは達成感があります」と苦労を乗り越えて目的を達成する喜びを語る。
池沢さんは、現在、顧客の大手自動車メーカーに出向し、製造工程をもとにした金型の企画や製作後の金型を量産工程に引き渡すことを担当する「ゲストエンジニア」として金型づくりに携わる。フロントサスペンションの部品の成形性を評価し、場合によっては形状の提案を行う。池沢さんはゲストエンジニアの仕事のおもしろさを「さまざまな分野のエンジニアと関わることで専門知識を得たり、自分の意見が求められたりすること」と説明する。
その一方で難しさについても明かす。「勝手を知っている協力工場や自社ではあえて確認しなくても進んでいたことでも、現在の仕事場では報告や細かい確認、念押しが欠かせないし、自分の意見をはっきり伝えないと、そのまま進んでしまう。しかし、自分の意見だけを主張してもうまくいかないので、調整しながら進めていかなければなりません」(池沢さん)。自分自身について、はっきりと主張することや、周囲と積極的にコミュニケーションをとって調整をつけながら物事を進める能力があるとは思っていなかった。しかし、現在、顧客先でのゲストエンジニアとして、自社以外の人と仕事を進める経験を通して、意見を述べ、コミュニケーションを図りながら仕事を進めていく力がついていることに手応えを感じている。
技術・技能とともに大切なこと
自身の知識や専門性を高めることに意欲的な技術者に加えて、大局観をもって金型づくりと向き合う技術者がいることも旭洋工業製作所の強みだ。工機事業部金型・機械グループのチームリーダーの松井英樹さんは入社以来、金型の組立て・仕上げを担当してきた。
「大小いろいろな失敗をして、よく叱られていました」と振り返る。しかし、現在はその確かな作業品質と本質を突く意見や提案に社内からの信頼が厚い。新規製作の金型の組立てと調整を行うことで金型構造や部品などの基本を理解し、補修時に磨きや肉盛り溶接を行うことで作業品質を高めてきた。
「5 年目くらいから金型づくりのおもしろさがわかってきたような気がします。経験したことが結びつき始めたからだと思います」(松井さん)。
今、松井さんがより一層、意識的に取り組んでいることは若手や後進の育成だ。以前、タイの生産拠点から若い社員が研修で須山工場に1 年程度、配属されたことがあった。そのときに松井さんが作業を教え、会社生活のさまざまな面でフォローした。
「自分が教えたことで、上達していく様子が見ることができたのが純粋にうれしかったですね。教えることで、自分の知識がより整理されて確実なものになっていく実感がありましたし、お互い翻訳アプリを使って会話することでも仲が深まり、教えることのおもしろさを知りました。自分も若手の頃、タイ工場に赴任したことがあり、コミュニケーションのしづらさを感じたので、その経験も活かせました」と明かす。自ら考え、自発的に行動したことで知識や技能が高まることとは違った手応えを得た。
自身が18 歳で入社したとき、年齢が最も近い先輩であっても15 以上の年の差があった。松井さんはあまり気にしなかったことを振り返るが、現在の若手は違うかもしれないと想像する。
「今、高卒の新入社員がいたら、自分の入社時と同じ環境になります。年齢差がある人とのコミュニケーションは難しさもあるので、負担を感じさせないようにしたい」と雰囲気づくりを意識する。
自分の役割を理解して責任を完遂
それぞれの立場で金型づくりにていねいに向き合う3 人。室伏さんの上司である設計グループの安澤豊和さんは「課題に対して、自分で考えてから相談する姿勢、意見がはっきり主張できる点が頼もしい。若いが臆せずいろいろなことを学んでほしい」と激励する。室伏さんも着実に知見を重ねていくつもりだ。
池沢さんの上司である工機事業部SE グループの飯塚敬久さんは「協力工場と社内の調整など大変な業務をこなしてきた。出向先では多分野について、学んでいると思うので、ぜひ得た知見を持ち帰ってほしい」と期待する。池沢さんも「板厚減少のしきい値やシミュレーション結果と現物のかい離をなくすことに取り組み、試作レスにつなげることに貢献したい」と意気込む。
松井さんの上司である工機事業部次長の菅原守明さんは「金型組立てや仕上げの実務は言うことがない。あとは後進を育ててマネジメントの意識をもってほしい」と会社の将来を託す。松井さんもそれに応える準備はできている。
自らの役割を理解して、着実に進む頼もしい技術者が旭洋工業製作所の金型製作の現場を支える。