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型技術 連載「巻頭インタビュー」

2026.02.27

現場で培った型技術を活かしEV化時代の課題に挑む―日産自動車

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日産自動車㈱ 執行職
パワートレイン・EVコンポーネント生産技術開発本部 本部長
村田和彦氏

Interviewer
三菱電機㈱ FAシステム事業本部
産業メカトロニクス事業部 メカトロ事業推進部
小川 元氏

 国内外にファンをもつGT-R やグローバル市場向け商品として世界初の量産EVとなったリーフなどの名車を生んだ日産自動車。昨今は経営的な視点で見られることが多いが、現場に目を向ければ日本を代表する自動車メーカーとしての高い技術力とそれを支える現場力がある。同社のパワートレイン・EV コンポーネント生産技術開発本部を束ねる村田和彦氏に話を聞いた。
村田和彦氏(左)と小川元氏(右)
小川
 まずは村田様の今までのご経歴と業務経験などについてお話ください。

村田
 日産自動車への入社は1985 年です。入社後は横浜工場の品質保証部門へエンジニアとして配属されましたが、配属後も入社前からの希望だった「生産技術をやりたい」ということをずっと言っていました。大学は機械科だったのですが、自動制御などを習う中でロボットに興味が出て、当時世界一ともうたわれた座間工場の溶接ロボットにあこがれていたんです。それで途中から生産技術へ移りまして、エンジンの組立てや性能テストといった仕事に携わっていました。

 海外工場での経験もあって、95 年に英国、2006 年にはタイへそれぞれ4 年間赴任しました。帰国後しばらくして、15 年からここ横浜工場の工場長を任されることになりました。余談ながら、この横浜工場は日産自動車の発祥の地で1933 年に操業を開始して、2023 年には90 周年を迎えました。また、23 年度にはエンジン生産台数4,000 台も達成しました。そうして4 年間ほど工場長を務めたあと、私が所属する部署の常務執行役員になり、現在に至ります。一方、社外の経歴で触れておくべきこととしては、24 年に型技術協会の副会長に就任したことがあります。

小川
 海外赴任では、工場の現場のマネジメントなどをされていたのですか。

村田
 そうですね。特に英国では、北部にあるサンダーランド市の工場でプリメーラのエンジン生産の立ち上げ、自動車のシャシーやブレーキディスクなどのアクスル部品の溶接関連の現場に携わり、現地スタッフのサポートなどを行っていました。

小川
 エンジンの立上げというのは貴重な経験ですね。村田 自分がやるのではなくサポートに徹しなければいけないところが難しかったですね。自分でやった方が早いのにと思いながらも、やはり現地スタッフの成長や育成を考えて、自身に悟らせないといけない。タイでもエンジンとトランスミッションの立上げがあって、そこでもいろいろな経験をさせてもらいました。小川 そのときは品質保証と生産技術の両方の経験が活きたのではないですか。

村田
 そうですね。品質保証の部門で幅広く現場を見たうえで生産技術へ移ったので、視野が狭くならなくて済んだと思います。こういうキャリアの積み方は珍しいようで、工場長への就任時にパートナー企業の方々が挨拶に来てくださって「どちらの部門の出身ですか」と尋ねられたときに「品証です」と答えると、「そういう方は初めてです」とよく驚かれました。

小川 
 ちなみに、村田様が所属されるパワートレイン・EV コンポーネント生産技術開発本部では、現在どのような分野を手がけているのですか。

村田
 以前はやはりエンジンが主だったのですが、今はエンジンだけではなく、モータなどの電動化関連、全固体電池のバッテリー、さらにギガキャスト関係などをやっています。EV 化に伴ってこうした分野を手がけていますが、全固体電池などの従来と異なる分野の開発でもエンジンに携わってきた人たちの経験が活きていると考えています。例えば、全固体電池を構成する金属箔を切断するのに型が必要だし、触媒を扱うノウハウもバッテリーの正極を塗るときの技術としてそのまま使えているので、現場の方々にも移行してそのまま担当してもらっています。
横浜工場のショールームに展示されている1937年発売のダットサン16型

横浜工場のショールームに展示されている1937年発売のダットサン16型

横浜工場のエンジンミュージアムには歴代の車種に搭載されたエンジンが並ぶ

横浜工場のエンジンミュージアムには歴代の車種に搭載されたエンジンが並ぶ

最終的には必ずEV 化する

小川
 近年、自動車業界ではEV 化に代表される大きな変革が起きていますが、御社ではその変革についてどのように捉えていますか。

村田
 私が常務になった2019 年頃は、業界ではまだICE(Internal Combustion Engine:内燃機関)が盛んでしたが、一方でカーボンニュートラルが叫ばれ始めて「やはりEV 化を進めていかなければいけない」という意識が芽生えだした頃でした。当社ではすでに2010 年にEV 車のリーフを発売していましたが、19 年頃から社内リソースを電動化にシフトして、本格的にモータやバッテリーに力を入れ始めました。

 また、EV は積載するバッテリーによって車体重量が増えるほかつくり方も変わってくるので、軽量化や低コスト化を狙う必要が出てきた。それでやはり部品点数を減らして軽量化できるギガキャストもやろうという話が出てきました。さらに、バッテリーもいずれ全固体電池が必要になってくるということで、2022年には全固体電池の研究・開発を行う部門を新たに立ち上げました。全固体電池については、2024 年にパイロットラインが完成しまして、28 年の車載実現に向けて取り組んでいるところです。

 ただ、業界の流れとしてはコロナ禍に伴って半導体が不足したり米国でカーボンニュートラル関係の規制が緩くなったりしたことで、EV シフトにも少し鈍化傾向が出てきています。そうした過渡期の踊り場として、ハイブリッドが注目されたりICE へ少し回帰したりしているのが今の状況です。ただ、最終的には必ずEV 化の時代がやってくると考えているので、当社としてはそれに向けて軽量化・高剛性・低コストなどの課題に着々と挑んでいきたいです。

小川
 今はEV 一つに絞るのではなく、幅広くやっていかなければいけないのでしょうね。御社ではエンジンを発電機としてモータを駆動させるハイブリッドシステムの「e-POWER」がありますが、そのウェイトも高まっていくのでしょうか。

村田
 おっしゃるとおりで、当社のハイブリッドの主流であるe-POWER は、各地域で増やしていきたいと思っています。

小川
 e-POWER の熱効率を上げる技術も必要になりますね。

村田
 一般にエンジンの熱効率は40 %が一つの狙いどころですが、新たな第3 世代e-POWER のエンジンは熱効率にかなりこだわっていて42 %を超えています。英国で販売しているキャシュカイというSUV に初搭載されていて、欧州の同クラスの車で燃費が№ 1だということが国の機関によって証明されたそうです。

 細かい構造の話になりますが、エンジン内部の燃焼室と吸排気口のつなぎ目であるバルブシート部に、銅合金の粉末材料を超音速で吹き付けて皮膜する「コールドスプレー」という技術を、量産エンジンとしては世界で初めて採用しました。これにより、吸気ポートから燃焼室に入る空気流の乱れを抑え、強いタンブル流を形成することで、燃焼効率を高めました。実はこの技術に10 年以上ひたすら取り組んできたエンジニアが当社にいて、ようやく日の目を見ました。粉末材料の噴射ノズルを加工するのがかなり大変でしたが、そこに当社の冷間鍛造の型技術で培ってきたワイヤ放電加工や鏡面仕上げの匠の技が活かされているのです。

 また、型技術の応用という意味では、全固体電池の開発でもそれが活かされています。正極と電解質を密着させる工程では特別なプレス機を用いた従来のプレスの技術を使って製作しています。

小川
 御社がこれまでしっかりやってきたものがしっかりと新しい次のものにつながっている。とても良い話ですね。

日本のモノづくりの基盤を整える取組み

小川
 日本の金型産業についてはどのように見られていますか。

村田
 国内の金型生産量は2000 年頃をピークに減少していっています。その一方で、海外の金型生産量は増えている。当然ながら、自動車部品のほとんどは金型がないとつくれません。そういう意味で、金型は日本のモノづくりの根幹だと考えているのですが、その根幹の部分が衰退してしまったら、産業そのものが中国などの外国に握られてしまうことになりかねない。そうした強い危機感がある中で、型技術協会の理事を務める当社の岡本辰也さんやトヨタ自動車の大澤晋一郎さんらが、日本の金型産業を盛り上げようとしています。その中で、特に金型の製作に焦点を当ててモノづくりの基盤の効率化を図っていくということを目的に、国内自動車メーカー各社や金型メーカー、部品加工メーカーの有志が集まって、1 年半ほど前に発足させたのが「自動車金型づくり効率化推進会議」です。

小川
 有志が集まってつくったというのがまたすごいところですね。

村田
 その端緒の一つにもなったのが、現在注力して取り組んでいる金型の図面データのルールづくりです。日本の自動車メーカーの金型製作の現場では、1990年代に2D 図面から3D 図面への移行が始まりました。2D 図面から木型をつくって倣い加工をしていたところから、3D 図面に移って一気にイノベーションが進んでいきました。

 ただ一方で、図面データの表記の仕様や取扱いのルールなどは自動車メーカー各社がそれぞれ独自で決めていってしまった。そうしたデータを受ける金型メーカーや部品加工メーカーは、発注元の自動車メーカーそれぞれの仕様やルールに合わせて対応しなければならなかったので非常に効率が悪かったのです。一方でドイツを見てみると、アウディ、BMW、ベンツといった各社で金型製作の基盤の部分は統一されている。これでは日本の自動車産業は強くなれません。

 現在は国内の主要自動車メーカー8 社すべてが賛同して推進会議に参加しています。今まで各社が課題として捉えてはいたけれど具体化させるきっかけがなかっただけで、みんなが待ち望んでいた方策だったと思います。

小川
 タイミングというのもあったのでしょうね。

村田
 今回の取組みはすごくうまくいっている例だと思います。各社で特色のある技術的なノウハウをもつ一方で、日本の基盤技術の一つとして備えているということはとても大事なことです。今後もいろいろな技術分野で今回の推進会議のような取組みができればいいなと思っています。

今年の技能五輪では金メダルを獲得

小川
 御社の現場づくりではどのような部分に注力をしていますか。

村田
 当社では多様な人材が働きやすい環境をソフト面・ハード面で実現する「スマート工程」という取組みを進めていて、その一環でデジタル技術の活用を現場で進めています。例えば、摩耗が進んだ金型を3Dスキャナで読み込んでそのデータをCAD データと照らし合わせることで摩耗部位を特定し、溶接ロボットを活用して自動で修復するといったものです。ただ、こうしたロボットのティーチングには熟練者の技術が不可欠です。つまり、現場の自動化と技能伝承は両立してやっていかなければいけない。自動化の陰で人材育成がきちんと進んでいることが必要なのです。今、自動化が実現しているのは過去の人材の貯金のおかげであって、ただ単に自動化だけを進めるのは貯金を食いつぶしているのと同じことです。

小川
 これまで蓄積してきた技術や技能をしっかりと人が受け継いでいくことが今後の企業の競争力の源泉になるのでしょうね。

村田
 そうですね。当社でも現場目線でモノを見る人がいなければいけないということで、4 年ほど前から現場たたき上げの技能者を副工場長や部長などの要職にあてるということを始めています。要職が大卒の技術者ばかりでは、技能育成に本当に目を向けられるのかという心配があるからです。また、その流れで言えば、当社では若手が技能の高さを競う技能五輪全国大会への出場にも力を入れています。実は今年の技能五輪では、私の所属する部署の2 人がフライス盤の部門で金メダルと銀メダルを獲得しました。
横浜工場のエンジンミュージアムには歴代の車種に搭載されたエンジンが並ぶ
技能五輪フライス盤センター(上)では、技能五輪でのメダル獲得に向けた技能訓練を行っている(下)

技能五輪フライス盤センター(上)では、技能五輪でのメダル獲得に向けた技能訓練を行っている(下)

小川
 それはすごいですね!メダルをもらうまで技能を高めるとなるとなかなか難しいものです。

村田
 金型製作の現場に技能五輪の選手がフライス加工を特訓する専用エリアがあって、タイムトライアルや見物人を招いた公開トレーニングをやります。プレッシャーのある中での訓練は結構盛り上がります。こういったことも現場技能の育成の一環かなと思います。

小川
 今は自動車業界もさまざまな変化の時代を迎えていて、モノづくりのやり方もどんどんと変わっていっています。そうした中でも、御社のように実直に技術や技能を磨いた若者たちが次の時代を背負っていくのだと思います。本日はありがとうございました。
村田和彦(むらた かずひこ)
1985 年 東京理科大学 工学部 卒業
同 年 日産自動車㈱ 入社
2002 年 同社 パワートレイン生産技術部 主担
2006 年 ニッサンパワートレイン(タイランド)㈱ 出向管理職
2010 年 日産自動車㈱ パワートレイン生産技術部 主管
2013 年 同社 横浜工場第一製造部 部長
2015 年 同社 理事 横浜工場長
2019 年  同社 常務執行役員、アライアンスグローバルVP パワートレイン生産技術開発本部
2021 年 同社 常務執行役員、パワートレイン生産技術開発本部
2024 年  同社 常務執行役員、パワートレイン・EVコンポーネント生産技術開発本部
2025 年  同社 執行職、パワートレイン・EVコンポーネント生産技術開発本部

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