冷間鍛造・精密プレスの金型部品、ステンレス製の機械部品、冷間異形引抜ダイスなどの製造を手がける市川ダイス。同社では経営者自らが旗を振り、「全員参画型経営」の理念を啓蒙。社員それぞれが会社経営において「今自分がすべきことは何か」を判断し、行動する一体感のある組織を形成している。そんな同社では、プロダクトマネジメントメンバー(PMM)という独自の役割をもった社員をはじめとした若手の活躍がめざましい。
左から、木内 義人さん、髙木 雅也さん、並木 秀樹さん
納期達成率99 %の「トータルワン」企業
市川ダイスの創業は1962 年。冷間鍛造と精密プレス金型部品を手がけており、近年ではその高い加工技術を活かしてステンレス製の機械部品も製造。ビジネスチャンスを広げている。
しかし、谷津大幾社長は「当社は何かオンリーワンの技術をもっている会社ではなく、『トータルワン』の会社」と説明する。技術、品質、納期などのあらゆる点において合格点をもぎ取り、「信頼できる取引先」として地位を確立している。そんな同社のスタイルを表すのが「納期達成率99 %」という数字。2008 年頃より「全員参画型経営」を掲げ社内教育に力を入れており、定期的に、全社員を対象に谷津社長自らが自社の「経営計画書」に基づいた勉強会を行っている。経営理念をもとにした会社独自の「あたり前」の定義付け、資金や売上げの流れ、顧客価値、納期・品質の根拠理解を促し、社員それぞれの自律性を高めているのだ。前述の納期達成率もキーマンとなる専任の納期管理者を置かず、各チームがチームリーダーを軸に全員で納期の重要性を共有し、それぞれが最善の行動をすることで維持できている。
また、同社には他社では見られない独自の役職がある。それが「プロダクトマネジメントメンバー(PMM)」だ。若手を代表する役割で現在は3 名在籍しており、トップである谷津社長と工場長からの指示を、製造関連チームや営業チームなど社全体に伝達している。営業チームの主任である並木秀樹さんと放電チーム主任の木内義人さんはそのPMMの役職を担い、所属部門だけではなく会社全体を引っ張る立場だ。また、LA チームに籍を置く髙木雅也さんは加工技術を習得する段階を超え、「会社の動きや方向性」を見据え行動すべく成長を続けている。
3 人は実は同じ地元の工業高校出身だ。一番の年長者である並木秀樹さんの入社は2003 年。現在は営業チーム主任として顧客からの問合せ、要望の聞き取りや提案、また営業部内においては他部署とのコミュニケーションの窓口としても奮闘している。営業担当者は全員が技術部門を経験していることもあり、並木さんのキャリアも平面研削盤のオペレーションからスタートしている。7 年ほどの間に平面研削盤と旋盤のオペレーションを経験。技術者として自信がついてきた頃、PMM にも抜擢されたのだが、ここから数年が苦しい時期となった。
「当時、ちょうど自分は外径研削チームに異動したのですが、もともといた平面研削のチームで退職者が出てしまい、人が足りないという事態になりました。古巣の様子が心配で、『とにかく早く自分が外径研削を覚えて余った時間で平面研削を助けよう』と思いました。今考えるとなかなか無謀です」(並木さん)。
日中は外径研削をこなし、残業として平面研削をこなす。「できない」を言うことが苦手な並木さんは少しずつ追い詰められていった。しかし、ひょんなことから自身の窮状をPMM のメンバーに吐露。すると思っていたよりも皆が話を真剣に聞き、励ましてくれた。今の自分の状況を把握している仲間がいることは大きな支えとなり、苦しい数年間を乗り越える力になった。この経験は「一人でできることには限界があり、ときには人を頼ることも大切」だと並木さんに教えてくれた。そしてこの学びは本来の自分には不向きだと思っていた営業チームでの業務にも大いに活かされている。
「できないことを『できる』と答えるのはどんなにやる気があってもお客様に嘘をついているのと同じ。頼れるところは頼ってチームにできる最大限の回答や提案ができればいい」(並木さん)。
チームの「伸びしろ」を見逃さずに
一方、同じくPMM である木内さんの入社は2006 年。入社以来さまざまな加工機械を担当し、現在は放電チームの主任として現場を束ねている。自らも加工を担当しつつ、日々の予定の確認や数カ月単位の生産予定の見通しを付けつつ、現場での機械や人材の割り振りを行う。
「メンバーや設備のキャパを考えて、一番良い組合せを考えるのは、ちょっとしたパズルをしているようでおもしろくもありますね」(木内さん)。
現在の放電チームのリーダーになったのは放電を担当し始めてすぐのこと。もともと、ベテランたちの多いチームだったか、納期遵守にまだまだ「伸びしろ」があると判断され、そのかじ取り役として若手の木内さんが抜擢された。「たまたまそこにいたからだと思いますよ」と木内さんは笑うが、リーダーになってからはその伸びしろを見逃さなかった。
確認してみると、ベテランの多いチームでは日々の生産スケジュールは「暗黙の了解」でなんとなく進んでいた。まずは改めて仕様や納期を整理し、効率性を考慮した割り振りを徹底。とは言え、なかなかうまくはいかないことも。
「人間ですから『それは苦手』、『あとにしたいな』という気持ちの問題は出ます。そこで揉めてしまうことはありましたね」と木内さんは振り返る。
ただ、チームリーダーとして、そして当時、任されたばかりのPMM としても納期遵守がいかに同社にとって最優先事項か理解してもらう必要がある。そこで木内さんがとった手段はシンプル。皆がやりたくない仕事は自分がやるのだ。
「納期を守るということがいかに優先されるかを知ってもらえたらと思いました。自分も作業者ですから、別に大したことではない」(木内さん)。
チームリーダー10 年目の今では就任前には頻発していたチーム内の納期遅れはめったにないという。淡々と業務内容を整理し、仕事をこなす木内さんの姿勢がチームを変えたのだ。
思い切りのいい加工ができるように
「並木さん、木内さんに比べればまだまだ自分の仕事に一生懸命です」と語る髙木雅也さんの入社は2016 年。入社以来、旋盤の工程を担当するLA チームで腕を磨いてきた。入社10 年目となり、最近ではより繊細な技術と気配りが要求される「形状仕上げ」の担当も増えてきた。やりがいもあるが自他ともに認める心配性の髙木さんは苦労するシーンも。
「なかなか機械を信用できず何度も測定を挟んでしまう。上司から『最後図面の形になればどんな工程を踏んでもいい』と教えられ、つまり『常識にとらわれ過ぎず最短ルートを見つけて加工しなさい』と言うことなのですが難しいですね」(髙木さん)。
形状仕上げで使用する機械は、精度自体は比較的出しやすいため、高木さんいわく「信用できる」機械ではあるが、従来の5/100 程度の公差から1/100の公差までを追求する中、気は抜けない。また、プログラム作成が手動で行うところも多くプログラムの作成から段取り、稼働までに何度も考え込んでしまうことも。早くチームリーダーの指示を仰いだ方がいいと言うことはわかっているが、何とか自分で答えを出せるようになりたいという思いを強くもっている。
「うちの会社にとって納期通りに仕上げることの大切さはしっかり理屈から理解しています。だからこそ自分のできる一番高効率な加工技術を身につけたい思いがあります。加工条件を素早く割り出し、思い切りをもって加工する。このあたりの感覚を早く自分のものにしたい。今がもう一段成長できるチャンスだと思います」と髙木さんは前向きだ。
本当の意味での「全員参画型経営」を目指して
今までのキャリアを振り返る中で髙木さんは「手痛い失敗をしたことはない」と語る。それは同社内の人間関係が良く、先輩がいつでも手を差し伸べてくれたからこそだ。
「最近若手が増えましたが、なかなか交流がうまくいっていないことが心配。人と関わることは面倒なこともあるかもしれませんが学ぶことの方がずっと多い。中堅と若手の間にいる自分が潤滑剤になっていけたらということも密かな目標です」と髙木さんは組織全体の雰囲気づくりにも気を配る。
そんな髙木さんの言葉は、先輩である並木さん、木内さんにとってもうれしいものだ。そのうえで並木さんにはPMM として同社が乗り越えなければならない一種の壁も見えている。
「髙木も言うように当社の人間関係は良好。しかし、仲が良いだけでは意見が食い違ったとき衝突して終わってしまう。意見の違いを認めたうえで、さらにそこから新しい考えを出していけるような組織にならないといけない。そこに行くまでにはもう一歩、頑張らないと」(並木さん)。
また、木内さんも「将来、市川ダイスで働いていることが自慢になるような会社にしたい」というPMM として大きな目標がある。
「社員全員が経営者の視点をもって」と言葉で言うのは簡単だ。しかし、その実現には粘り強い意識改革だけでなく、社員の「この会社が好きだ」という単純で強い思いが必要になる。これからも皆で働いていく場所を守りたいという思いが、強い組織には不可欠だ。向上心が強い若い技術者と心・技が充実した技術者が市川ダイスを強い組織に導く。