名古屋市の南東部に本社・工場を構える山一ハガネ(名古屋市緑区)の精密加工拠点「AEROV(エアロフ)」は、同社が20 年以上にわたり積み重ねてきた事業改革と高精度加工への挑戦が結実した“技術戦略拠点”だ。エアロフは単なる高精度加工工場ではなく、環境・設備・測定の三位一体で構築された国内屈指の精密加工インフラであり、その中核設備の一つとしてHERMLE 製5 軸マシニングセンタ(MC)が据えられている。
1927 年に特殊鋼素材販売で創業した同社は、切断機や熱処理炉など積極的な投資を行い、業容を拡大。ばねなど主に自動車部品に加工される線材・帯材・棒鋼の販売を行う生産材事業と、金型の材料となる工具鋼を取り扱う工具鋼事業の二本柱で事業を展開してきた。
生産材事業は同社の重要な事業基盤として安定した受注を得ていた。一方、工具鋼事業は汎用性が高く、工夫次第で利益改善や販路拡大が可能であることに着目した寺西基治社長(図1)は、在庫管理の抜本的改革に着手。長年滞留している端材が棚卸資産として負担になっていたためこれを一掃し、入荷から出荷まで価格と在庫を一元管理できる仕組みを構築した。この改善が、同社が“自ら価値を生み出す”体質へ転換する起点となった。
HERMLE 導入がもたらした“加工思想の転換”
こうした取組みの中で、熱処理や機械加工などのサービス事業に踏み出したが、当時の加工は外注依存であり、高度な加工技術が求められる顧客の要請に応えるには限界があった。そこで浮上したのが5 軸加工機の導入だった。2000 年代初頭、5 軸加工機は国内ではまだ珍しく、特にドイツ製、スイス製が高精度加工の主役だった。2010 年に導入したHERMLE 製の5 軸MC は、3 次元形状の追従性に優れ、滑らかな曲面を実現する能力が突出していた。この“面の質”に触れたことが、同社の高精度加工への本格的な歩みを決定づけた。
高精度加工を実現するためには前後工程の整備、測定環境の構築まで含めた大規模投資が必要となる。「当時の仕事量に対して過大投資に見えたかもしれません」(寺西社長)と振り返るように、高精度加工体制構築に向けた動きは速かった。安田工業製の立形5 軸MC「YBM Vi40」といった日本製とともに、HERMLE 製5 軸MC を追加導入するなど生産設備の充実を図った。並行してエアロフ構想を進め、2012 年には建屋が完成する。運営費の7 割が空調に費やされるほど、徹底した恒温・恒湿環境を備えた工場だ(図2)。
エアロフは23±0.5℃の環境を24 時間維持し、1℃の温度変化で数μm 伸縮する金属の特性を抑え込む。これは単なる“高精度加工のための環境”ではなく、“高精度を安定して再現できるよう保証するためのインフラ”と位置づけている。
μm オーダーの高精度加工で活躍
この環境の中核を成す機械設備の一つが、HERMLE 製5 軸MC「C40U」(図3)。高剛性のガントリー構造、倒れのないY 軸、トラニオン式A 軸、衝撃吸収機能付きスピンドルなど、同機は高精度加工のための構造を徹底的に追求している。エアロフでは、平面度・平行度が数μm オーダーの金型部品、曲面形状を含む動力系試作部品、電気自動車(EV)向け金型の仕上げ加工など、最も高精度が要求される領域を担っている。
図3 HERMLE 製5 軸MC「C40U」(上)と同機で削り出したフィギュアスケート用ブレード(下)
特に3 次元形状の追従性と面品位は「日本製とはコンセプトが違う」(石川貴規技術開発本部技術開発グループGM)とし、エアロフの加工品質を支える重要な要素となっている。荒加工から仕上げまで1 台で完結できる安定性、長時間加工での熱変位の少なさ、大物から小物まで対応できるテーブルサイズなど、HERMLE 機の特性はエアロフの多品種・高精度加工に極めて適しているという。
「工作機械は日本製、海外製それぞれで特性が異なります。加工内容、ワークサイズなど目的に応じて、各機種のもつ性能を最大限に引き出すノウハウが当社の強みです」(同)と自負する。加工技術の追求とともに、長年蓄積した活用ノウハウも高精度加工実現の基礎を成していると言えそうだ。
測定環境も妥協がない。国内メーカーの3 次元測定機を検討したが、顧客の声を取り入れ、最終的にLeitz 製の接触式高精度3 次元測定機「PMM-G」を導入。測定範囲は5,000×4,000×3,000mm。ISO17025認証を取得し、測定結果そのものが国際的に保証される体制を整えた。
世界レベルの成果に見る実力
同社の高精度加工技術の高さを象徴する成果として、フィギュアスケート用ブレード「YS BLADES」が挙げられる。10㎏の特殊鋼から約270g のブレードを削り出す工程では、HERMLE 機の形状追従性とエアロフの環境が不可欠であり、国際大会で上位に立ったトップスケーターを支える技術として、選手から高い信頼を得ている。中でも、ミラノ・コルティナ五輪で金メダルを獲得した三浦璃来選手と木原龍一選手の「りくりゅう」ペアが愛用していることで一躍、注目を集めた。
山一ハガネは今、量的拡大から質的向上へとかじを切っている。寺西社長は「これからの日本は、どんなモノづくりをしていくべきか。それに、どうかかわっていくか」を取り組むべき命題ととらえていると話す。エアロフはその解の探求の場であり、同社が掲げる「高付加価値領域への挑戦」を体現する存在だ。高精度加工の未来を切り開く拠点として、エアロフは今後も進化を続ける。