プレス技術 連載「キラリ光る!塑性加工分野のモノづくり力」
2025.09.18
第12 回 金型づくりのマニュアル化で安定した品質を継続的に提供する<ナゴヤダイス>
プレス・鍛造加工で独自・個性的な技術を駆使してモノづくりに挑む企業、各種研究・開発団体をレポートする。(編集部)
冷間・熱間鍛造金型と精密プレス金型を設計・製造するナゴヤダイス(名古屋市緑区)は、2011年前後から金型づくりのマニュアル化を推進する。自動車、電子機器、医療機器などの部品を成形する金型づくりで技術・技能・ノウハウをデジタルデータ化、数値化、言語化したマニュアル書を作成する。
それまでの金型づくりでは、製造現場の若い作業者がベテランの技能を見て習得するといった古典的な手法で技能継承がなされていた。ベテラン技能者が自らの“技”を説明はするものの、「メモをとりながら覚えられる作業ならまだしも、金属の表面がザラザラになったらこの工具に替えるといったような感覚に委ねるような指導が多いため、学ぶ側としては覚えにくかった」(山口真人社長)。
感覚と見た目の判断だけで技能を教えられても若い作業者には難しく、難しいとやりたがらなくなり、それが高じると挙句の果てには退職してしまう。この悪循環を断ち切るためにも技能のマニュアル化は必要であり、なによりも世代間で技術・技能を継承することで金型の品質を安定・継続させることが重要だった。リピートが多い冷間鍛造型づくりでは再現性が肝要になる(写真1)。そのためには以前に製作した金型と同じ品質の金型を継続的につくれる技術と技能が不可欠になる。
写真1 冷間鍛造用ギヤのパンチ&ダイ。金型づくりでは安定した品質が求められる
そこで山口社長は2011 年、自らの社長就任を機にそれまで少しずつ進めていたマニュアル化を一気に加速させた。
「基本的にISO9000 を基準にマニュアルの作成を進めました」(山口社長)
誰が作業しても同じ品質の金型を提供できるようにするため、マニュアル書を基本理念として設計から製造、品質検査までの全工程の作業をマニュアル化した。
フローチャートに沿って金型を設計する
同社では金型の設計は100%子会社の㈱ワールドデザインが手がけ、そのマニュアルはすべて山口社長が作成した。
例えば、金型の設計は以下のようなマニュアル化されたフローチャートで進められる(図1)。まず、塑性加工理論の基礎を学び、それをもって製品図からプレス機械の選定とレイアウトを検討する。その際、断面減少率の限界値、据込み比と据込み回数の限界値、据込み回数、各工程の荷重をマニュアルに則って手計算する。そしてそれらの限界値と荷重の計算結果とプレス機械の仕様からダイ、パンチ、KO(ダイからの材料排出機構)、PKO(パンチに密着する材料を蹴り出す機構)などの大きさや量を確認する。冷間鍛造はレイアウト(成形順)と鍛数が重要になるのでこの段階で山口社長の承認を得る。
図1 金型設計は設計工程がフローチャート化されている〔㈱ワールドデザイン提供〕
次に組図を作成する。組図は成形方法によりパターン化された8 つの基本組図を基に作成する。基本組図には、①ダイ側成形パンチ側ピン押し、②ダイ側成形パンチ側被せパンチ穴あけ、③ダイ側穴あけパンチ側ピン押し、④ダイ側穴あけパンチ側被せパンチ穴あけなどがある。
さらに、組図が完成したらそれに基づいて金型の各部品図を作成する。冷間鍛造型のダイでは超硬合金のニブ(形状部)を鉄鋼のケースに圧入する際に焼ばめを用いる。そのため焼ばめの原理とその必要性を理解する。そのうえで①ニブの材質や外径寸法、ケースの外径や寸法などについて焼ばめ発生応力グラフグラフから圧縮強さ、引張強さが限界値(0.2%耐力)を超えていないか、②パンチピン、ダイピンの面圧が圧縮強さ限界(0.2%耐力)を超えていないか、③パンチピン、ダイピンのつば形状が面圧に耐えられる強度になっているかを確認し、量産時の金型寿命を予測する。これらの計算はすべて手計算でできる。
ここまでのフローで金型の設計は完了し、次に金型を製作してトライ(仕打ち)を重ねて不具合を解消していく。ただ、最近は設計が完了すると試作型を製作する前に鍛造シミュレーションでバーチャルトライをする要請が増えていると言う。
また、マニュアルに沿った金型設計であれば安定した品質を確保しやすくなり、パターン化された設計フローに基づいて据込み回数、荷重、各種の限界値を手計算で算出できるため金型費の見積もりをかなり正確に作成できる。
金型加工、検査もわかりやすくマニュアル化
金型加工のマニュアル化については、マシニングセンタ、フライス盤、形彫り放電加工機など各加工機による加工の基本事項と金型部品ごと顧客ごとの特有の加工ポイント、さらには失敗加工例を基にした注意点などを整備している(写真2)。
写真2 金型加工では部品ごとに特有の加工ポイントや過去の失敗事項もマニュアル化してある
また、研磨工程では砥石の番手を替えながら最終目的の表面粗さに研磨するが、面粗さと砥石の番手の関係をマニュアル化し、仕上がりの表面粗さと研磨をわかりやすくした。
最終工程の検査では、図面を貼付して顧客ごとの検査方法や注意点(公差、硬度、形状、刻印など)などをまとめた手順書を作成している。
以上のように設計から製造、検査まで経験と勘ではなく理論に基づくデータと数値、言語でマニュアルにして示す。それにより作業者の理解度が高まり、失敗の確率も下げられる。同社の平均年齢は30 歳前後と若く、毎年、一定人数の新卒者を採用できている。金型づくりのマニュアル化は次代の技術者・技能者の定着と育成に確かに寄与しているようだ。