プレス技術 連載「キラリ光る!塑性加工分野のモノづくり力」
2026.07.16
第22回 自らAIを駆使してモノづくりのアプリ、システムを開発する─オーテック
プレス・鍛造加工で独自・個性的な技術を駆使してモノづくりに挑む企業、各種研究・開発団体をレポートする。(『プレス技術』編集部)
自動車部品二次サプライヤーのオーテック(愛知県小牧市)は、エンジンと排気系部品を製造する塑性加工メーカーだ(写真1)。プレス、冷間鍛造と切削加工、溶接で部品を加工し、金型・治具は社内で製作する。
写真1 主要製品のエンジンと排気系部品(画像提供:オーテック)
同社は、EV 化、脱炭素化など社会環境の変化に対応するため、生産性の向上と新事業の開拓を目的に2021 年度から全業務のデジタル化を本格的に始めた。さらに2024 年度にAI を導入して業務の効率化に着手し、2025 年度にはAI を活用したオリジナルのアプリケーションを開発し、社内のみならず社外への展開も図っている。そのAI アプリが技能伝承AI「DENSHO AI」(写真2)と動画制作AI「MONO インサイト」(写真3)だ。
写真2 AI チャットで設備の不具合の原因推定や対策を提示する「DENSHO AI」(画像提供:オーテック)
写真3 作業者の動画を入力するだけで作業マニュアルと動画マニュアルを自動生成する「MONOインサイト」(画像提供:オーテック)
これらオリジナルAI アプリの開発に至る過程で同社は、3 つのフェーズでデジタル化を進めてきた。EV 化が進展する中でデジタル化により既存事業の生産性を向上させ、一方で新しい事業を創出する。そこにAI を活用することが有用だと判断した。
社員の20%がAIを使いこなす
まず、フェーズ1(2021 年度)でIoT センサや生産/ 品質管理システム、コミュニケーション/ 業務ツール(社内業務で情報の入力・蓄積・共通に活用)と外部のツールを導入して生産性向上とコスト削減につなげた。次いで2024 年度のフェーズ2 から生成AI のChatGPT を活用して実際の業務にAI の実装を始めた。また、AI 人材の育成にも着手した。
「2021 年度から社内業務の情報を外部ツールでデジタルデータとして蓄積してきましたので、それを活かすためにAI の活用を考えました」(小川大佑専務)
その結果、生産管理の現場では、従来は人手で90 分を要した受注管理をAI 化することで3 秒(AIシステムのデータ処理時間であり、受注処理のトータル時間は30 分未満)に短縮した。また、製造現場でも時系列ごと(1 分間隔)の加工品の生産数をIoT センサで可視化した。さらにAI を活用して生産傾向を把握し改善ポイントを検出できる機能の開発を進めている。
フェーズ1 以降、同社ではデジタルデータとAI を活用できる人材の育成に注力し、そのためのプログラムも構築している。外部のデジタルツールを活用して自ら社内システムを構築する。外部のIT/AI ベンダーに依存するのではなく、自分たちでデジタルシステムをつくり上げていこうという意志の表れだ。実際、社員(80 人)の約20%がAI を学習して業務の効率化に活かしているという。
誰もが設備の不具合に対応できるAIアプリ
2025 年度のフェーズ3 で外販も視野に入れたAI アプリをAI スタートアップのTENHO と共同で開発した。それがDENSHO AI とMONO インサイトだ。
「蓄積したデジタルデータと生成AI を製造現場で活かすのであれば、まずは機械設備の保全と考えました」(小川専務)
というのも、同社は20 台のプレス機、12 台のNC 切削加工機、4 台の溶接ロボットを保有するが、例えばプレス機に不具合を生じた場合、作業者が過去の経験や知識から修理の仕方や手順を決めていた。ただ、その経験を思い返したり、機械のマニュアルを調べ直したりするのに多くの時間がかかってしまう。
それに対して誰もが修理できるマニュアルを作成しようとすると、作業者の経験を項目別に整理して機械のマニュアルとも関連づけるなど煩雑な作業が必要になる。これも膨大な時間を要するばかりでなく、実際には不可能と言わざるを得ないマニュアルづくりになる。しかし、点検記録や故障履歴の報告書(紙帳票、エクセル)は過去にさかのぼって大量に蓄積されている。それをAI に学習させて誰もが即時に検索できるシステムにすれば機械の停止時間を短縮し、生産性向上へとつなげられる。
「そこで2021 年度からコミュニケーションツール/ 業務ツールで蓄積してきたデータと過去10年分の修点・点検記録や故障履歴に関するデータ、機械・設備のマニュアルなどをAI に学習させました」(小川広佑経営企画課課長)
機械・設備の修理項目として「発生日時」、「設備名」、「製造番号」、「異常内容」、「原因特定」、「処理内容」などをOpen AI などのLLM のAPI から作成した独自のAI 学習モデルに入力して学習させ、設備保全のAI アプリDENSHO AI を開発した。DENSHO AI は、設備保全の経験が少ない作業者でもアバウトな質問を入力するだけでAI チャットが類似のトラブル事例を基に原因推定や対策を提示する。そしてAI の診断結果から保全作業指示書も作成する。いわば設備保全の属人化を脱するツールになるのである。
もう1 つのAI アプリが、作業マニュアルと動画マニュアルを自動で生成するMONO インサイトだ。これは、作業者の動作を撮影した動画を入力するだけで作業内容を分析して品質や安全のポイントを生成した作業マニュアル、および字幕表示する動画マニュアルを作成するAI ツールだ。さらに、マニュアルに加えて生産性向上や品質、安全対策などの改善提案も作成する。品質や安全、生産の分析では長年の自動車部品製造で培った社内ノウハウや、業界知識も活用し、動画編集のスキルがなくても自動で動画を作成できる、作業標準化の効率向上に寄与するツールという。
「当社の主要製品は高い技術力が評価をいただいていますが、今後も自動車の生産台数が減少したり、新しい製品を受注したりする場合でもデジタルを活かして既存の競争力を向上し続けていきます」(小川専務)
同社では、取引先から高い評価を得る主要事業の競争力をデジタルでさらに上げ、儲かる体質を維持・向上させていく。併せて二次サプライヤーの枠を超えた新しい事業の開拓でビジネスネットワークをさらに広げていく。DESHO AI とMONO インサイトは2027 年度の外販開始を目標に実証実験を進めている。中小塑性加工メーカーの独自のAI 活用に期待したい。