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型技術 連載「モノづくりの未来を照らす高専突撃レポート」

2026.03.23

第22回 災害現場に寄り添うロボット─松江高専の挑戦

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フリーアナウンサー 藤田 真奈

ふじた まな:大阪府出身。元とちぎテレビアナウンサー。関西学院大学卒業後、金融業界の企業に就職。その後転職してアナウンサーに。とちテレニュース9(とちぎテレビ)、アクセント!、ミライを照らせ~KOSEN*Passport to the world~(ともに栃木放送)、Berry Good Jazz(Radio Berry)などに出演中。
Instagram:mana.fujita
 島根県の東部に位置する松江市。宍道湖や中海に囲まれた「水の都」として知られ、古くから交通や商業の要衝として栄えてきました。松江城を中心とした城下町の風情が残り、観光都市としても人気があります。しかし、その地形は水害のリスクを抱え、日本海沿岸に近いことから地震や津波への備えも欠かせません。自然とともに生きる街だからこそ、防災や減災への意識が根づいているのです。

 そんな松江市で、地域の技術と教育の拠点として長年活動してきたのが松江工業高等専門学校(松江高専)です。機械工学や電気情報など幅広い分野で実践的な技術者を育成し、地元企業や自治体と連携しながら「モノづくりの力」で地域を支えてきました。近年は、「防災」という命に直結するテーマに力を入れ、学生たちが主体となって新しい挑戦を続けています。

ロボットに優しさを レスキューロボットコンテスト

 1995 年に発生した阪神・淡路大震災では、倒壊した建物や火災、余震による2 次災害など、救助隊員が命がけで活動する中で、人間の力だけでは限界がある場面が次々に浮き彫りになりました。そこで「ロボットが人間に代わって救助活動を担えないか」という発想が生まれ、災害現場で人命を守るための新しい技術を育てる場として、競技形式でスタートしたのがレスキューロボットコンテストです。

 このコンテストの理念は「優しさ」。単なる技術力の競争ではなく、要救助者に安心感を与える動作や、観客に伝わる思いやりの表現が重視されます。救助対象者役の人形をいかに安全に、そして優しく搬送できるかが評価のポイント。つまり、ロボットに「人間の心」を宿すことが求められているのです。

 そんな理念に共感し、レスキューロボットの開発に力を注ぐ学生たちの姿が、松江高専にあります。彼らは「レスキューロボットコンテスト」で近年、めざましい成果を挙げてきました。2017 年には「ベストパフォーマンス賞」と「レスキュー工学大賞」を同時受賞。2022 年には再び同賞を獲得し、さらに2024 年には3 度目の栄冠を手にして、その実力を全国に示しました(図1)。
図1  2024 年レスキューロボットコンテスト出場メンバー(写真提供:松江高専)

図1  2024 年レスキューロボットコンテスト出場メンバー(写真提供:松江高専)

 審査員からは「技術力とチームワークの完成度が群を抜いている」と高く評価され、今では全国から注目されるチームへと成長しています。今回は、その強さの秘密に迫りました。

松江高専の強さは技術と心の融合にあり

 なぜ松江高専のレスキューロボットチームは、全国の舞台で活躍を続けているのでしょうか。そこにはもちろん、確かな技術力があります。ですが、それだけではありません。彼らが技術力と同じくらい大切にしているものがあるのです。

 1 つ目は、人を思いやる発想です。技術を磨くだけでは到達できない領域─「救われる側の気持ち」に寄り添う姿勢が、松江高専のロボットづくりには息づいています。2022 年には「レスキューハグ」と呼ばれる仕組みを導入し、首と腰を同時に支えることで、まるで赤ちゃんを抱くような安心感を生み出す搬送方法を実現しました(図2)。ある学生は「災害時の不安を少しでも軽くしたい」と語り、設計段階で何度も人形を抱きかかえる動作を繰り返しながら改良を重ねたと言います。優しさを徹底的に追求した結果、彼らがたどり着いたのは「赤ちゃんを抱くように支える」という究極とも言える発想でした。
図2 製作したレスキューロボット(写真提供:松江高専)

図2 製作したレスキューロボット(写真提供:松江高専)

 2 つ目は、チームワークです。松江高専では、設計・製作・操縦・広報といった役割を学生が分担し、20 人以上のメンバーが一丸となって活動しています。大会本番では操縦者の冷静な判断と、裏方の迅速なサポートが噛み合い、安定したパフォーマンスを発揮します。2024 年の大会では、操縦者が予期せぬ障害物に直面した際、即座に後方のメンバーが代替ルートを指示。わずか数秒のやり取りでロボットは難所を突破し、会場から大きな拍手が起こりました。審査員から「技術力とチームワークの完成度が群を抜いている」と評されたのも、この瞬間の連携が象徴していたのです。

 3 つ目は、地域社会との結びつきです。松江市は前述したように、豪雨による水害や地震のリスクを抱える土地柄。学生たちは「自分たちの街を守る技術者になる」という使命感を胸に研究へ取り組んでいます。地域住民を対象にした体験イベントでは、子供たちが実際にロボットを操縦できるコーナーを企画。操作レバーを握りしめた子供たちからは「将来は自分もつくりたい!」と、未来への夢を語る声が挙がっていたようです(図3)。
図3 地域の体験イベントの様子(写真提供:松江高専)

図3 地域の体験イベントの様子(写真提供:松江高専)

 また、ある公開講座では、地域の高齢者から「こういう若者がいるなら安心だね」と励ましの言葉をもらい、学生たちの士気がいっそう高まったといいます。こうした地域のまなざしが、学生たちの挑戦を支え、未来への歩みをより確かなものにしています。

 さらに近年は通信技術を取り入れたロボット開発にも挑戦。遠隔操作による安全な救助を見据えた研究が進む中、操縦用PC から1回の指令で自動動作を行う仕組みや、多様な動作を実現する工夫が大会で高く評価されました。こうした技術力と工夫の積み重ねが認められ、レスコン2025 ではベストテレオペレーション賞に加え、チームの連携力を示すベストチームワーク賞にもつながったのです。結果に満足せず、次の挑戦へと歩みを進める姿勢こそ、松江高専レスキューロボットチームの強さの証と言えるでしょう。

水の都から広がる防災の未来

 松江高専のレスキューロボットは単なる機械ではなく、学生たちの思いやりと地域への愛情が形になった存在です。災害大国・日本において、「人を救う技術を育てる教育」は工学の新しい可能性を切り拓いています。

 そしてその挑戦は、松江だけにとどまりません。日本全国で頻発する豪雨や地震、さらには世界各地で起こる自然災害の現場でも、こうした技術は活躍の余地を大いに秘めています。水の都・松江で育まれた「優しさの工学」は、未来の防災社会を支える力となり、やがて国境を越えて人々の命を守る技術へと広がっていくことでしょう。

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