型技術 連載「モノづくりの未来を照らす高専突撃レポート」
2026.03.02
第21回 数学と防災が出会う場所─沼津高専の挑戦を訪ねて
フリーアナウンサー 藤田 真奈
ふじた まな:大阪府出身。元とちぎテレビアナウンサー。関西学院大学卒業後、金融業界の企業に就職。その後転職してアナウンサーに。とちテレニュース9(とちぎテレビ)、アクセント!、ミライを照らせ~KOSEN*Passport to the world~(ともに栃木放送)、Berry Good Jazz(Radio Berry)などに出演中。
Instagram:mana.fujita
2026 年1 月17 日――阪神・淡路大震災から31 年。この時期に、改めて「防災とは何か」について考えてみたいと思い、今回は、「防災数学」というユニークな取組みを推進している沼津工業高等専門学校(沼津高専)を取材しました。
静岡県東部、駿河湾に面した沼津市は、古くから港町として栄え、漁業や物流の拠点として地域経済を支えてきました。そんな沼津市の技術と教育の拠点として、長年地域に根ざしてきたのが沼津高専です。電気・機械・情報といった分野を中心に、実践的な技術教育を通じて、時代のニーズに応える取組みを積み重ねています。
被災体験が導いた発想命を守る「防災数学」の形
前述した防災数学は、文字通り防災と数学を組み合わせた新しい学びの形です。地震や噴火などの災害リスクと向き合いながら、地域の安全と未来を見据えた実践的な教育活動として注目されています。この活動を中心となって進めているのが、教養科の鈴木正樹教授。「複素領域の微分方程式」という高度な数学を専門としながら、防災教育にも力を注いでいます。
きっかけは、2011 年の東日本大震災。当時、福島高専に勤務していた鈴木教授は、いわき市で被災。さらに2018 年には、研究会のために訪れていた北海道で、北海道胆振東部地震にも遭遇しました。夜中の揺れと停電、情報が届かない不安な時間を経験し、「災害時の情報伝達に課題がある」と痛感したそうです。
その思いから、学生たちとともに開発したのが「CFM Weather」という防災アプリです(図1)。これは地域のコミュニティFM 局向けに設計されていて、気象庁が発表する最新の気象情報や火山情報などを、リアルタイムで一覧表示できるのが大きな特徴です。さらに注目したいのが、取得した気象情報をワンクリックでラジオ原稿の形式に自動変換し、すぐに印刷できるという機能です。
図1 試行錯誤を重ねながら防災アプリの開発に取り組む学生たち(写真提供:沼津高専)
例えば、大雨や地震などの災害が発生したとき、地域のラジオ局では限られた人数で対応に追われることが少なくありません。電話での問合せ対応、現場との連絡、機材の確認など、やるべきことが次々と押し寄せる中で、放送用の原稿を一から手作業で作成するのは大きな負担になります。そんなとき、このアプリがあれば、原稿を読みやすい形で出力することができ、アナウンサーが1 人いれば、正確で迅速な情報発信が可能になります。まさに「人手不足の現場を支える道具」として、災害時の安心につながる仕組みだと言えるでしょう。
災害時は、情報の正確さとスピードが命を左右します。誰でもすぐに使えるこのアプリは、地域の命綱としての役割を果たす可能性を秘めています。実際にいくつかの地域でプレゼンテーションを行った際には、現場のラジオ関係者から「これがあれば、いざというときに本当に助かる」といった声が多く寄せられたそうです。
富士山とともに育つ防災力 連続受賞が語る沼津高専の実践知
こうした実践的な学びは、沼津高専の日常の中にしっかりと根づいています。中でも目を引くのが、「高専防災減災コンテスト」への継続的な参加です。このコンテストは、全国の高専がそれぞれの専門性や地域性を活かしながら、防災・減災に関するアイデアや実践を競い合うもの。社会的な意義や実現可能性、地域への貢献度などが厳しく審査される、非常にレベルの高い大会です。参加校は毎年増えていて、今や全国規模の注目イベントとなっています。
沼津高専では、2021 年からこのコンテストに継続して参加し、富士山噴火への備えや、全国の高専同士が連携して助け合う「高専間防災ネットワーク」の構築など、地域と連携した実践的なアイデアを次々と形にしてきました。その成果は、数々の受賞という形で高く評価されています。社会的な貢献度が特に優れた取組みに贈られる「防災科研賞」、そして広報性や社会啓発の観点から際立った活動に贈られる「NHK 会長賞」など、名誉ある賞を複数年にわたって受賞(図2)。これは、単発の成果ではなく、継続的な努力と地域との深い関わりが認められた証です。
防災という命に関わるテーマに対して、若い世代が真剣に向き合い、社会に実装できる形で提案を続けている─その姿勢こそが、沼津高専の強みであり、未来を担う力だと感じました。
図2 第1 回「高専防災減災コンテスト」の受賞メンバー。右端が鈴木正樹教授(写真提供:沼津高専)
遊んで学べる!ドリルとVR で広がる“ 数学×防災” の可能性
さらに、沼津高専では「算数・数学防災ドリル」の開発にも力を入れています。これは、地震や台風、火山噴火など、地域で起こりうる自然災害をテーマにした数学の問題集です。例えば「避難所までの距離を計算する」、「浸水の深さをグラフで読み取る」といった問題を通して、子供たちが防災の知識を自然に身につけられるよう工夫されています。社会や理科を使った防災教育はよく見かけますが、数学を通じて防災を学ぶという取組みは全国的にも珍しいそうです。
また、地域の小・中学校ではこのドリルを使った出前授業も行われていて、子供たちが楽しみながら防災意識を高めているのだと言います(図3)。
さらにこのドリルは、VR ゲームとしての展開にも挑戦中です。クイズ番組のように、災害時の行動を選択肢から選びながら進んでいく仕組みで、正しい判断をすると安全なルートに進めるという設計。剣で選択肢を選んだり、扉を開けたりと、ゲーム感覚で学べるため、子供たちの興味を引きやすく、より深い理解につながっています。
「数学と防災の結びつきには、まだまだ可能性がある」と力強く語る鈴木教授。数学と防災――一見遠いようで、実は深くつながっているこの組合せが、地域を、そして日本の未来を守る力になる。沼津高専の取組みから、そんな希望を強く感じました。