新妻精機(東京都大田区)は試作部品や小ロット部品の精密加工を手掛ける。5 軸マシニングセンタ(MC)による高精度・複雑形状の加工を得意とし、豊富な設備を駆使した短納期対応も強みだ。複数のCAM を加工の特性に合わせて使い分けている点も特徴で、専任のCAM 担当者だけでなくオペレータ1 人ひとりがNC プログラムの作成に携わることで、他社がやりたがらない難しい加工にも対応している。
付加価値の高い加工に注力
同社は1965 年創業。丸物の旋盤加工からスタートし、精密歯車の製造を経て、試作部品メインの現在の事業形態になった。食品製造装置やOA機器、レーシングカー、インフラ、防衛などの分野に試作部品や1~10 個程度の小ロット部品を納めている。扱うワークは数mm の極小サイズから2m の大物まで幅広い。材料もマグネシウム以外の金属および樹脂に対応が可能。鋼材がメインだが、最近はインコネルやハステロイといった難削材加工でも実績を積んでいる。
近年力を入れているのが5 軸MC による付加価値の高い加工だ(図1)。「どこにでもできる仕事ではなく、難易度の高い仕事に注力することで価格競争を回避できます。そのために5 軸MCが必要でした」と新妻知幸常務(図2)は話す。三井精機工業の「Vertex 550-5X」やエグロの「E-32V」、DMG 森精機の「DMU 50」など複数台を保有する。3 軸加工および割出し5 軸加工を中心に、同時4 軸加工、同時5 軸加工をワークにより使い分ける。5 軸MC を駆使することで3 軸加工では難しい複雑形状を加工できるだけでなく、加工時間を短縮する効果も得られる。
これらの加工に必要なNC プログラムは、数種類のCAM を使って作成する(図3)。同社は手掛ける加工の難易度に応じて都度、最適なCAMを導入してきた経緯があり、現在は一般的な精度の2 軸・3 軸加工に「FeatureCAM」を、3 軸で高精度な曲面形状を加工する場合や割出し5 軸加工に「CAM-TOOL」を、同時4 軸以上の加工に「Mastercam」と「hyperMILL」を使用している。製造部門を束ねる高木政勝統括部長は、「CAM-TOOL は金型の仕上げ加工用だけあって、加工面の品質は群を抜いています。半面、設定しなければならない値がいろいろあり、使いこなせない人がいるのがネックです」と話す。同社で金型部品の加工を受注することはめったにないが、曲面形状で面粗さの良さが求められるワークで威力を発揮する。
Mastercam とhyperMILL は5 軸MC の導入に併せて入れた比較的新しいソフトだ。「Mastercamは面のつくり方でパスの出方が変わるため、使いこなすことで最適なパスが出せます。ただ、同時5 軸加工では設定が難しくなるため、より簡単に使えるhyperMILL を導入しました。どれをメインで使うというわけではなく、状況に応じて使い分けています」(高木部長)。なお、同時4 軸以上の加工や大物ワークの割出し5 軸加工では、シミュレーションソフト「VERICUT」も有効活用している。
CAM に精通したMC オペレータ
MC オペレータがCAM によるプログラミングに精通しているのも同社の特徴だ。CAM 専任者は別にいるが、5 軸MC での穴あけや簡単な曲面形状であればオペレータがNC プログラムを作成する。そのために、FeatureCAM のネットワークライセンスを取得し、現場にPC を置いていつでも使える態勢を整えている。これは、CAM の導入前から、同社のオペレータが加工の順番や治具を自ら考え、手打ちによるプログラム入力から段取りまでを行ってきたことが背景にある。
「オペレータの仕事がスタートボタンを押すだけになると、せっかく培ったノウハウが失われます。それを回避するために、昔の良いところを残しつつ、デジタルの力も活用する方法を探りました」(高木部長)。今は難しいワークを受注すると、オペレータとCAM 担当者が一緒に加工方法を考え、方向性を決める。旋盤や放電加工機など他工程のオペレータも話し合いに参加する。議論を通じて会社全体の技術レベル向上が図れるという。
また、新人研修を“ 現場” から始める部品加工メーカーは多いが、同社では入社後の1~2 カ月を3 次元CAD/CAM で図面の描き方・読み方を学ぶのに充てる。3 次元モデルは視覚的に理解しやすく、デジタルに慣れた若い世代は、早ければ2 週間ほどで製図をマスターする。図面が読めれば、現場作業にも慣れやすい。新人教育にデジタル技術を活用することで、製図や機械加工の経験のない若手を積極的に採用できている。
作業負担軽減につながる機能に期待
同社は今後も難易度の高い部品加工に注力し、技術力を高めることで他社との差別化を図る。グループ会社のアサヒニイズマ(山形県鶴岡市)と合わせて100 台近いMC を保有し、旋盤や放電加工機、研削盤、歯切り盤なども揃えていることから、短納期に柔軟に対応できる点も訴求する。高い技術力と豊富な設備で品質・コスト・納期へのニーズに応える。
CAM に関してはソフトの集約が今後の課題だ。ただ、どのソフトにも得意分野があり、現状では同社にとって不可欠な存在になっているため、各社の機能開発の動向を注視する構えだ。特にAIを活用した作業負担軽減につながる機能に期待したいという。