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工場管理 連載「キラリと光る技術をM&Aでつなぐ」

2025.09.04

第5回 企業価値を最大化するバリューアップ② マーケティング戦略

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スピカコンサルティング 松栄 遥 

まつえ はるか:取締役 製造業支援部 岐阜県出身。2012年にキーエンスに入社し、国内トップクラスの成績で受賞歴多数。2016年、日本M&Aセンターに入社。2019年にはM&Aコンサルティングを共同創業し、代表取締役に就任。2023年にスピカコンサルティングに参画
https://spicon.co.jp/
 中堅・中小製造業が企業価値を高める手法は複数あります。その中でも、「財務・会計分析」「マーケティング戦略」「組織力」の3 つに着目し、戦略を練り、施策を実行することで、課題が解決するだけでなく企業価値の向上が実現できるということを身を持って経験してきました。今回は「マーケティング戦略」について解説していきます。

BtoB マーケティングの特徴

 新規顧客の開拓に課題感のある中堅・中小企業は多いと思いますが、まず認識として「BtoB」と「BtoC」のマーケティング戦略はまったく違います。モノづくり企業におけるBtoB マーケティングのおもな特徴には、次のような内容が挙げられます。
 
 ・製品単価が高いため即決が難しく、顧客を育てる期間が必要
 ・顕在層のみではなく、潜在層に向けたコンテンツの発信も重要
 ・定期的な接点を持ち、顧客の検討シグナルを早期にキャッチする仕組みづくりが必要
 ・1 件1 件の商談をていねいにクロージングすることが重要
 
 特にBtoB マーケティングは、マーケティング施策のみで商談が完結することはなく、必ず最後は営業メンバーがクロージングを行うことがほとんどです。そのため、モノづくり企業においては、「営業組織の構築」と「マーケティングによる新規商談の創出」の両輪を構築していかなければならず、“営業メンバーに新規商談を提供し続けている状態”をつくれるかが経営者として取り組むべきポイントとなります。

事例:デジタルマーケティングにゼロから取り組んだ企業

 ゼロからデジタルマーケティングを構築したモノづくり企業の事例を見てみましょう。

 FA(ファクトリーオートメーション)装置の開発事業を手掛けるFA プロダクツ(東京都港区)は、市場環境の急激な変化により新規顧客の開拓が急務になっており、デジタルマーケティングに取り組みました。
 
 マーケティング施策の入口は、まず明確なターゲティングから行います。同社の場合は、全国のエンジニア70 万人がターゲットです。これまでも展示会などで集めた名刺に対して定期的なナーチャリング(顧客育成)は行っていましたが、そもそも製造業特有の「商談期間が長い」ことから、「今すぐほしい」という顧客に向けた施策としては向いていません。したがって、FA プロダクツは2018 年からSEO 対策に取り組みます。極端にいえば、70 万人のエンジニア全員が同社のサービスを認知していれば、「不戦敗(=商談の場に立てなかった)」という事態はなくなるという考えのもと、SEO 対策のコンテンツマーケティングを行っていきました。
 
 全国のエンジニア70 万人が検索すると考えられるキーワードをピックアップし、検索の上位に表示されるような記事を公開し続けました。翌年の19 年には、会社のリブランディングとコーポレートサイトのリニューアル、20 年にはブログやメールマガジン、ウェビナー、ホワイトペーパーと段階的に施策を開始していきました。

 ホワイトペーパーの施策は、開始当初のダウンロード数は109 件でしたが、翌年には1,825 件、22年には4,016 件と、ダウンロード数は年々増加。ホワイトペーパーの種類が充実したことで、まだ見ぬ顧客からの検討機会を獲得するだけでなく、「あの資料見たよ」と初めてお会いする方から声をかけていただく場面も出てきたそうです。

 結果的に新規商談が30 倍に増加し、営業メンバーに新規商談を提供し続けている状態をつくり上げることができています。

具体的に取り組むべきマーケティング施策

 BtoB マーケティングにおいては、顧客側も即決が難しい商材を扱うことが多いので、効果的なナーチャリングを前提とした設計を組み立てることが重要です。業界メディアや展示会に出展することで認知を獲得し、コンテンツマーケティングやウェビナーでリード(見込み顧客)を獲得。獲得したリードに対して効果的なメールマーケティングやインサイドセールスを行い、適切なタイミングで営業メンバーへ案件として供給できる状態をつくっていきます。
 
 また、自社の製品・商材の単価に応じてリード獲得単価を設定します。モノづくり企業の場合は、製品・商材が多岐にわたり、複合的に顧客に提案している点や保守メンテナンスまでを一貫して行っているため、顧客生涯価値(LTV)が高いケースが多いです。その場合のリード獲得単価は高めになる傾向がありますが、改めて自社の製品単価を見極めてリード獲得単価を設定してください。
デジタルマーケティングに取り組むためには…

デジタルマーケティングに取り組むためには…

まとめ ~これから自社の進むべき方向性は~

 業界特有の商習慣が根強い製造業では、「製造業にマーケティングは向かない」「デジタルマーケティングから商談創出は難しい」というイメージがありました。確かにこれまでは展示会がモノづくり企業にとって新規商談創出の場になっていたのは事実ですし、それはこれからも継続されるでしょう。しかし、IT 技術の発達によりマーケティングの手法にも変化があります。今のうちから新しい技術を自分たちで使ってみて、効果的に自社の企業価値向上に活かす方法を模索していただければと思います。
 
 次回は、企業価値向上のための「組織力」について解説していきます。
                                                     

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