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機械技術 巻頭インタビュー「独自技術で光る日本の機械加工現場」

2024.10.07

金型製作技術の蓄積が活きる微細加工分野で成長を目指す

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㈲米山金型製作所 代表取締役社長
村松善太郎氏

Interviewer
元・三菱電機
岩崎健史

 コネクターやマイクロニードル、マイクロ流路など、各種産業向けの精密デバイスを成形する金型の設計製作を手掛ける米山金型製作所(長野県松川町)。良品を継続して成形する金型構造の考案とその機能を発揮するための金型部品の製作、組立て技術の蓄積で付加価値が高い製品を支えてきた。2022年には10~250t の射出成形機を揃えた研究施設を開設。ユーザーの課題解決に寄り添う。設備投資や加工技術の研究開発など、積極的な取組みを進める村松善太郎社長に今後の事業展開を聞いた。

インサート成形金型の製作ノウハウが精密射出成形金型に活きた

岩崎

ホームページに掲載されているマイクロニードルやマイクロ流路の金型はインパクトがありますね。

村松

たとえば、マイクロニードルは直径0.5mm、高さ1mm、形状パターンは円錐や多角錐などさまざまな形状を加工できます。マイクロ流路の成形金型はRa0.005μm の鏡面要求の場合もあります。精密な部品を成形する高精度で高機能な金型を製作する技術に特化したメーカーであることを認識していただけるとありがたいです。
創業時からしばらくは、自動車向けのキーレススイッチ(SW)やパワーウィンドウSW、デジタルカメラ向けの鏡筒、レバーなど、小物部品の射出成形金型が中心でした。2000 年頃から樹脂部品に金属部品を金型内でアセンブリするインサート成形用金型を手掛けるようになりました。当初は、お客様から最初に支給される製品図面には、インサート部品を保持する機構など、金型を成り立たせるための考慮がほとんどされていなかったので、製品設計からお客様と一緒になってつくり上げていく中で、ノウハウを蓄積しました。
また、インサート金型の場合、先に出来上がったプレス部品に合わせて金型を加工しなければ、バリなどの不具合が発生してしまうため、プレス部品の高精度測定とその仕上り形状に合わせた高精度加工が必須となります。これらの蓄積したノウハウ・知見が、現在取り組んでいる、中空マイクロニードル金型やマイクロ流路金型の製作にもつながっています。
直径0.5mm、長さ1mm のマイクロニードルの形状パターン(写真提供:米山金型製作所)

直径0.5mm、長さ1mm のマイクロニードルの形状パターン(写真提供:米山金型製作所)

マイクロ流路成形金型のサンプル。Ra は0.005μm(写真提供:米山金型製作所)

マイクロ流路成形金型のサンプル。Ra は0.005μm(写真提供:米山金型製作所)

岩崎

基盤技術を活かして、高付加価値な分野へ事業を広げた理想的な展開ですね。

村松

インサート部品の成形用金型も高付加価値な金型ではありますが、それだけで生き残るのは難しいと感じていました。そこで、2006 年に微細加工向けのマシニングセンタ(MC)を導入しました。具体的な案件があったのではなく、研究開発のための先行投資でした。そのMC で微細加工のサンプルとして、剣山形状の部品を製作して、展示会で紹介したところ興味をもっていただきました。そこから、少しずつ、具体的な案件につながるようになっていきました。
インサート成形品の自動車向けコネクター(写真提供:米山金型製作所)

インサート成形品の自動車向けコネクター(写真提供:米山金型製作所)

高付加価値な製品も最後は人の手が欠かせない

岩崎

精密デバイスを成形する金型の製作に関しては仕上げ工程が気になります。

村松

仕上げでは人の手による磨きの工程があります。現在の微細加工用MC は優秀なので、機械加工で、マイクロ流路の形状はつくれ、鏡面にすることも可能です。しかし、切削工具が通った痕がナノレベルで残る。それを除去するために磨きます。ツールは特別な物ではなく、爪楊枝にダイヤモンドペーストをつけて熟練作業者が磨いています。高付加価値な製品をつくるためには高機能な工作機械が必要なのですが、最後は人の手が必要なのです。
精密デバイス向けの金型の製作も難しいのですが、それ以上に大変な思いをしているのが成形性の担保です。特に微細形状を施した金型については、金型が製作できたとしても成形が成り立たないことが多々あり、樹脂への転写不足や樹脂が金型へ貼り付いて離型できないといった問題が頻繁に発生します。金型はユーザーが必要とする製品を、常に同じ形状・品質で効率的に、必要な数量をつくる手段なので、それが達成できないと意味がありません。金型製作を担う当社にとっては常に直面している課題です。

岩崎

金型メーカーの方々の苦労が想像できます。

村松

そのために、当社が取り組んだことが「微細成形Lab」の創設です。10、30、100、250 t の4 台の射出成形機やヒートアンドクール(H&C)装置、光学部材金型用洗浄機、クラス1 の清浄度のクリーンブースを揃えた社内の施設で、顧客に引き渡す金型の成形テストや研究用に製作したサンプルの金型を使用した成形性の検証を行います。金型製作技術に活かす研究施設としての役割を担います。具体的な成果が見え始めるのはこれからですが、当初の目的とは違った成果も先に現れました。材料メーカーからの、開発した材料の成形テストの依頼です。金型とセットでの話もあり、本業の金型製作につながっているので、ひょっとしたら、今後はそういうビジネスの可能性が増えるかもしれないと感じました。

岩崎

微細加工用MC や複数種類の射出成形機など設備が非常に充実していますね。

村松

芝浦機械の超精密立形加工機「UVM-450D」と碌々スマートテクノロジーの超高精度高速微細加工機「AndroidⅡType-S」、「Android」、「MEGAⅢ-500-R25P」、「CEGA-SS300」、安田工業のCNCジグボーラー「YBM640V3」、ナガセインテグレックスの10nm 制御が可能な超精密成形平面研削盤「SGC630αS4-Zero3」といった当社が目指す加工精度に必要な工作機械を戦略的に導入しました。それらの機能が最大限に発揮できるように23℃±1℃の恒温室で運用しています。高機能工作機械は適切な環境で使用するという原則をしっかりと守っています。
自動化についても、創業者の時代から積極的に取り組んできました。形彫り放電加工機とMCについては、3 次元測定機による外段取りシステムを採用し、補正データをNC へ転送する仕組みを構築しています。今、自動化が関心を集めていますが、当社は以前から取り組んでおり、ごく普通に運用できています。現在、合理的な生産システムを構築できていることが、ほかの金型メーカーと比較すると競争力の1 つになっていて、創業者の先見性に感謝しています。

常に研究し、着実に力をつける

岩崎

基盤技術とさらなる高度化のために必要な設備は揃っています。人材育成の取組みは。

村松

そこは課題の1 つです。当社に限らず、金属加工を手掛ける中小企業の多くが、採用、育成に苦労をしているはずです。そうした中で限られた人材を戦力にするしか方法はありません。改まった研修などの実施は難しいですが、大きな組織ではない利点を活かして、管理職が日常の業務の中で、ていねいに指導しながら、新しいことに挑戦させることで、仕事の楽しさとやりがいを感じてほしい。その先に技能・技術者として手応えを得てもらえれば経営者としてはありがたいです。

岩崎

今後は。

村松

インサート成形金型や精密デバイス成形金型の製作技術を活かして、微細加工の分野に本格的に参入していきたいと思います。微細形状や鏡面加工の知見を蓄積していきたい。温度管理だけでなく、振れ精度や切削工具の回転数、クーラントのかけ方など確立すべきことがあります。微細加工の知見の蓄積の一環として、超硬合金の直彫り加工技術の確立にも取り組みました。プレス金型の超硬パンチ先端部に微細精密3 次元形状をわずかな欠けも許さず切削加工で仕上げ、研削加工では成し得ない複雑な形状を加工することに成功し、現在、大きな付加価値が生まれています。最近は切削工具もかなり良くなり、切削加工の優位性も認識され始めたのでチャンスはあると思います。放電加工と比較しても、仕上り精度に圧倒的な優位性があるため、高精度を求められる部品ほど切削加工が採用される確率が高くなっています。将来的には知見を活かしてセラミックスをはじめとする特殊材料への対応力も構築したいです。
もちろん、金型製作技術も磨いていきます。24年の初頭に形彫り放電加工機を導入しました。AI が加工状況を判断し、安定した加工精度が出ます。運用を軌道に乗せて、半導体封止用金型の需要を取り込みたい。難しい挑戦になると思いますが確かな技術を確立して、着実に力をつけていきたいです。
むらまつ ぜんたろう/1966 年生まれ、58 歳。長野県飯田市出身。1984年、長野県立飯田工業(現飯田OIDE 長姫)高校卒業。同年、㈱三協精機製作所(現ニデックインスツルメンツ㈱)入社。ステッピングモータの部品と金型設計に携わる。96 年、㈲米山金型製作所入社。2010 年から現職。趣味はスキー。剣道は教士七段で週1 回、地元の道場で小中学生を指導する。

いわさき たけし/1980 年三菱電機㈱入社、2023 年退職、中央技能検定委員、(一社)型技術協会理事、国立科学博物館主任調査員(放電加工機技術)な
どを歴任。

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