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プレス技術 連載「キラリ光る!塑性加工分野のモノづくり力」

2025.07.04

第10回 曲げ加工でのスプリングバック対策のCAE 解析数を低減する設計ツール―福岡県工業技術センター/しろみず

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プレス・鍛造加工で独自・個性的な技術を駆使してモノづくりに挑む企業、各種研究・開発団体をレポートする。(『プレス技術』編集部)
福岡県工業技術センターの山田圭一研究員は産業用タンクメーカーの㈱しろみず(北九州市)と共同で、タンクのナックル部材〔図1、タンクの躯体(側板)と球殻の屋根をつなぐ曲面形状の部材〕の設計でスプリングバック対策CAE 解析の回数を低減できる「スプリングバック自動見込み設計ツール」を開発した。
図1 産業用タンクのナックル部材

図1 産業用タンクのナックル部材

 液化天然ガス(LNG)や原油、純水などの液体および都市ガス、酸素、窒素などの気体を貯蔵する産業用タンクには、貯蔵物や設置場所に応じて形状や大きさ、板厚など容器の仕様が決まる。タンクには円筒や球形、一部に曲面をもつ円筒などさまざまな形状がある。タンクの部材はかなり大きく、ナックル部材も表1 のようなサイズ感になる。タンクの製造は複数の部材に分けて加工してから現場で組み立て、溶接して仕上げる。
表1 ナックル部材の設計範囲の一部

表1 ナックル部材の設計範囲の一部

従来の1/3 の薄さの板材のスプリングバックに対応するために

 ナックル部材の加工は、初めにNC ベンディングロールで板材を円筒側方向に曲げ、次いで専用の金敷(金型)で製品設計通りの形状に曲げ加工する(図2)。金敷は上敷と下敷がセットとなり、図2 のように曲面の中心線に沿って曲率を確認しながら上金敷で数回加圧して正確に曲げていく。
図2 ナックル部材の曲げ加工

図2 ナックル部材の曲げ加工

 金敷は製品の曲面形状をもとに設計する。上金敷は蒲鉾のような形状で、下金敷は曲率の大きなU 字形状をしている。金敷の設計ではCAE で解析しながら金敷の形状とそれによる曲げ加工の妥当性を判断する。上下の金敷を1000 ~ 3000t プレス機に設置し、板材を往復搬送させながら曲げ加工する。ただ、実際には加工現場でしわや割れ、スプリングバックによる寸法精度不良に対処するため金敷を調整しながら加工する。
 「長年の経験と知識から1 セットの金敷で試加工を1 回すれば、そのまま2 回目からは本加工としてナックル部材に加工できます」〔㈱しろみずの兵頭弘章技術本部製造部部長〕
 ところが、2017 年に新規に受注した液化窒素用貯蔵タンクの指定板厚は9mm と従来の1/3 と薄かった。これまでに手がけたLNG タンクのナックル部材は板厚が20 ~ 30mm であり、金敷の設計と加工条件は曲げ加工時のスプリングバックを見込んで決めていた。しかし、板厚が薄くなるほどスプリングバック量も大きくなるため、CAE解析でスプリングバック量を見込んで金敷設計するとCAE 解析の回数が増え、かつ解析自体も煩雑になる。さらに高価なCAE の導入とメンテナンス、およびCAE 人材の育成にかかるコストも勘案すると中小メーカーには見合わない設計手法になってしまう。

実装に向けた開発を進める

 そこで同社から相談を受けた福岡県工業技術センターの山田研究員は2020 年、CAE 解析の回数を減らせるよう、スプリングバックを自動で見込める設計ツールの開発に着手した。

 従来、ナックル部材の曲げ加工でスプリングバックを見込んだ設計をする際、加工圧の荷重値を変えながら数回CAE 解析をする。自動設計ツールの開発では、まず過去に加工したナックル部材の曲率、材質、板厚、板幅、板長さ、金敷の幅の設計変数を整理して20000 超のデータ数でシミュレーションし、次にそのCAE 解析結果から、板長さ方向、板幅方向をそれぞれ9 分割= 81 カ所の深さ方向のスプリングバック量を目的変数としてCSV 形式のデータベースを作成した。そしてそのデータベースを用いて機械学習(ガウス過程回帰モデル)で81 個のモデルを出力した。

 そして9 パターンの過去の実際の設計値を用いて機械学習モデルとCAE それぞれでスプリングバック分布を解析した。その結果、円筒側、側板側、中間部、屋根側の4 カ所で機械学習モデルとCAEのスプリングバックの分布がおおむね一致し、4カ所すべての差平均値は1.6mm だった(図3)。
図3  機械学習モデル(ガウス過程回帰モデル)とCAE のスプリングバックの分布画像の比較

図3  機械学習モデル(ガウス過程回帰モデル)とCAE のスプリングバックの分布画像の比較

 「これによってナックル部材の曲げ加工を設計するうえでスプリングバックの見込み計算にガウス過程回帰モデルを用いる有効性を確認できました」(山田研究員)

 2021 年、機械学習を活用してナックル部材の曲げ加工の設計をするためのスプリングバック自動見込み設計ツールを開発した。これにより従来の金敷設計で用いたCAE 解析の回数低減の可能性を見出せた。また、同ツールはユーザーインターフェイスにエクセルを用いているためコスト面でも中小メーカーに導入しやすい。

 今後は合格品質の誤差2.0mm を目標に回帰計算と実際の曲げ加工でのスプリングバックの実績値を比較しながら回帰計算結果を補正すると言う。ナックル部材の曲げ加工の設計で実装を進めていくようだ。

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