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工場管理 連載「キラリと光る技術をM&Aでつなぐ」

2025.06.16

第1回 M&Aが解決する経営課題は後継者不在だけじゃない

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スピカコンサルティング 松栄 遥

まつえ はるか:製造業界支援部 取締役。岐阜県出身。2012年にキーエンスに入社し、国内トップクラスの成績で受賞歴多数。2016年、日本M&Aセンターに入社。2019年にはM&Aコンサルティングを共同創業し、代表取締役に就任。2023年にスピカコンサルティングに参画。
https://spicon.co.jp/

製造業の事業承継と成長戦略に向けて

 キーエンス出身で新卒以来一貫して製造業に特化した仕事をしてきた筆者は、中小の製造業が持つキラリと光る技術が、日本の産業の未来を切り拓くために必要な力だと考えています。これからの日本産業をより良くしていくためにも、経営者の皆さまや製造業で働く方々にM & A の正しい知見を深めていただきたく、当月から全12 回で、中堅・中小企業がM&A を活用して自社の技術を後世に残す方法を解説していきます。 前半では製造業M&A 動向や難しさについて、後半ではM&A経験者との対談企画やM&A の具体的な進め方を予定しております。

後継者不在問題だけがM&A の理由ではない

 初回となる今回は、具体的なM&A の解説ではなく、私たちスピカコンサルティングの紹介をさせていただきます。実は、私たち自身がM&A で会社を売却した当事者なのです。

 スピカコンサルティングは、企業価値を最大化する「バリューアップコンサルティング」と「業界特化型M&A」の提供を行うコンサルティング会社です。経営者の皆さまにお役立ていただける情報の提供や、業界の発展に貢献すべく、当社のコンサルタントはそれぞれ1 つの業種のみを担当し、日々専門性を磨いてまいりました。そうした中、創業1 年で東証グロース市場に上場しているGA technologies(以下、GA テクノロジーズ)と経営統合を実施。GA テクノロジーズの資本傘下に入りました。GA テクノロジーズは、「テクノロジー×イノベーションで、人々に感動を生む世界のトップ企業を創る。」を理念に掲げ、不動産をはじめ、さまざまな産業のビジネス変革に取り組むインダストリーテック(IT を駆使した産業変革)企業です。創業から5 年後の2018 年に東証グロース市場に上場。上場後16 件のM&A を実施し、2023 年度は売上高1,466 億円を超える急成長企業です。

 では、なぜM&A コンサルティング会社が、不動産テック会社と組む選択肢をとったのか。後継者不在問題の打ち手としてのイメージが強い「M&A」を、成長戦略として活用したわかりやすい例として当社の経営統合(M&A)を、いくつかのポイントで紹介します。
左:GAテクノロジーズ 代表取締役社長CEO樋口 龍/ 中:スピカコンサルティング 代表取締役 中原 駿男/右:スピカコンサルティング 取締役 松栄 遥(写真提供:松栄遥)

左:GAテクノロジーズ 代表取締役社長CEO樋口 龍/ 中:スピカコンサルティング 代表取締役 中原 駿男/右:スピカコンサルティング 取締役 松栄 遥(写真提供:松栄遥)

異なる業界であっても成長に必要な共通点がある

1.業界全体の先行きを予測

 まずM&A 業界全体がどのような方向性に進んでいくのかを考えるに当たり、ビジネスモデルが似ていて、先を走るほかの業界が歩んできた道のりを参考にしました。M&A 仲介の企業と企業のマッチングにより成功報酬を得ているというビジネスモデルが、不動産の売り手と買い手をマッチングさせるという構造と似ている点、そしてどちらも専門知識が必要であるという観点から、不動産業とM&A 仲介業は近いビジネスモデルであると考えました。

2.IT 化の波

 同時にテクノロジーの活用を私たちは渇望していました。品質高くていねいにコンサルティングする人の良さが必要であるものの、IT で置き換え可能な分野やサービスは多々あると感じていたためです。ただ、当社はM&A のプロフェッショナルではありますが、IT のプロフェッショナルではありません。IT 人材の採用基準に悩み、投資タイミングも悩む中、一歩踏み出せない時間が過ぎていました。このような同じ悩みを乗り越え、アナログ要素が色濃く残る不動産業界で、IT によるイノベーションを起こしているのがGA テクノロジーズだったのです。

3.両社の想いが合致

 このようにして業界自体の先行きを予測し、自社の強みと課題を理解し、さらなる成長を期待できる相手先を考えることは、M&A のプロセスにおいて非常に重要な“準備期間”と位置づけられます。この準備期間をどれだけ戦略立てて考えられるかどうかが、成功するM&A の分かれ道になるでしょう。とはいっても、M&A は相手がいることです。タイミングとご縁もあります。相手がどのような考えを持って経営しているのか、これまでの歴史やこれから成し遂げたいことなどについてディスカッションを重ねる必要があります。面談を重ねて両社の考えを理解する時間をたっぷりと確保して、ようやく成功するM&A が成立します。
不動産業とM&A 仲介業の共通点

不動産業とM&A 仲介業の共通点

株式の力を活用して成長ドライバーを獲得

 当社は、資本はGA テクノロジーズの傘下に入りますが、経営陣全員がそのまま続投し、さらなる企業成長をさせるという選択肢をとりました。資本を活用して“時間”と“リソース”を手に入れたということです。置かれている企業の状況によって違いますが、IT 人材の確保、重要拠点の確保、技術の補完、取引先の獲得といった、さまざまな成長ドライバーが存在します。

 中堅・中小企業の経営者の皆さまには、企業成長を主眼において、マーケットでNo.1 を取るために自社に足りないリソースは何かを明確にし、そのリソースを獲得する手段として「M&A」があることをまずは知っていただければと思います。

 次回は、製造業界のM&A 動向について解説します。

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