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工場管理 連載「キラリと光る技術をM&Aでつなぐ」

2025.10.01

第6回 企業価値を最大化するバリューアップ③ 組織力       

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スピカコンサルティング 石川 大 

いしかわ だい: 製造業支援部 M&Aアドバイザー神奈川県出身。2014年に野村證券に入社。在籍中に明治から4代続く実家のM&A譲渡を経験。2023年にスピカコンサルティングに参画
https://spicon.co.jp/
 中堅・中小製造業が企業価値を高める手法は複数あります。その中でも、「財務・会計分析」、「マーケティング戦略」「組織力」この3 つに着目し、戦略を練り、施策を実行することで課題が解決するだけでなく企業価値の向上が実現できるということを身を持って経験してきました。

 今回は「組織力」について解説していきます。

組織力とは

 強い組織力と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。

 企業においては「統制がとれた指示系統、事業部ごとの高い生産性、採用力があり優秀な人材が豊富」など多々あると思います。スポーツチームにおいても「勝利への執着が高く協働している、練習時間以外の選手の取組みの質が高い、実績豊富で人材が集まってくる」など同様のことが強い組織に共通していることだと思います。

 私たちが想定している組織力の強い企業とは下記の状態を実現していると考えています。
・社員が企業理念に共感し、モチベーション高く働いている
・経営層に厚みがあり、社長への依存度が低い
・将来を見込める優秀な人材が獲得できている

 ただ、創業時からこれらが実現できている組織はございません。果たしてどのような要素がこれら強さの源泉になっているのでしょうか。

 ここで、ある企業の組織力向上のステップを参考に紐解いていきましょう。

事例:組織力向上がバリューアップにつながった企業

 近畿エリアにある精密板金加工を営むA 社は、当時創業約60 年の老舗企業。従業員数は約30 人。小ロット多品種対応型で手掛ける業種は車両、工作機械、食品機械、プラント関係など多岐にわたっていました。

 ただ社長が営業、見積り、工場管理を担うほど業務シェアが高く、実質ワンマン経営といっても過言ではないほど、社長が会社の顔でした。全体的に技術力は高いものの人がなかなか集まらず、技術者は高齢化、若い人が入っても続かず辞めてしまう課題がありました。

 当時39 歳の現社長が3 代目として事業を引き継いだ際に、現状を把握するためにコンサルタントに依頼し、匿名で従業員アンケートを実施。ただ出てきた回答の多くは「転職したいと思っている」「今の仕事に誇りを持てていない」「子供に仕事の話をしたくない」など惨憺たるものでした。

 どうにかこの状況を打開すべく、まず社長は「企業理念」を再策定します。その中で社内向けメッセージとして「自分たちの成長が世の中を良くする会社を目指す」と掲げました。自分たちが創造できるもので社会課題を解決し、働きがいNO.1の企業になるべく再出発をいたしました。

 もちろん、それまでも「顧客満足度第一」という企業理念はありました。ただ顧客満足と自社の繁栄を追い求めるために、自然と社員が我慢する風土になっていたのかもしれません。

 理念の浸透のためにさまざまな社内イベントも用意し、継続すること約2 年。各事業部から社長に「こういう取組みをやってみたい」という提案が出てきました。つまり従業員が指示もなく会社のために自走し始めたのです。従来のワンマン体制からは脱却し、社内の雰囲気が活発になり、さらには取引先からの受注環境も改善しました。業績も5 年足らずで倍増するくらい着実に伸びていきました。社長が従業員に寄り添う形で1 人ひとりと時間を取って面談し続けたことも効果がありました。家庭環境や働き方など従業員それぞれの事情を可能な限り尊重するようにしたのです。

 この改革は、従業員の満足度とエンゲージメントが上がることに加え、採用にも良い影響をもたらしました。社員募集の広告を掲載すると想定を大きく上回る応募が集まります。企業として選べる立場になったことにより、優秀な人材の獲得にもつながりました。

事例から学ぶ、組織力向上のポイント

 さて、A 社の組織改革による成長には目覚しいものがありましたが、何が大きな変化をもたらしたアクションだったのでしょうか。

 大きなポイントは、たった1 つです。それは、企業理念の浸透です。A 社もそうでしたが、企業理念自体は多くの会社で掲げられていると思います。よく見聞きする内容が「お客様が第一」という内容ですが、本当にそれがその企業の理念なのでしょうか。

 企業が顧客や従業員から選ばれているように、企業にはそれぞれ特徴があり、その要素は歴史、沿革の中に刻まれています。経営者の方は「何のために創業したのか」「何を成し遂げたかったのか」に関して漠然とイメージが浮かぶかもしれませんが、同じ船に乗る従業員は同じ気持ちで働けているでしょうか。

 それを伝わるように言語化し、従業員全員が理解して行動に移していくこと。これが企業理念の浸透です。
組織力を高める企業理念の浸透循環

組織力を高める企業理念の浸透循環

 この帰属意識のようなものが従業員のエンゲージメントを高め、ボトムアップの自走していく強い組織に向かっていくメカニズムとなっています。

 歴史のある大手企業の多くは入社時の研修で、「創業の精神」や「われわれの存在意義」に関しての研修を行っています。そこで触れる企業理念とのリンクが強ければ強いほど、仕事に対して前のめりで、活躍する人材へと成長していく。そのエネルギーあふれる従業員に憧れて次の応募者へつながっていくという一連の流れは、すべての企業に当てはめることができると思っています。

まとめ ~まず何から取り組むべきか~

 「組織力を強化する」という言葉だけでは、表面化している課題が多いからこそ、何から取り組めばいいのかわかりにくいことが多いです。また効果を確認できるまでに時間を要するため、改善の優先度としては後回しにされがちです。しかし、「何のために経営しているのか」を多くの仲間が腹落ちすることで多くの相乗効果を見込むことができます。まずはこれを機に、自社のみしか打ち出せない「企業理念の再確認」と「浸透に向けた取組み」を目指されてはいかがでしょうか。

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