プレス技術 連載「キラリ光る!塑性加工分野のモノづくり力」
2026.03.13
第18回 幅・厚みを可変させる特殊異形線で新市場に挑戦─ナミテイ
プレス・鍛造加工で独自・個性的な技術を駆使してモノづくりに挑む企業、各種研究・開発団体をレポートする。(『プレス技術』編集部)
1945 年に釘の製造で創業したナミテイ(大阪府東大阪市)は、鉄・非鉄の線材二次加工と圧造を手がける。現在の社名は1991 年、創業時の社名「浪速製釘」の「浪」と「釘」をつなげて略称化し、カタカナ表記にしたものだ。
同社は創業期の釘づくりの技術をもとに鉄線やめっき線など時代に合わせたモノづくりに取り組み、1970 年には後の主力事業となる異形線の市場を切り開いた。以降、土木、建築、プラント、自動車などさまざまな用途の異形線製造を展開している(図1)。
その象徴とも言えるのが、深海底に敷設される光ファイバーケーブルの中核である鋼鉄製耐圧層を構成する扇形の断面をした異形線だ。これはパイプ(外径6mm・内径3mm)を縦に3 分割したような高精度、長尺の扇形異形線であり、組み合わせることによって中心にある光ファイバーを水圧から守る保護材の役割を担っている。長距離(50㎞以上)にわたり高精度な断面形状を維持する特異な異形線製造技術により、1986 年に光ファイバーケーブルに採用されて以来、同社は同異形線で国内シェア100%のニッチトップ企業となった。
一風変わった特殊な異形線
最近、同社は一風変わった異形線を開発した。断面積は一定で幅と厚みを任意に変えられる特殊な異形線「ウルトラデフォームドワイヤー」(UDW)だ(図2)。
図2 断面積は一定で幅と厚みを任意に変えられる特殊な異形線「ウルトラデフォームドワイヤー」(UDW)(画像提供:ナミテイ)
「複数のお客さまから1 本の銅平角線で断面形状が長手方向に徐々に変わる異形線をつくれないだろうかとの問合わせが続きました」(吉川浩至・新事業開発プロジェクト開発営業 課長)
それは世界中でEV(電動車)化が進展しつつある頃だ。「図面に描けるものなら何でもつくる」をキャッチフレーズとする同社にとってやりがいのあるテーマではあったが、気になったのが先行技術だった。
そこでさまざまな技術や特許の文献を調べてみると、断面積は一定のままで幅と厚みを変える異形状の特性とその製造方法について多くの文献が見つかった。そしてこの異形線ならモータ用コイル〔ステータ(固定子)に組み込むコイル状の導線〕の占積率を高められ、それにより小型、軽量、高出力などモータの主要なニーズに応えられることがわかった。ただし、どれも実用化されていない。なぜか。文献には載っていないデメリットがあるのではないか。机上論でよくても実際の製造に技術的な困難があるのではないか。が、「常識にとらわれず、新技術や革新的工法へ常にチャレンジ」という社風が後押しとなり、幅・厚みが可変なこの特殊異形線の開発に踏み出していった。
高占積率で高性能を実現できる
開発から2 年後、UDW を完成させた。同社は鉄系の異形線を伸線加工や圧延加工、押出し加工、引抜き加工とさまざまな加工を駆使して製造するが、UDW は、それらの技術をベースに自社のノウハウを加えた独自の塑性加工法でつくり上げる。一定の断面積で幅と厚みを自在に変えられる塑性加工法は、特許を取得し展示会などでPR を始めている。
市販の銅線や銅異形線は断面形状が長手方向に一定だが、UDW は断面形状の幅と厚みを長手方向に連続的または断続的に変えられる銅平角線である。それにより例えば、円周上に配置するモータコイルなら、台形状のスロット〔ステータ(固定子)にコイルを組み込むための隙間〕を隙間なく埋めるような断面形状に調整できる(図3)。また、塑性加工のため切削・研削加工に比べてロス材の発生を大幅に低減でき、寸法公差±20μmの高精度で連続長尺な線材を安定して加工できる。
図3 UDW はスロットの形状に合わせてモータコイルを高占積率に組み込める(画像提供:ナミテイ)
UDW の主な用途はモータ用コイルであり、スロットの形状に合わせてターン(コイルの巻き数)ごとにコイルの断面の幅と厚みを変えられる。つまりスロットの形状に最適な断面形状の設計が可能となり、それにより占積率(スロット断面積に占めるコイル断面積の割合)の最大化が図れ、抵抗値の低減による高出力化や小型化設計などにも貢献し得る。
新市場の開拓を視野に進む
UDW はユーザーの仕様に応じて幅と厚みを決める。いわゆるカスタマイズ製品である。今後はUDW を訴求しながら、その細線化や薄型化の可能性を探っていく。
「実際にUDW の発表以降、薄型化への打診がいくつかあります」(中西崇・新事業開発プロジェクトマネジャー)
小型モータのように小型・軽量かつ高出力を得たいという用途を想定した細線化やターン数を増やしたいという用途に向けた薄型化(厚み1mm以下)だ。さらに薄型化した線材の2層巻きタイプも今後の開発課題と言う。
そしてUDW のバリエーション強化を進める一方、UDW に次ぐモータ用コイルの銅線材として異形断面のマグネットワイヤー「異形マグネットワイヤー」を試作検討中だ。
「異形線に被覆を施したマグネットワイヤーですので、新たな機能アップに使っていただける可能性があります」(吉川課長)
既存の平角線マグネットワイヤーの派生となる異形マグネットワイヤーだから、現状のものから置き換えやすく、採用の敷居が低く提案しやすい新製品となる。
「これまで鉄の異形線を量産してきましたが、UDW、異形マグネットワイヤーともに銅の異形線はこれからの製品であり、今後どのような用途・需要があるのかを顧客とともに探りながら展開していきます」(中西プロジェクトマネジャー)
未開拓市場に向けてUDW と異形マグネットワイヤーという異形の線材の可能性を見いだしていく。「常識にとらわれず、新技術や革新的工法へ常にチャレンジ」するナミテイの挑戦が始まった。