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プレス技術 連載「モノづくり革新の旗手たち」

2026.01.27

人こそ企業発展の要!若手確保に向け学校へ働きかけを強化―明星金属工業

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明星金属工業㈱ 代表取締役社長
上田幸司氏

 売り手市場が続く中、新卒者の採用に苦労する中小モノづくり企業は少なくない。一般的な認知度の低い「金型」のメーカーであればなおさらだ。そんな厳しい状況に真っ向から挑むのが自動車用大型プレス金型を主力とする明星金属工業(大阪府大東市)。行政や他企業を巻き込み、小・中・高校・大学の児童・生徒・学生のみならず保育園児にも自社を知ってもらう積極的な取組みを展開。社員のスキルアップや健康増進を通じた離職防止策にも力を入れる。企業の永続的発展のための次の一手を上田幸司社長に聞いた。
――自動車用プレス金型を手がけるようになるまでの沿革を聞かせてください。

上田 
 1950 年にひしゃくやバケツといった家庭用金物の製造販売で事業をスタートしました。やがて、家電メーカーが集積する地の利を活かして家電のプレス部品製造に参入。プレス加工を生業としたときに、やはり金型が大事だということで金型の内製化に着手します。ただ、当時は社内で使う金型だけで外販はしていませんでした。それが変わったのは1960 年代後半です。家電の海外生産が本格化して仕事が激減する中、自動車関連の部品メーカーさまから「金型を内製しているなら外販してもらえないか」と問合せがあり、自動車向けの金型づくりがスタートし、現在の自動車メーカーさまからのプレス金型の発注につながりました。その後、プレス加工業務も家電製品から自動車部品の量産へと変化していきました。

――家電と自動車では、同じプレス加工でもずいぶん違うイメージです。

上田 
 一番の違いは成形する部品の形状です。家電部品は箱ものが多く、切ったり曲げたりが主体で絞りは少ない。一方、自動車部品は3 次元形状が多く、絞りの技術が不可欠です。当社は冷蔵庫のコンプレッサーカバーを製造した実績があり、厚板の絞りの知見があった。それで自動車関連へとスムーズに転換できたのだと思います。現在、当社は自動車のフェンダーやボンネット、ドア、ルーフなどアウター部品用の大型プレス金型の型売りに特化しており、当社のプレス部門から1972 年に独立した上田産業(大阪府東大阪市)や上田産業の子会社として2006 年に立ち上げた明星九州(大分県宇佐市)がプレス部品加工を担っています。家庭用金物から家電部品、自動車金型、自動車部品と時代とともに移り変わってきたおかげで今の当社があります。
同社が製作した大型プレス金型(写真提供:明星金属工業)

同社が製作した大型プレス金型(写真提供:明星金属工業)

金型加工用の門形マシニングセンタ(写真提供:明星金属工業)

金型加工用の門形マシニングセンタ(写真提供:明星金属工業)

――営業面で力を入れていることは?

上田 
 部品の生産コストを下げたり生産効率を高めたりできる、“生産設備として優れた金型”を顧客に提案しようと2020 年から取り組んでいます。部品加工の方もプレス加工をして終わりではなく、アセンブリにまで対応できるようレベルアップを図っているところです。金型は年ごとに受注の山谷が大きいので、建機・農機や産業機器など自動車以外の大型プレス金型の取込みにも注力しています。ただ、自動車に比べると数が少ない。そこで自動車メーカーに継続的に金型を発注してもらえるよう納期順守や量産時の生産性向上につながる高品質な金型づくりに取り組んでいます。

人材確保が最重要課題

――人材確保を重視しているそうですね。

上田 
 当社は金型メーカーです。金型は一品一葉で自動生産が難しい。人がスキルを継続的に身につけ、ベテランから若手へとバトンタッチしながらやっていくほかありません。ですから会社の永続的な発展のためには継続的な人材確保や人材育成が最重要課題だと考えています。一方で、あまり報道されていませんが、工業高校を卒業する生徒の数は今後加速度的に減っていくと予想されます。2024 年度に14 校あった大阪府立の工業高校は2027 年度に11 校になり、以降も統廃合により減少が続きます。その状況下で当社を選んでもらわないといけない。われわれとしては必死です。

――危機感を抱くようになったきっかけは?

上田 
 九州のある工業高校の統廃合です。話は2008 年5 月、リーマン・ショックの少し前にさかのぼります。当時、私は大分県でプレス金型のメンテナンスを担う人材を育成しようと計画していました。県や地元大学、自動車メーカーの協力を得て講習会場を確保し、講師は当社から派遣して開講するめどが立ちました。ところが、年間15 人程度の受講生を受け入れるためには溶接機が足りません。そこで、近隣の工業高校に溶接機を借りようと依頼に出向きました。「授業で使用していない期間、溶接機を貸してもらえませんか。講習を受けにくる企業とのつながりができて、生徒さんの就職先の候補も増えますよ」とお願いしたのです。工業高校側にもメリットがあると考えたのですが、工業高校側の返事は「お構いなく。当校の生徒は全員、大手メーカーに就職が決まるから大丈夫です」というものでした。ところがわずか3 年後、その工業高校は統廃合されます。リーマン・ショックで就職率が大幅に悪化し、その後の回復も鈍く、生徒が集まらなくなった結果でした。

――数年で状況がまったく変わってしまった。

上田 
 そのスピードに驚きました。大阪府も大分県と同じ道を歩んでいます。工業高校の数が減り、卒業生が減れば、新卒者の採用はさらに難しくなります。そこで、2017 年から本格的に活動を始めました。まず、大阪府立城東工科高等学校(東大阪市)に企業と連携した新たな授業を提案し、採用されます。自動車メーカーから講師を呼び、自動車生産における基本的な考え方を講義してもらいました。これがきっかけで城東工科高等学校機械科の生徒全員が、当社を含めた大東市のモノづくり企業に職場体験に来てくれるようになりました。

――会社を知ってもらういい機会ですね。

上田 
 ただ、生徒の多くはそれでも大手企業を選びます。高校よりも早い段階で当社を知ってほしい。地元の小・中学校にアプローチする方法はないかと考え取り組んだのが、会社見学や職場体験に協力してくれる大東市内の企業をまとめたマップの作成です。試しに200 部つくって学校に配布したところ非常に好評でした。現在は地元の商工会議所や教育委員会も巻き込んで、大東市内の各学校に毎年配っています。昨日も当社の隣にある大東市立四条小学校の3 年生が見学に来てくれました。

――子供の頃の体験は記憶に残ります。

上田 
 同校の6 年生は卒業記念に当社の工場の壁に絵を描いてくれます。また、近隣の保育園の卒園生も記念に絵を描いてくれるので、昨日来た中には数年前の卒園時に絵を描きに来たお子さんがいたと思います。取組みを初めてもうすぐ10 年が経ちます。当社を志望してくれる地元の若い人が1 人でも増えればうれしいですね。
同社が金型を製作した車種の発売を機に行われる「魂の伝達式」の様子(写真提供:明星金属工業)

同社が金型を製作した車種の発売を機に行われる「魂の伝達式」の様子(写真提供:明星金属工業)

3年間の独自プログラムで新人を育成

――新人技術者はどのように育成していますか。

上田 
 3 年間の技能訓練プログラムに則って育成しています。自動車メーカーの技術者養成校で金型の手仕上げを教えていた方に協力してもらい、10 年ほど前に整備しました。各年に学ぶべき技術、達成すべきレベルが決まっているので、プログラムを経ることで皆が同じようにスキルアップできます。また、当社はシミュレーションや金型の3 次元設計、NC プログラム作成を担う「技術部門」と金型の加工、仕上げ、組付け、メンテナンスを担う「製造部門」に分かれていますが、技術部門に配属された新人は3 次元設計から、製造部門に配属された新人は金型部品の組付け作業からキャリアをスタートすることに決めています。

――その理由は?

上田 
 下積みの期間を極力なくすためです。以前は業務が忙しく、人が足りないところに新人を配置していました。ですが、考えてみればわかることですが、シミュレーションのような豊富な知識と経験のいる仕事を任せても、新人に何ができるでしょうか。現場の業務も同じです。金型のメンテナンスは業務量の山谷が大きく慢性的に人手が不足していますが、メンテナンスは最も技術力が問われます。そこに新人を配置しても、「〇〇をもってきて」とか「〇〇を掃除しておいて」のような補助的な仕事ばかり。やっていておもしろくありません。実際に、技能訓練プログラムを実行するようになって離職率が大幅に減りました。

――外国人材は活用していますか。

上田 
 今年から始めました。大阪府内の日本語学校と連携し、バングラディシュの方1 人、スリランカの方2 人を採用済みです。3 人とも日本での永住を希望しているので、長く働いてもらえるのではと期待しています。スリランカの2 人は女性ですが、現場での業務にも前向きです。現場で働く女性を育てていくことも課題の一つなので、2人が成功例となってくれることを願っています。

――福利厚生の充実にも力を入れています。取材の前に、御社の社員食堂で提供する「V.O.S. メニュー」の試食会に参加させてもらいました。

上田 
 社員の長期雇用対策として「健康経営」に取り組んでおり、その一環として社員食堂のメニューに大阪府の推奨するV.O.S. メニューを取り入れています。V.O.S. メニューは野菜(Vegetable)たっぷり、かつ油(Oil)や塩(Salt)の量に配慮したヘルシーなメニューで、当社では地元保健所や管理栄養学科のある近隣大学と連携してメニュー開発を進めてきました。すでに「骨を丈夫に!カルシウムたっぷり定食」や「野菜が摂れるみぞれ煮定食」などを提供し社員からも好評です。


――今日の試食会では、四條畷学園短期大学ライフデザイン総合学科の2 年生が考案したガパオライスとトムヤムクンが提供されました。

上田 
 夏らしい、食欲をそそるメニューでしたね。試食した皆さんからの細かな指摘はありましたが、栄養面だけでなく材料費や調理にかかる時間も考慮しなければならないことを考えると1 回目の試食会としては非常にいい出来でした。2022 年からメニュー開発に取り組んできて、年々学生さんの提案のレベルが上がっていると感じます。これから検討を重ねて最終的にどんなメニューに仕上がるのか楽しみです。
7月に同社内で行われた「V.O.S. メニュー」試食会。試食後、意見交換が行われた

7月に同社内で行われた「V.O.S. メニュー」試食会。試食後、意見交換が行われた

ガパオライスとトムヤムクンのセット。試食した社員からは「夏場の食欲がないときも食べやすい」との声が

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――最後に、経営者として大事にしていることは?

上田 
 次の世代に何を残すかを常に考えています。実務レベルの問題は各部署で対応できる人材が育っていますし、新しいシステムや加工設備の導入なども各部署で進めてくれています。経営者が見なければならないのはもっと中・長期の問題。「今、種をまいておかないと大変なことになる」という課題にこそ率先して取り組んでいます。当社の場合、人さえ継続して採用できれば技術は伝承していける。次の世代に、「毎年、新卒者の応募があります」と言ってもらえる会社になれば、これまでの取組みは大成功と言えるでしょう。
うえだ こうじ:1961 年1 月20 日生まれ、64 歳。1979 年高校卒業。1982 年明星金属工業入社。2005 年より現職。趣味はゴルフ・旅行。

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