icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH

工場管理 連載「失策学 ビジネスの誤算から紐解く成功の条件」

2026.03.03

第9回  部門を危うくする失敗 その3 ―部門管理の視点から―

  • facebook
  • twitter
  • LINE

米国公認会計士/公認内部監査人 打田昌行

うちだ まさゆき 日立製作所傘下の監査支援部門に所属し、国内に加え海外30ケ国以上で内部統制を構築する仕事に12年間従事。 対象企業は100社以上に及ぶ。現職では制度導入の社内研修企画やコンプライアンス教育を実施。著書:『 令和時代の内部統制とリスクコントロール』翔泳社他

いま求められる失策学

 企業や各部門の現場運用は常にトライアンドエラーの連続のため、さまざまな失敗や失策を伴う。しかし、それが苦い失敗や失策でも、冷静になって見つめ直せば、常に豊富な学びがあり将来の成功に繋がる糧を見出すことができる。失策や失敗から成功のヒントを前向きに学びとる逆算と逆転の発想、つまりエラーから学ぶ失策学のアプローチが大切になる。

絶えない古典的な手口

 今年7 月に、与党国会議員が実体のない公設秘書2 人に給与を支払続け、400 万円に及ぶ国費を詐取した疑いで東京地検特捜部の捜索を受けた。同月、自衛隊で潜水手当の不正受給により逮捕者が出た。また都内の女子医科大学の同窓会組織をめぐり、勤務実態のない職員に給与が支払われた疑いが発覚、文部科学省が同大に徹底調査を指導し、8 月には理事長が解任された。さらに同月、和歌山の医科大学職員が架空の超過勤務を申請、不正受給により懲戒処分となった。

 われわれの生活を支え、身近に存在する給与や手当を悪用した単純な不正事例は、金額の大小を問わず依然として絶えない古典的な手口だ。今回の話題は、給与支給などに伴う身近な失敗例で、企業でいえば総務、経理、人事といった部門に深く関わる。

なぜ身近な不正が蔓延(はびこ)るのか

 昨今、資金に困ったうえ、給与・手当金額自体を不正操作して詐取する単純で身近な不正が目立つ。そのため、未然の予防策について改めて考え直す良い機会である。

1.事例1:給与の水増し不正

 山形の社会福祉法人の施設長が10 年間、自身の給与を水増しして約3,400 万円を着服していたことが発覚した。給与事務を1 人で担当、122 回にわたり水増しした給与を金融機関を通じて不正に自身の口座に振り込んだ。後任者が複数ある給与台帳を不審に思い、2024 年5 月に事態が発覚した。

2.事例2:通勤手当不正受給

 2024 年3 月、大阪府は通勤手当を不正に受給したとして複数の職員を懲戒処分とした。1 人は電車通勤を届け出た区間よりも近い友人宅から8 年間にわたって通勤、通勤手当約44 万円を不正に受給した。ほかにも、届け出た通勤区間の一部を徒歩や自転車で通い、差分の通勤手当を不正に受給していた職員がいた。

3.事例3:積立互助費の着服

 町立小学校勤務の事務職員が親睦会などの積立金約400 万円を着服、2024 年4 月に懲戒免職となった。職員は給与の事務処理を担当し、教員の積立金を水増しして支払を申請、差額を着服してクルマの購入や生活費に充てた。毎月の給与明細の一部を偽造して隠ぺいを試みたが、教員から給与金額の合計が合わないという相談が相次ぎ、不正が発覚した。同校の校長も監督不十分を理由に戒告処分となった。

失敗から逆算するための解説

 事例はいずれも単純で身近な不正だが、だからこそ見逃せない。事例1 だが、なぜ10 年間にわたり施設長だけに給与事務を担当させたのか、組織のリスクに対する感性を疑わざるを得ない。こう言うと、ウチはほかと違って人の手当がつかないと反論されるかもしれないが、それでも組織の管理責任は免れない。

 次に、事例2 の地方公共団体の通勤手当の支給も、日常の管理が緩いと言わざるを得ない。府民の税金を預かる公務員として、不実の申請は許されない。職員の自覚を促す通知に加えて、違反は決然として処分するという姿勢の表明も足りなかったと感じる。

 そして最後の事例3 だが、なぜ学校長は部下に400 万円もの着服を許し、明細の改ざんさえ見抜けなかったのか。日頃から給与事務を担当まかせにしていたことが強く推測される。給与明細をランダムに拾い上げ、自ら検証を行うなどして、部下の業務を管理、けん制していれば、被害は最小限度に留めることができたかもしれない。決して難しいことではないはずである。

失敗から逆算して得られる教訓

 身近な失敗だからこそ、学ぶべきことは基礎的なことがらの徹底である。内部けん制の大切さを次の基本的な事項で確認し、些細な不正で部門の信頼を失墜させないよう未然に予防をして欲しい。

■給与計算の相互けん制

 給与計算と振込みの仕事を1 人の担当者、または同一の部門内で実施することは避ける。一見して、2 つの業務を特定の担当者や同一部門で行えば効率的に見えるが、それでは給与の不正操作、お手盛りや架空口座の設定を許す機会を与えかねない。異なる担当者や部門の間でけん制の仕組みが構築できているか、改めて確認したい。

■人が足りないならば工夫を

 相互けん制をしたくとも、人の手当が追いつかない場合はあるだろう。しかし、常時けん制を働かすのではなく、責任者が抜打ちで担当者の給与計算、振込みの処理内容を確認、検証することはできるはずである。これだけでも、日頃から仕事を任せたままになりがちな担当者に相当のけん制効果をもたらす。

■委託した給与計算の検証

 給与計算を外部委託するケースが増えているが、委託先による計算誤りのリスクから解放されているわけではない。毎月、計算結果を複数サンプリングして検証する手続を実施する必要がある。

■口座登録や削除権限の付与

 給与システムなどを活用している場合、給与計算や振込み手続に関わる者に、口座の登録や削除に関するシステム上の権限を付与してはならないことは、いうまでもない。

■通勤定期券の現物確認

 従業員に定期的な通勤定期券の現物提出を求める。申請区間どおりに定期券購入がされているか、現住所に基づく申請区間が合理的か、直属の上司や上長が直接照合する。同時に、不実の申請には厳しく対応する旨を伝えて自覚を促し、けん制を働かせる必要がある。

関連記事