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プレス技術 連載「世界のなかの日本、日本のなかの世界」

2026.03.05

第14回 「ユニクロ」が通じない?

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帝京大学 平田 好

ひらた よしみ:外国語学部長 兼 日本語教育センター長。早稲田大学卒業後、1995 年からベトナムを皮切りに世界各国で日本語教育に携わる。2021 年より帝京大学教授。2022 年より日本語教育センター長、2025 年より現職。修士(国際関係学、2000 年早稲田大学)。
 「ユニクロ」、「マクドナルド」、「スターバックス」──これらのチェーン店は、日本はもちろんのこと、世界中の多くの国に店があります。日本に留学している学生には、このままの名称で通じると思っていませんか。実は、日本に数年間住んでいて、ユニクロで何度も服を購入している学生でも通じないことがあるのです。授業中の一場面でそのことに気づかされました。

同じブランドでも“ 音” が違う

 授業中、ある留学生が「ユニクロの経営戦略について書かれた本を読んだ」と話してくれたときのことです。筆者は「ユニクロ」という言葉を当然のように口にして、ほかの学生たちにもわかるだろうと思い、そのまま話を続けました。ところが、クラスの中国人留学生が少し戸惑った表情を見せました。「ユニクロ、知りませんか?」と訊けば、「あ、『优衣库(Yōu yī kù)』のことですか?」と返ってきました。

 その瞬間、筆者も思わず「え、ヨウイークー?」と聞き返してしまいました。日本語では「ユニクロ」、しかし中国語では「ヨウイークー」に近い音で呼ばれているのです。日本語の「ユニクロ」と中国語の「ヨウイークー」は、頭の中でなかなか結びつきません。けれども意味するものは、同じあの「UNIQLO」です。

 日本人が「マクドナルド」と言っても、米国では発音が異なるため、すぐには通じません。英語では「McDonald’s(マクダーナルズ)」であり、フランスでは「マクド(MacDo)」、中国語では「麦当劳(マイタンラオ)」と呼ばれています。スターバックスも、日本では「スタバ」と略して呼ぶことが多いようですが、韓国では「スタボクス」、台湾では「星巴克(シンバークー)」です。

 同じロゴマーク、同じユニフォーム、同じメニューであっても、国が変われば音の姿が変わります。つまり、グローバルブランドといえども、世界中で同じ“音”を共有しているわけではないのです。

 固有名詞であっても、その呼び方(音)は、それぞれの言語の音韻体系に合わせて調整されます。外来語として日本語に入るときには、日本語の音に置き換えられ、「マクドナルド」、「スターバックス」として定着しました。逆に、日本の企業が海外に進出するときも、現地の発音に合わせて名前が変わることもあるわけです。

そして、ユニクロの中国語名「优衣库」は、「優れた衣服を売る倉庫」という意味も込められているようです。音だけでなく、意味の翻訳まで行われている例にもなります。
イラスト:奥崎たびと

イラスト:奥崎たびと

「音の翻訳」による相互理解

 日本語教育の現場では、こうした音声の違いがしばしば誤解を生むことがあります。学生が知っているはずの単語が、音声として結びつかない。あるいは逆に、日本人が外国人の発音を聞き取れない。音声が異なることで理解が途切れることはままあります。

 しかし、そのときこそが相互理解のチャンスです。わからないことをわからないままにせず、「もう一度、言ってください」と伝えることの大切さは、留学生にも日本の学生にも耳にタコができるほど繰り返し伝えてきました。

 私たちはつい、世界共通のブランド名を「共通語」として扱ってしまいがちです。しかし実際には、人々がそれぞれの言語の中で、自分たちの音に置き換えて受け入れています。

伝わらないときこそ学びのチャンス

 例えばベトナムの学生は、「KFC」と言っても、日本人のように「ケーエフシー」とは発音せず、「カーフェーシー」に近い音で言います。「カーフェーシーでチキンを食べませんか?」と留学生に誘われたとき、日本の学生は、それが「KFC」であることを認識できないかもしれません。そのときこそ、「カーフェーシー? へー、ベトナム語の発音っておもしろい!」と反応してほしいものです。会話がはずみ、相互の文化理解が進むことを期待します。

 教育現場で大切なのは、「伝わらなかった」という事実を失敗と見なさないことです。音のずれが起こったときこそ、学習者が自分の言語の枠を意識し、他者の音の世界に耳を傾ける好機になります。教師もまた、「自分の言葉がどう聞こえているか」を常に考えていかなければなりません。

世界は“1 つの音” ではない

 同じ名前の店が世界中にある──それは一見、世界が1 つにつながっているように見えます。しかし、呼び方が違うということは、同じものをそれぞれの言語の中で「自分のもの」として受け入れている証ではないでしょうか。「ユニクロ」が「ヨウイークー」になるように、世界は1 つではなく、無数の“音の世界”でできています。日々の教室での小さなやりとりの中に、世界の多様な“音”が響いています。

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