若手技術者を指示待ちにさせないためには5点を意識した裁量を認める業務指示が必要
若手技術者を指示待ちにさせないためには、どのような業務指示を出せばいいのか。意識すべきは「目的」、「到達点」、「時間軸」、「フォロー」、「安全」の5点を徹底することにある。そのうえで、若手技術者自身に、ある程度の裁量権がある状態で技術業務を推進させることが求められる。この5点について概要を述べる。
何のために仕事をするのかを明確化する「目的」
技術業務の推進に不可欠なのは、当然だがモチベーションである。モチベーションは若手技術者の能動的取組みの原動力となるため、リーダーや管理職はぜひとも意識してほしい。
モチベーションを高める方法の一つが、なぜその仕事を行い、何を得たいのかを若手技術者に説明し、「目的」を理解させることだ。技術業務はすべて何かしらの目的があって発生している。その目的を説明せずに当該業務を推進させれば、「なぜ自分はその仕事をしなければならないのか」という自問自答を繰り返す恐れがある。推進する理由がわからないまま技術業務に取り組んでも、モチベーションが下がることはあっても上がることはない。よって、推進担当者である若手技術者に目的を理解させることは重要だ。
技術業務推進で目指す方向の指針となる「到達点」
既述の目的と同様、モチベーションを高め、維持させるのに重要なのが、若手技術者が技術業務の推進によって到達すべきゴールを明確化することだ。常に「到達点」を意識しながら日々の技術業務を見直し、到達点に近づこうとする姿勢が若手技術者に求められる。
実務担当をする若手技術者にとって、技術業務を俯瞰しながら、到達点を見失わずに前進することはそれほど容易ではない。実務担当者は、目前の仕事に追われるうちに近視的になっていく。このような状態に陥らないよう、リーダーや管理職は到達点を明確に示す必要がある。
最終的なアウトプットが必要な期限を定める「時間軸」
技術者育成の効率を高めるには、ある程度の緊張感が不可欠である。この緊張感を高める最も効果的な方法が、「時間軸」という概念の導入だ。製造業企業における技術業務は、実験や設備運転などが必要になることもあり、技術業務の完遂までどのくらいの時間がかかるかわかりにくい側面もある。そのため、技術業務の中で研究開発業務を中心に時間軸があいまいになることも多い。しかし、若手技術者のうちに理解しておきたいのは「時間は有限」であることだ。いつまでに仕上げるのかという時間軸の感覚を若手技術者に持たせることは、技術業務に対する集中力の必要性を理解させることにもなる。緊張感と集中力をもって技術業務を推進する経験は、若手技術者の即戦力化には不可欠だ。
独り善がりにならないための「フォロー」
若手技術者は、得てして相談することが苦手である。学生時代の教育の影響もあり、すべてを自分の力で完遂させなければならない、と思い込んでいる部分もある。後述のとおり、指示待ちにならないためには若手技術者に裁量権を持たせて技術業務を推進させることがポイントとなるが、「裁量権を持つ」が「すべてを自己完結する」と同等ではないことを、若手技術者は理解しなければならない。目的を理解していたとしても、実務を進めるうちに近視的になり、その結果として軌道修正が必要となっている可能性はゼロではない。組織に属する以上、チームプレーが大切であり、リーダーや管理職はそれを支援や指導という形で若手技術者に伝えていくことが重要だ(図3)。
図3 リーダーや管理職によるフォローを通じ、若手技術者はチームプレーの大切さを理解する
製造業企業である以上、徹底教育が必須の「安全」
製造業企業において、「安全」だけはどのような理由があっても軽視することは許されない。技術業務を指示するにあたり、少しでもけがの恐れのあるものについては実物を見せながら徹底的に教育をすることは、リーダーや管理職の最重要責務である。どれだけ高価な設備や備品が壊れたとしても、けがだけは絶対にさせてはいけない。どんなことよりも、若手技術者に対して最優先で教育し、理解させることが求められる。
「目的」、「到達点」、「時間軸」の3点は、活字化を通じた若手技術者の徹底理解を目指す
リーダーや管理職が技術業務の目的、到達点、時間軸をきちんと伝えたとしても、若手技術者が本当にこれらを理解できるかは別問題である。フォローしているうちに、伝えたことを若手技術者が忘れている、誤解していることに気がつく場合もあるだろう。実務経験が浅く、余裕のない若手技術者にとってよく見られる状況だ。
ではリーダーや管理職はどのようにして、技術業務の目的、到達点、時間軸を若手技術者に理解させるべきか。重要なのは「説明した目的、到達点、時間軸をその場で若手技術者に書かせる」ことだ。頭の中が整理できていなければ、活字化することは難しい。裏を返せば、若手技術者がきちんと書けるまで説明を繰り返し、誤解している点があればその場で修正する対応が、リーダーや管理職に求められる。活字化させるのは、指示内容理解確認の鉄則と言える2)。
既述した5点を基礎とし、若手技術者にある程度の技術業務推進の裁量権を与える
既述の5 点をきちんと押さえたうえで、リーダーや管理職が若手技術者を指示待ちにさせないために実行するべきこと。それは「若手技術者に裁量権を持たせる」ことだ。裁量権をどの程度認めるかについては、若手技術者の力量や技術業務内容に依存するため一概には言えない。大切なのは、「若手技術者が、技術業務推進において“適度”に試行錯誤する」ことだ。若手技術者が仮に失敗や間違いをしても、そこから学べればいいという姿勢で、リーダーや管理職は構えてほしい。リーダーや管理職は「安全」を最優先に、「目的」や「到達点」に誤解がなく、「時間軸」を意識できているかを適宜確認しながら、必要に応じて「フォロー」すれば十分だ。より効率的なやり方がある、こうした方がいいといった考えがあったとしても、口を出さずに見守ることがリーダーや管理職に求められる姿勢だ。
夢中になっている間に見失った目的や到達点、そして時間軸に対する意識の低下に関する指摘とフォローを、リーダーや管理職からもらえることは、若手技術者にとって成長の糧となる。そして自ら試行錯誤したことは、単なる知識ではなく「知恵」に進化し、この知恵を増やすことで若手技術者も自信を持って能動的に動けるようになる。このような経験を通じ、将来にわたり組織に貢献する人材へと若手技術者は成長していくのだ。
まとめ
若手技術者を指示待ちにしないためには、「目的」、「到達点」、「時間軸」、「フォロー」、「安全」という5 点を意識した技術業務指示を出し、その推進には若手技術者の裁量権を認めることが肝要だ。試行錯誤こそが、技術者の本当の意味での知恵を身につける唯一の方法である。目的、到達点、時間軸については、若手技術者が正確に理解できているかの確認の意味も兼ね、その場で書かせることが望ましい。そして独り善がりにならないよう、リーダーや管理職は目的からのずれ、到達点の見失い、時間軸に対する意識低下の有無などの確認を継続的に行い、必要に応じたフォローを行うことが重要である。ただし、安全に対する教育が最優先であることを忘れてはならない。
この繰り返しにより、知識が不足した状態での技術業務推進の恐怖心を抑え、能動的に動くことを若手技術者に促してほしい。
参考文献
1 )吉田州一郎:第6 回 新人技術者の“知っている”ことが実務で使えない、機械設計、Vol.68、No.2(2024)
2 )吉田州一郎:第4 回 若手技術者が指示事項を理解したのかわからない、機械設計、Vol.67、No.13(2023)