icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH

機械設計 連載「若手技術者戦力化のワンポイント」

2025.03.04

第8回 若手技術者が自分で考えて動くよう仕向けるには?

  • facebook
  • twitter
  • LINE

FRP Consultant 吉田 州一郎

よしだ しゅういちろう:代表取締役社長。東京工業大学工学部卒業後、Fraunhofer Instituteでのインターンを経て、同大大学院修士課程修了。繊維強化プラスチック関連の技術指導や支援を企業に行いながら専門性鍛錬を行う一方、技術者に特化した育成事業を法人向けに展開。自らの10 年以上にわたる研究開発と量産ライン立上げ、国内外企業連携によるプロジェクト推進の経験を踏まえ、繊維、機械、化学などの企業の研究開発現場での技術者育成の指導、支援に尽力。福井大学非常勤講師。
若手技術者戦力化のワンポイント
「若手技術者が自分で考えて動いてくれない」とき、「技術業務の目的、到達点、時間軸を活字で示させ、フォローしながらも任せる」ことを試す

はじめに

 「若手技術者が指示待ちで動かない」。さまざまな企業で、技術者の育成支援や指導をするにあたり、経営陣や管理職の方々からよく聞く発言である。技術者を自発的に行動し、課題解決できるエキスパートにする、というのが当社の技術者育成のコンセプトであることからも、そのような状況は由々しき事態と言える。

 技術系社員が能動的に技術業務に取り組むことは、企業の技術力向上とそれによる企業ブランド力向上という観点から、企業組織にとって大変重要である。受け身の技術者が多い企業では、受け身の社員の中から“指示をする技術者”を超える技術者が出ることはないだろう。それに加えて懸念されるのが、優秀な若手技術者の離職である。指示待ちの技術者が多い職場では、自己実現を達成する可能性が低いと若手技術者の目に映るはずで、仕事にやりがいを求める有望な若手技術者から、その職場を去ることは想像に難くない。少子高齢化が急激に進む今の日本において、この状態は組織存亡の危機と言っても過言ではない。指示待ちの技術者が多い企業では、指示待ちの若手技術者だけが残る傾向が強まるのだ。

 このような状況を避けるためには、組織として対策を取ることが求められる。そして、その取組みの一つとして、若手技術者を指示待ちにしないことは不可欠と言えよう。今回は、若手技術者が指示待ちになってしまう心理を解説した後、当該技術者が能動的に動くようにするための取組みを述べたい。

若手技術者戦力化のワンポイント

 「若手技術者が自分で考えて動いてくれない」とき、「技術業務の目的、到達点、時間軸を活字で示させ、フォローしながらも任せる」ことを試してほしい。若手技術者を指示待ちにしないためには、技術業務内容を理解させ、そこに時間軸という緊張感を持たせながら、細かい技術業務推進方法は任せることが肝要である。一方で、放置せずフォローすることを忘れてはいけない。

知識を習得してから前に進みたい若手技術者

 研究開発を中心に、技術者として企業に雇用される若手技術者は、技術系に関する何かしらの教育を受けていることが多い。そこで叩き込まれるのが、技術的な“専門知識の記憶”の重要性だ。誤解がないように言っておくと、企業に勤める技術者であっても、ある程度の専門知識は不可欠である。ただし、企業で必要なのは知識というよりも、過去の連載記事1)でも述べたとおり「知恵」である。知恵とは単に知っていることを意味する「知識」を応用し、実践的な行動まで結びつけられる知見のことだ。知恵にするには、能動的に調べ、それをアウトプットするという“実践”を通じてのみ身につけられる。

 上記のような教育背景と知恵に対する理解不足ゆえ、実務経験のあまりない若手技術者の多くは、技術業務の初動において知識習得に注力する傾向が強い。この知識習得を目指した初動の繰り返しが、指示待ちの姿勢につながっていく。

 リーダーや管理職の指示によって、技術業務に若手技術者が対応する状況になると、若手技術者の多くはまずインターネットの検索や、文献、専門書を読むなどして知識の習得に努めることから始めるだろう。多少調べる程度で、技術業務の推進に切り替えられればいいが、なかなか該当する知識が得られない場合、「調べる」時間が長くなる。それを見ているリーダーや管理職は、「いつになったら始めるのだ」といういらだちを感じるはずだ。仕事の多くには納期があることを考えれば、いつまでも待つわけにはいかず、ほかの技術者に仕事を任せる、またはリーダーや管理職によっては自分でやってしまう場合もあるだろう。

 このようにして自分の手から取り上げられた仕事が、ほかの技術者によって推進されることを複数回経験した若手技術者は、大なり小なり自信を失うに違いない。自尊心が低い傾向にある若手技術者は臆病になり、自分から仕事に取り組むことはしなくなる。指示待ちになっていく姿が想像できるのではないだろうか(図1)。
図1  技術的な知識習得へのこだわりによる初動遅れが、若手技術者の指示待ち姿勢につながる

図1  技術的な知識習得へのこだわりによる初動遅れが、若手技術者の指示待ち姿勢につながる

知識がない状態でも未知の技術業務は推進できることを理解させる

 既述のような流れで若手技術者が指示待ちにならないためには、どうすればいいだろうか。調べものではなく、手足を動かさなければ仕事は前に進まないことを理解させればいいのだが、その前提となる心理的な障害を取り除くことが優先だ。

 その心理的障害とは「知識がないと未知の技術業務は推進できない」だ。技術者の仕事では、特に研究開発業務において、未知のことに取り組む場合が多い。未知なことに取り組まなければ、新しいものが生まれないことを考えれば当然だ。リーダーや管理職も、未知の技術業務を推進するのは日常茶飯事と感じており、少なくとも自身が若手技術者の頃にそのような業務を推進した経験を有しているはずだ。つまり、若手技術者に業務指示を出すリーダーや管理職も、どこかで既述の心理的障害を乗り越えてきている。「技術者の推進する技術業務は、未知の内容が含まれるのが普通で、それに対して必ずしも予備知識が必要なわけではなく、実業務を通じた経験を積むことが重要である」という旨を、若手技術者に理解させるのが大変重要な一歩となるだろう(図2)。
図2  知識がなくても未知の技術業務は推進できることを理解するのは、若手技術者にとって重要な第一歩

図2  知識がなくても未知の技術業務は推進できることを理解するのは、若手技術者にとって重要な第一歩

34 件
〈 1 / 2 〉

関連記事