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型技術 連載「中国の金型業界のリアル」

2026.03.26

第9回 「金型工業団地」が製造業の未来を動かす(後編)

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杭州谷口精工模具有限公司 小方 暁子

おがた あきこ:薫事長、OISHIエンジニアリング㈱代表取締役 神奈川県川崎市出身。留学経験後、日本と海外の文化や交流に興味をもち、旅行専門卸業勤務を経て、中小企業向け業務システム会社を立ち上げ。中国浙江省・杭州市にて業務経験ゼロから金型メーカーを事業承継。日本では金型商社事業と工業・農業系地方創生・海外ビジネス交流事業も手がける。
 金型産業が1 億元発展すると、周辺産業は100 億元の経済効果が期待できる「1:100」という考えのもと、金型産業の底上げに力を入れている中国で、金型工業団地(本連載では、「金型産業園(中国語:模具产业园)」や「金型城(中国語:模具城)」などと呼ばれる、金型産業を中心とした産業集積地を「金型工業団地」と総称しています)という枠組みを利用して、国や地方政府、各種協会団体や企業、学校などが一丸となって製造強国となるべく、おのおのの役割を模索しています。

モノづくりで地方振興

 江西省修水県金型デジタル産業パーク(江西修水县模具数字产业园。以下、産業パーク)は、2022 年、江西省の山に囲まれた九江市に誕生した、比較的新しい金型工業団地です(図1)。地元政府は長年にわたって山深いエリアの経済発展の方法を模索していました。一方で、隣接する広東省東莞をはじめとする珠海デルタ・長江デルタ地域の金型製作などを行うモノづくり企業が密集するエリアでは、価格競争や人手不足、経済環境の変化からビジネスモデルの変革が急務であり、中西部への移転の流れがありました。
図1 江西省修水県金型デジタル産業パーク全景(模型)

図1 江西省修水県金型デジタル産業パーク全景(模型)

 国際情勢から産業の現代化はますます重要になると考えた江西省修水県の地元政府は、人口約500 万人という労働力を強みとし、金型産業の「工業の母」としての価値を最大限に活用することを決意します。もともと鉱物が豊富なエリアであったため、熱間鍛造関連のサプライチェーンがすでにあり、隣接する省の自動車産業・交通輸送関連産業からのニーズにマッチしたことも追い風となり、大規模機械製造基地として、巨大な産業園をつくり上げたのです。

入居企業へのサポート

 すでに20 社を超える金型企業が入居している産業パークでは、大型プレス機(最大3,200 t)をはじめとして、多種多彩な共有設備を数百台規模で保有しています(図2)。実質設備投資0 円で金型企業が入居しても、すぐに金型製作を始めることが可能です。
図2 共有設備 出典:修水县人民政府・修水报(https : //www.xiushui.gov.cn/)

図2 共有設備 出典:修水县人民政府・修水报(https : //www.xiushui.gov.cn/)

 ほかにも産業パーク内には、金型製作に必要材料を提供するサプライヤーエリアがあり、「お隣さん」である材料メーカーに注文を出すとすぐに届けてもらえる、巨大倉庫の仕組みがあります。さらには、工作機械・加工設備を提供するサプライヤーエリアも併設しており、金型企業が自社で保有する設備も産業パーク内の共有設備も、メンテナンス・カスタマイズなどは、これも「お隣さん」である工作機械メーカーが即時対応します。商社も産業パーク内に入居しており、商社は材料・工作機械・金型企業をあたかも自社工場のように利用し、次々に注文をこなしていきます。

 産業パーク内ではクラウドで利用可能な共有システムを提供しており、共有設備の予約はもちろんのこと、集約されたビッグデータなど、さらなる納期短縮・新技術の開発などに役立つさまざまな情報にアクセス可能です。デジタル管理されている環境は人材育成も容易で、1 年で1,000 人以上の人材を育てる計画でプログラムされているそうです。それに加え、検査・測定機器も統一管理されているため、安定した品質を保ち標準化することに成功しています。金型企業から見れば、入居することで大幅なコストダウンと専業集中を実現することができ、地元政府としては新しい産業を育てることで人口減少を食い止めるだけでなく、新しい投資を受け入れる体制を確立できるといったように、大きな相乗効果を生んでいます。

「産業チェーン」というビジネスモデル

 産業パークの運営には、もともと自動車関連のプレス金型および冷・熱間鍛造金型を製作していた東莞市中泰模具有限公司(中泰工业科技集团)という金型企業が参画しています。1999 年に10 名ほどでスタートした同社は、自社のデジタル化戦略の中で蓄積したノウハウをファーウェイと共有し、金型企業および関連産業のスマート化・デジタル化に特化したクラウドシステムをつくり上げ、ほかの金型企業へも提供しています。東莞金型協会の企業が数社入居し、「1:100」の産業をつくり出しているこのビジネスモデルは、中国国内外の金型協会や金型関連展示会などを通して積極的にPR 活動を行い、すでに韓国やタイ、ベトナム、ハンガリーなどからの視察団を受け入れており、米国やドイツとの協力体制のもと自動車軽量化研究や技術交流などの促進にも役立っていると言います。

 「大家と入居者」という金型工業団地の今までのビジネスモデルを、まずはモノづくりの基礎である金型に焦点をあて、「金型産業は『底辺』ではなく『中心』である」と考えて周辺産業を巻き込んでいくモデルへと変換し、地域全体・産業全体をブランド化したことが、大きな発展につながっていると思います。

 金型の価値を金型産業自体が改めて認識し、金型産業の問題を解決するだけではなく、製造業全体に新たな価値を提供し発信しているこの産業パークの事例を参考にして、深圳地域とハルピン地域で協業する取組みも始動しています。

 金型産業のデジタル化をけん引するだけでなく、新材料の共同研究や新しい検査基準に関する議論、人材教育基地としての活用など、金型産業が製造のみにとどまらない新たなビジネス価値を創造しています。
■ 取材協力
江西省修水県金型デジタル産業パーク(江西修水县模具数字产业园)  TEL:0792-7270100 
※連絡先は、修水工業園

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