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型技術 連載「モノづくりの未来を照らす高専突撃レポート」

2026.04.13

第23回 知らない世界に飛び込む勇気 国際大会で実を結んだ木更津高専

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フリーアナウンサー 藤田 真奈

ふじた まな:大阪府出身。元とちぎテレビアナウンサー。関西学院大学卒業後、金融業界の企業に就職。その後転職してアナウンサーに。とちテレニュース9(とちぎテレビ)、アクセント!(栃木放送)、BerryGood Jazz(Radio Berry)、軽井沢ラジオ大学モノづくり学部(FM軽井沢)などに出演中。
Instagram:mana.fujita
 千葉県の中西部、東京湾に面した木更津市は、古くから港町として栄え、近年ではアクアラインの開通によって首都圏との結びつきがいっそう強まった地域です。市内には自衛隊基地や先端技術を扱う企業も多く、モノづくりと技術革新が共存する土地柄が特徴です。

 こうした技術と産業の土壌に根ざしているのが、木更津工業高等専門学校(木更津高専)です。現在では、AI・情報工学・電子制御など、時代の変化に応じた教育を積極的に取り入れ、次世代の理工系人材を育成しています。

国際舞台で輝いた学生たち AI コンペで快挙達成

 そんな学びの積み重ねが、ついに形となって現れました。アジア太平洋地域の大学が参加する国際大会という大きな舞台で、うれしいニュースが飛び込んできたのです。スーパーコンピュータ上でのAI やソフトウェア性能を競う「APAC HPC-AI Competition」。この大会で、木更津高専の学生チームが、AI をどれだけ速く、効率良く動かせたかが評価される「エクセレントAI パフォーマンス賞」を受賞しました(図1)。世界中の学生が参加する中での受賞は、まさに大きな成果です。
図1  8 th APAC HPC-AI Competition 受賞メンバー(右端が大枝教授)(写真提供:木更津高専)

図1  8 th APAC HPC-AI Competition 受賞メンバー(右端が大枝教授)(写真提供:木更津高専)

 今回、学生たちが挑んだのは「AI に2,000 個の文章を読み込ませ、どれだけ速く答えを出せるか」という課題でした。一見シンプルに見えますが、実は非常に高度な挑戦です。大規模なAI は膨大な計算を必要とするため、一般のパソコンでは処理が追いつかず、動かすだけでも何時間、場合によっては何日もかかってしまいます。そこで必要になるのが、AI を高速で動かすためのスーパーコンピュータです。

 学生たちが今回使用したのは、シンガポールにあるスーパーコンピュータ「Aspire2a+」。このマシンには、AI の計算を一気に処理する GPU(大量の作業を同時にこなす高速エンジン)が16 台、そして複雑な判断を行う CPU コア(パソコンの頭脳)が224 個搭載されています。つまり、16 台の強力なエンジンと224 人の仕事人が同時に働いているような環境で、AI を動かすことができるのです。

 学生たちは、この圧倒的な計算力を最大限に引き出すため、どこで処理が滞っているのか(=ボトルネック)を見つけては改善する作業を繰り返しました。設定を変え、結果を確認し、また改善する─まるで、「渋滞の原因を1 つずつ取り除いていく」ような試行錯誤を300 回以上続けたのです。その結果、AI が答えを出す速さ(スループット)は、最初の状態の約2倍にまで向上しました。

世界への扉を開いた学生の「ひと言」

 準備は1 年以上前にさかのぼります。

「先生、この大会に出たいんです」。学生のこのひと言から挑戦が始まりました。現在指導教員である大枝真一教授は、彼らのその熱意に応え、チームの指導を引き受けたといいます。

 まず必要だったのは、スーパーコンピュータへの理解を深めることでした。そこでチームは神戸市中央区にある理化学研究所を訪れ、日本のスーパーコンピュータ「富岳」を見学しました(図2)。「これがスパコンか…!」。学生たちが目を輝かせた瞬間が、挑戦の原点になったと言います。
図2 富岳の見学に訪れた学生たち(写真提供:木更津高専)

図2 富岳の見学に訪れた学生たち(写真提供:木更津高専)

 実際の課題のテーマが公開されたのは大会の2 カ月ほど前。そこから毎日のように学生たちは実験を繰り返しました。AI に与える設定を変えたり、特別なエンジンどうしの連携方法を工夫したり、結果を見てまた改善したりと、まるで化学実験のように“ 配合”を変え続ける日々だったそうです(図3)。
図3 大会に向けてディスカッションを重ねる学生たち(写真提供:木更津高専)

図3 大会に向けてディスカッションを重ねる学生たち(写真提供:木更津高専)

 実は今回、チームのメンバーの中にはかつて木更津高専で学び、現在はシンガポールの大学で学びを深めている学生の姿もありました。メンバーの中で唯一AI に関する経験をもつ彼は、ときにリーダーシップを発揮しながら仲間とともに学び合い、チーム全体の理解を支えていたのだそうです。

 そして迎えた当日。学生たちはこれまで積み重ねてきた努力を胸に、本番のプレゼンテーションに臨みました。大会で最大の山場となるのが、英語での発表と質疑応答。スライドも説明もすべて英語で行われ、審査員からの質問も当然英語です。しかもその内容は、AI の仕組みや設定の意図、改善の根拠など、深い理解がなければ答えられない専門的なものばかりでした。

 メイン発表を担当した学生は「発表より質疑応答の方が緊張した」と語ります。国際審査員から次々と投げかけられる鋭い質問に向き合う時間は、まさにこの大会の核心とも言える瞬間でした。

 評価の基準となるのは、AI がどれだけ速く答えを出せるかを示す「スループット」という指標。ただ速ければよいわけではなく、答えの質とのバランスも求められます。学生たちは表面的な調整にとどまらず、AI の内部構造にまで踏み込み、根本的な改善に挑戦。その探究心と粘り強さが審査員から高く評価され、見事な受賞へとつながったのです。

挑戦の先に見えたもの

 今回の挑戦は、木更津高専の学生たちが自らの力で道を切り拓き、仲間とともに学び、世界へと踏み出した物語です。AI やスーパーコンピュータといった最先端の分野に挑む中で彼らが得たのは技術力だけではありません。支え合う仲間の存在、学ぶことの楽しさ──そのすべてが、これからの進路や研究に確かな影響を与えていくはずです。

 そして何より、この挑戦は後輩たちの心にも灯をともしました。「興味をもったら、まず動いてみる」。その一歩を踏み出す勇気こそが、未来の技術者を育てる原動力になるのだと、彼らの歩みが教えてくれています。

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