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機械設計 連載「若手技術者戦力化のワンポイント」

2024.10.30

第2回 若手技術者が技術の本質を理解していない

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FRP Consultant 吉田 州一郎

よしだ しゅういちろう:代表取締役社長。東京工業大学工学部卒業後、Fraunhofer Instituteでのインターンを経て、同大大学院修士課程修了。繊維強化プラスチック関連の技術指導や支援を企業に行いながら専門性鍛錬を行う一方、技術者に特化した育成事業を法人向けに展開。自らの10 年以上にわたる研究開発と量産ライン立上げ、国内外企業連携によるプロジェクト推進の経験を踏まえ、繊維、機械、化学などの企業の研究開発現場での技術者育成の指導、支援に尽力。福井大学非常勤講師。
若手技術者戦力化のワンポイント
「若手技術者が技術の本質を理解していない」ときには、「行き詰まったときに古い専門書を何度も読み返させる」ことをやらせる。

はじめに

 技術職である技術者が、多くの総合職系の社員と最も異なるのは、「“技術理論”を背景にした技術を“武器”としている」という部分だ。このため、技術者たちは技術理論を真しん摯しに学び、それを知識として蓄える自己満足で終わらせずに、実践することが暗黙的に求められる。

 今回の若手技術者戦力化のワンポイントでは、若手技術者たちが技術の本質を理解していない、とリーダーや管理職が感じた場合、技術理論にからめて、どのようにして課題を解決していくかについて考えてみたい。

若手技術者戦力化のワンポイント

 「若手技術者が技術の本質を理解してない」場合のリーダーや管理職の対応として、「行き詰まったときに古い専門書を何度も読み返させる」ということの実践が重要だ。この対応の背景から考える。

技術職である技術者が理解すべき理論は、総合職のそれと異なることが多い

 マネジメント、マーケティング、人事といった、いわゆる総合職といわれる方々の業務にも理論は存在するが、「人」が相手であるため理論だけで話は進まず、現場での臨機応変さが不可欠といえる。この点が当該職種の難しさであり、おもしろさでもあるだろう。

 このような観点を踏まえると、法務という憲法を頂点とした民法、刑法、行政法とそれに付随する特別法という理論が存在する職種は、技術系社員と似たものを求められるといえる。実務に照らし合わせて適用される特別法を基本として業務を進める必要があり、結果として各法律という「理論」を理解することが求められる。そして技術職である技術者は、法務にとっての法律知識と同様、「技術理論」というものを絶対とした基礎力が不可欠だ。しかし、この技術理論は、総合職の方々に求められる理論と異なる部分が多い。

 異なる部分の一つ目が領域の多様さだ。ある程度、明確な枠組みのある法律と異なり、技術理論はその領域が多種多様である。そのため、技術者は所属する企業の技術領域に依存した専門技術領域を設定されることが多い。これは専門性を深める意味では有意義だが、技術領域をまたいで新しい技術を創出する足かせになるなどの課題も存在する1)

 もう一つ異なるといえるのが、技術理論は「数式や数値、ならびに形状や画像」で表現できるものが多いというところだろう。時に定性的な文言が存在しがちな法律と違い、技術理論は定量的な表現ができるものが多く、また画像などを用いて解釈の誤差を減らすことで、誰もが同じ土俵で議論することを可能にするものが多い。そのため、同じ技術領域であれば、国が違っても技術について議論をすることが可能となる。数学が技術者の土台スキルであるのも本点が関連している2)

 上記のような観点から見ても、技術者はほかの職種と比べて、「“技術理論”という明確な“よりどころ”がある」という強みを持っているといえる。

技術のトレンドワードが、技術の“本質”を見えにくくしている

 AI、5G、DX、GX、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、ドローンなど、技術トレンドワードがマスメディアに登場し、専門家がそれらに対して解説や議論をすることもある。トレンドワードにかかわる技術は話題性もあることから、補助金が出ることも多く、企業が取り組む動機の一つになっているようである。

 いずれにしても、このような流れにおいて多くの技術者が感じるのは、「技術の展開スピードの高速化」ではないだろうか。特に経験に偏りがあるうえ、そもそも経験自体が全般的に浅い若手技術者にとって、当該高速化は“焦り”を生み出す一因となっているに違いない。この“焦り”が若手技術者の課題の一つである、「技術の本質を理解していない」事象の発生を助長している。

技術トレンドワードのスピード感が、技術の本質に関する視点を曇らせる

 「“技術理論”を背景にした技術」は、技術者の“武器”であると述べた。ここでいう技術理論とは、どれだけ技術が進歩したとしても“不変”だ。この“不変”の部分にどれだけ早く気がつくことができるのか。それこそが技術者としての最重要の視点といえる。技術トレンドワードは華やかさもあって、関連情報が豊富に出回りやすい。このような流れが技術者への技術トレンドワードの刷り込みにつながって近視的となり、結果として技術の本質を見えにくくしていることは見逃せないだろう。情報“量”が多いということは、それだけ本質的な部分を見えにくくするという副作用が生じがちだ。

最新の技術理論理解の前提という盲点

 技術トレンドワードに惑わされたリーダーや管理職を含む技術職の方々に陥りがちな問題がある。それは、「最新の理論に関する論文や参考図書を読まなくてはいけない」という考えだ。

 このような考え方すべてが間違えとはいえず、当然学ぶべきこともあるだろう。しかし、改めて考えてほしい。これらの技術トレンドワードを構成する技術的な原理原則は、はるか昔に解明されているはずではないか。多くの技術トレンドワードは、技術的な原理原則を応用した技術であることを考えれば、当たり前ともいえよう。

 これらのことを踏まえれば、技術トレンドワードを正確に理解するためには、その基本を構成する技術的な原理原則を理解すべきで、これこそが若手技術者が知るべき“技術の本質”ではないか、というのが筆者の考えである。

技術の本質は古書にあり

 では、“技術の本質”を理解するためにはどうすればいいか。技術理論の理解を例に述べたい。その答えは単純明快である。それは、古い専門書を繰り返し読み込む、だ。

 技術の専門書は現代でも発行されている。しかし、傾向として、近年の専門書は技術理論の導出といった基本事項を省略しているケースが多く、なぜそのような考え方が必要なのか、どのようにしてその式は導出されたのか、といった本当の基本について述べられていない。また、どのような著者の意図があるのかわからないが、簡単なものをあえて難解に記述していることもある。技術の本質である基礎理論をすでに理解できている技術者であれば問題ないが、今回取り上げた課題である「若手技術者が技術の本質を理解していない」という場合において、基本部分が述べられていない専門書はあまり役に立たないだろう。

 それに比べ、発行から数十年経過しているような古い専門書では、基本中の基本から述べられていることが多い。技術領域によっては和書よりも洋書において、技術理論に関する式の導出過程が丁寧に述べられていることもある。技術業界の創成期に活躍された専門家の著書にわかりやすいものが多いのは、書いている本人が技術の本質をよく理解しており、理解しているからこそ、わかりやすく伝えることの重要性を認識しているに違いない。古本屋でしか手に入らないような古い専門書は、技術者にとって技術の本質を理解するにあたって、大変価値ある伝道師となり得る。

若手技術者は、古い専門書を実務にからめながら繰り返し読む

 若手技術者が古い専門書を読むにあたって留意すべき点もある。2 点紹介したい。

 1 点目は「実務にからめる」だ。学ぶべき技術理論であったとしても、技術者が日々推進する技術業務との関連性が見いだせなければ、どれだけ良書であっても内容の理解は難しいだろう。技術理論が、目の前で起こる実験や評価の結果という“事実”と、どのように結びつくのかという関連性を持たせて初めて、専門書から学ぶ技術理論を評論家の知識ではなく、実践力を伴う“知恵”に昇華させることが可能となる。加えて実務だからこそ、若手技術者は「行き詰まる」ことを体感する。この体感によって、“能動的かつ積極的”に技術を学び直さなければならないという動機が芽生える。当該動機は、技術理論を学ぶ効率を飛躍的に向上させる。

 2 点目が繰り返すことだ。技術者には複数の知識習得型のパターンがあり、活字媒体で理解することが得意な者もいれば、会話、動画、画像といった、ほかの情報形態の方が理解を深めやすい者もいる。この見極めはリーダーや管理職にとって難しいケースもあるため、まずは繰り返し読ませることがポイントとなる。仮に活字経由での技術情報理解が苦手であっても、繰り返すことで理解を深めることができるからだ。古い専門書に記述される技術の本質は簡単には手に入らないため、若手技術者の知識習得型によらず、まずは学びによって理解する確度を高める繰り返しを実践させるのが妥当である(図1)。
図1 技術の本質を理解するには古い専門書を繰り返し読むのが最善

図1 技術の本質を理解するには古い専門書を繰り返し読むのが最善

まとめ

 技術者が技術の本質を理解することは、技術職としての成長に限らず、将来的な生き残り戦略という観点からも極めて重要である。情報技術の発展に伴う技術トレンドワードなどの情報氾濫は、この本質を見失わせるリスクを含有しており、リーダーや管理職はそこに惑わされず、若手技術者を技術の本質理解に向け、丁寧かつ力強く誘導していくことが求められる。ここにおいて、古い専門書が重要な情報媒体になることの理解が、今回の若手技術者戦力化のワンポイントの最重要点である。

 若手技術者に技術の本質を理解させて即戦力にしたいのであれば、古の知識に立ち返る。一見遠回りに見えるこの取組みこそが本質である。
参考文献
1 )吉田州一郎:連載「専門性だけでは生きられない! 技術者に必須の普遍的スキルとは」、第11回 技術的な飛躍に不可欠な異業種技術への好奇心、機械設計、Vol.67、No.2(2023)
2 )吉田州一郎:連載「専門性だけでは生きられない! 技術者に必須の普遍的スキルとは」、第10回 技術者のグローバル化に必要な「数学力」と「文章作成力」の鍛え方、機械設計、Vol.67、No.1(2023)