よしだ しゅういちろう:代表取締役社長。東京工業大学工学部卒業後、Fraunhofer Instituteでのインターンを経て、同大大学院修士課程修了。繊維強化プラスチック関連の技術指導や支援を企業に行いながら専門性鍛錬を行う一方、技術者に特化した育成事業を法人向けに展開。自らの10 年以上にわたる研究開発と量産ライン立上げ、国内外企業連携によるプロジェクト推進の経験を踏まえ、繊維、機械、化学などの企業の研究開発現場での技術者育成の指導、支援に尽力。福井大学非常勤講師。
若手技術者戦力化のワンポイント
「展示会出展を通じて若手技術者に何かを学ばせたい」とき、「自社の製品やサービスの“技術的強み”の説明を最優先に、相手の要望を聴き、必要に応じてほかの社員の支援を得る」ことを体感させる。
はじめに
製造業企業が新たな潜在的顧客と知り合うために活用するものの一つに“展示会”がある。従来形式のようにパネルや製品を展示し、展示ブースで営業と技術担当者が来場者に説明するという手法だけでなく、展示会場内の公開会場でのセミナー登壇によって、より多くの聴講者に自社製品やサービスを知ってもらうという取組みが一般的になっている。
さらには、欧州で先行する“商談会を主とした展示会”の形態も増えている。このような展示会では、展示やブースは簡素なのが一般的で、出展企業と商談したい入場者と当該企業をオンラインシステムで“事前にマッチング”し、そのスケジュールに沿って商談を行う。入場者の飛び入り参加は難しく、事前登録と入場料が必要となるのが一般的であるため、来場者数は少ない一方で、高い目的意識を持っているという意味で来場者の質が高い傾向がある。出展企業同士が交流する昼食会を設定している場合もある。筆者も顧問先の要望で商談を主とする欧州の展示会に何度も参加したが、一般的に言われる展示会とはまったく異なる雰囲気で、実際に仕事につながる精度も高かったと感じている。
このように進化を続ける展示会は、事業的観点で重要な役割を果たすが、若手技術者がスキルを高めるフィールドになり得る側面がある。特に自社が出展企業側である場合、その効果が高まる。しかし、明確な指示を与えずに、若手技術者を出展企業の一員として参加させても、リーダーや管理職が求める技術者育成を通じた成長は望めないだろう。今回は、展示会出展を通じて若手技術者に学ばせるべきことについて考える。
若手技術者戦力化のワンポイント
「展示会出展を通じて若手技術者に何かを学ばせたい」とリーダーや管理職が考えた場合、「自社の製品やサービスの“技術的強み”の説明を最優先に、相手の要望を聴き、必要に応じてほかの社員の支援を得る」ことを意識して体感させたい。
展示会出展に携わらせる前に、若手技術者に理解させるべきこと
展示会出展は若手技術者にぜひとも体感させたい業務の一つだ。業務が社内で完結しがちな技術者に外の空気を吸わせるという意味もある(図1)
図1 展示会出展は若手技術者の視線を外に向けさせる意味でも有意義だ
ここで若手技術者に事前知識として持たせておきたいものがある。出展者(出展社)と参加者(参加社)の位置づけだ。違いをまとめると表1 のようになる。出展する側は、“自社の製品やサービスを売る”ことを最優先の目的としている。当然ながら目標とするのは“商談成立”だろう。よって、展示ブースを訪れた側から、逆に売り込まれるようなことがあるとそれは大きな障害となる。もし若手技術者が出展ではなく参加する側である場合、自社の製品やサービスを紹介しに他社の展示ブースを回る行動は失礼にあたる可能性があることを知っておく必要がある。訪問者の情報が出展企業にとって大きなメリットがあれば別だが、出展側は売りたいから参加しているという大前提を、若手技術者も理解しておくのが肝要だ。
一方で参加する側から見た場合、通常であれば求める製品やサービスが展示されているかを知ることが目的の上位になっている。したがって、情報の入手、もしくは詳細な情報を入手するための打合せ設定の確約を取ることが目標となるだろう。この目標到達には、情報がわかりやすく、かつ必要と考えられるものは開示されることが求められる。わかりにくい情報や必要以上の情報非開示は、展示ブースを訪問した人が不満を感じる場合も多いだろう。
ここで述べた出展者と参加者の目的や目標を理解することは、展示会出展に携わる若手技術者にとって不可欠だろう。学校では教わらないからだ。そして出展側として、この参加側の要望に応えることが、今回紹介する若手技術者戦力化のワンポイントとして触れた内容と関係する。
展示会で出展側になる若手技術者に“技術的”な観点で来場者に“強み”を知ってもらう意識を持たせる
展示会で出展する側になった若手技術者には、参加者が期待する“製品やサービスのわかりやすい情報”の提供に貢献することを強く意識させたい。これが技術者育成の観点から最重要のポイントとなる。ただ、ここで忘れてはいけないのは、若手技術者は経験が浅いとはいえ、“技術の専門家”であることだ。出展企業のブースを訪れる参加者から見れば、若手技術者であっても展示されている製品やサービスを知っている人と認識され、特に技術系社員であれば、程度の差はあれ技術の専門家と見られる。この期待に応える観点も念頭に、若手技術者には“技術的な強み”を説明する準備をさせることが肝要だ。
技術的か、非技術的かを比較したイメージを図2 に示す。技術的であるものとは、数字や技術評価に基づいた定量的かつ客観的実測データが主となっており、それらの技術的強みを活かしてどのような課題の解決や改善に活かせるのか、という観点が含まれる。
それに対し、非技術的なものとは抽象的かつ感覚的であり、推論や評論によって構成される。そして定量的という名目でわかりやすい“コスト” を主体とした内容に偏りがちなのも非技術的なことの典型例といえよう。
以上のことから、若手技術者は実測に基づき、定量的かつ客観的データを示しながら、どのような技術的課題を解決、もしくは改善できるのかを説明できるよう準備することが求められる。リーダーや管理職は本点を念頭に、若手技術者に準備の指示を出してほしい。