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型技術 連載「中国の金型業界のリアル」

2026.09.28

第16回 2026年の春節に見る中国金型業界の現在地

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杭州谷口精工模具有限公司 小方暁子

おがた あきこ:董事長、OISHIエンジニアリング㈱代表取締役
神奈川県川崎市出身。留学経験後、日本と海外の文化や交流に興味をもち、旅行専門卸業勤務を経て、中小企業向け業務システム会社を立ち上げ。中国浙江省・杭州市にて業界経験ゼロから金型メーカーを事業承継。日本では金型商社事業と工業・農業系地方創生・海外ビジネス交流事業も手がける。
 2月17日に新年を迎えた中国。昨年2025 年の春節では、二足歩行ロボットが民族衣装をまとい、人間と一緒に伝統舞踊を披露する姿が話題となりました。「ロボットにもこんな動きができるのね」という、少し上から目線で、親が子供のお遊戯会を見守るような、どこか微笑ましい感想が多く見られたのを覚えています。

 しかし、今年の春節番組は様相が一変しました。AI の存在を前提とした番組づくりやロボットの出演はさらに増え、この1 年でそれらは特別な存在ではなくなりました。雑技団やカンフーの達人といった、これまで国民的イベントの主役だった存在が、アクロバティックで優雅な動きを見せるロボットやAI に、その座を譲ったようにも感じられます(図)。
図 2026 年春節の番組 出典:CCTV 動画配信(https://m.cctv.com/)より

図 2026 年春節の番組 出典:CCTV 動画配信(https://m.cctv.com/)より

引用元: 央视网_世界就在眼前

 こうした変化を見ると、中国は新しい技術に一気に振り切っているように映るかもしれません。しかし、実際に金型業界の現場を見ていると、その印象は少し違って見えてきます。

「金型界の栄光」というブランド化

 新たな5カ年計画「十五五」の発表を控えた2026年の春節前後、江西省修水県にある「金型デジタル産業パーク」が注目を集めています。

 この産業パークは、2022年に江西省九江市・修水県に誕生した比較的新しい工業団地です。現在では、年商2,000万元規模以上の金型関連企業の収益合計が55 億元(約1,200億円)を超え、入居企業は75社、就業者数は8,000人以上にまで急成長しています。中国金型業界にとって、大きなニュースと言えるでしょう。

 金型デジタル産業パークには、地元政府、中国金型工業協会、中国の大手金型メーカーに加え、ICT やスマートデバイス分野のグローバル企業も参画しています。「大手リーディング企業がプラットフォームを構築し、中小企業が主役として利用する」という明確な目標のもと、研究開発、設計、製造、組立、プレス、検査の6つの共有プラットフォームを整備しました。

 520台の先端加工設備と53本の自動化生産ラインを備えることで、金型メーカーにとって最大の負担となる設備投資の課題を解消し、初期投資と立上げ時間を大幅に削減しています。その結果、新規参入のハードルも大きく下がりました。

 成果発表によると、中小企業は高額な固定資産をもたずにトップクラスの製造能力と技術資源を共有できるようになり、運用コストは25%削減、生産効率は30%向上しました。地元調達率は62%を超え、設備共有率も70%以上と、高い効果を上げています。

 この取組みは「修水モデル・金型界の栄光」としてブランド化され、ロゴも統一されました。国内大手メディアによる継続的な報道に加え、国内自動車メーカーと取引実績のあるリーディング企業が、海外展開の際にこのモデルを紹介しています(表)。その結果、現在では20 以上の国と地域からの受注につながっています。新しい技術そのものを売りにしているのではなく、「金型産業としての総合力」や「産業としてのまとまり」を外に伝えようとする試みが、無理なく産業全体を底上げしていく。急進的に見えて、実は非常に現実的なアプローチをしているのです。
表 「修水モデル・金型界の栄光」のポイント

表 「修水モデル・金型界の栄光」のポイント

 金型産業がもともともっていた分業・連携の文化を、デジタルとプラットフォームで整理し、中小企業は長年培ってきた加工技術や現場力を活かしながら、先端設備や自動化ラインを利用できるようになりました。このような運用コストの削減や生産効率の向上といった成果は、デジタル化そのものよりも、「既存の強みを活かせる形で導入された」ことによって生まれたのだと思います。

本格化する「工業強省」戦略と金型産業

 このモデルは、「工業強省」の考え方にも共通しています。工業強省とは、単に工業規模を拡大することではなく、デジタル化、スマート化、グリーン化を軸に産業システムを高度化し、地域経済全体の底上げを図る戦略です。江西省をはじめ、安徽省、四川省、貴州省の4 省が明確にこの方針を打ち出しています。

 また、広東省、江蘇省、浙江省、山東省、福建省なども、伝統的製造業から新たな質の製造業への転換を経済の柱とし、スマート製造やデジタル化を推進しています。大手企業での導入はほぼ完了し、2026年以降は規模以上企業(年商2,000万元以上の工業企業)へと本格的に広がっていくでしょう。

収益100 億元を目指して

 金型産業は、「小規模」、「非標準」、「分散」、「設備投資負担が大きい」といった課題を抱えてきました。しかし、それらをマイナス要素として認めつつもプラットフォーム運営や設備共有、産業チェーン化、デジタル変革によって、新たな価値創造へと転換する事例は、もはや珍しいものではなくなっています。

 金型デジタル産業パークは、2027年までに収益100億元を目標に掲げています。浙江省寧波や広東省東莞など、歴史ある金型集積地でも同様のモデルが成果を上げてきました。2025年が「オープンモデル元年」となり、情報発信や国境を越えた交流が加速しました。わずか1 年でロボットやAI が社会に溶け込んだように、金型産業の特に中小企業もまた、自らの強みと弱みを冷静に見極め、デジタル化とブランド化を進めることで、製造業の中で「主役」として受け入れられるべく静かに変化を始めている、そんな期待を抱かせる新年の幕開けです。

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