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型技術 連載「中国の金型業界のリアル」

2025.12.15

第5回 スマート工場が生みだす新しい価値(後編)

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杭州谷口精工模具有限公司 小方 暁子

おがた あきこ:薫事長、OISHIエンジニアリング㈱代表取締役 神奈川県川崎市出身。留学経験後、日本と海外の文化や交流に興味をもち、旅行専門卸業勤務を経て、中小企業向け業務システム会社を立ち上げ。中国浙江省・杭州市にて業務経験ゼロから金型メーカーを事業承継。日本では金型商社事業と工業・農業系地方創生・海外ビジネス交流事業も手がける。
 日本の「流行語大賞」のように、中国でも毎年、言語学関連の学術誌にて「今年の流行語」が発表されています。ハイテク産業が注目された2024 年は、デジタル化とスマート化の融合を表す「数智化」、人工知能(AI)は人類の幸福度を高めるために活用されるべきだという考えを表す「智能向善」、「未来産業」などの言葉が選出されました。2025 年も引き続きAIや5G を応用したスマートシティ化が進み、IoT やブロックチェーン技術などが各産業で活用され、新たな成長期を迎えるだろうと予測されています。

得意を持ち寄って融合

 「T0 生産」を共通目標にかかげ、ビッグデータを活用した3 次元有限要素法(FEM)を含むCAE 解析を主軸として、高分子材料製品開発から製品生産までワンストップで提供している特格高材は、それぞれ強みをもつ独立した企業・団体とアライアンスを結成しています。

 産品共同開発センターにて技術を集約・管理し、産品材料・製造工程・生産技術など顧客のさまざまな問題を解決に導くエンジニアリングサービスを提供・共有しています。金型エンジニアリング検証センターの実証現場としての機能をもつ、蘇州誠模精密科技有限公司の金型分析設計部門は、CAE 解析を利用して金型製作の立場から材料や製品形状、成形条件など膨大な蓄積データでシミュレーションを行い、後の量産時に問題が発生するリスクを残さない金型設計を実現しています。

自社の強みをさらに強く

 もともと蘇州誠模精密科技有限公司は、数十カ国に製品を提供する照明器具メーカーの金型生産部門でした。朱清发社長は、伝統的な金型製作のままでは限界があると感じ、インダストリー4.0 の概念を学びながら、先頭に立って改革に取り組みます。

 まず、金型製作の自動化による生産効率向上に定評のある「模徳宝」(深圳模德宝科技有限公司)システムを導入し、スマート製造を開始します。同時に、設計・製造統合ソフトウェアのNX と親和性が高い完全3D 設計化を実現するソフトウェア「T-mold」(東莞維斯徳軟件科技有限公司)を導入し、金型設計の自動化に取り組みながら、機械加工手順と関連業務のフロー作成・標準化も進めていきました。数年にわたって独自のデータを蓄積し、解析を繰り返したことが大きな財産になったと言います。

 2013 年という比較的早い時期からスマート化に積極的に取り組み、 業界先駆けであった模徳宝やT-mold との協力体制のもと、自社の強みがより明確化された「尖った金型企業」へ革新を続けています。金型企業のビジネスモデル革新と、自動出力されるデータに裏付けられた製品を、手戻りなく最短で提供するというサービスに重点を置いたこの取組みは、今まで価格・納期・品質に振り回されていた業界の中でブルー・オーシャンの開拓につながりました(図1)。
図1 蘇州誠模精密科技有限公司のスマート工場(写真提供:小方暁子)

図1 蘇州誠模精密科技有限公司のスマート工場(写真提供:小方暁子)

目的が明確な個・共通目標をもつアライアンス

 彼らが目指したのは、製造ツールを提供する一部門ではなく、新製品をいち早く市場に出すためにムダのないサービスを提供する金型企業になることであり、それを実現するために自動化・デジタル化を追求したスマート工場が出来上がりました。アライアンスに依存するのではなく、強みをオープンにしても競合しないほど尖った企業の協力体制であるため、顧客を奪い合う必要もなく、得意分野に特化すればするほどより強くなれる仕組みになっています。アライアンス内の各企業のさまざまな切り口から収集されたデータは集中管理され、設備さえ整えば理論上まったく同じものが世界中どこででも製造できる体制になっています。現在、アライアンスのサービスエリアは中国国内にとどまらず、アジア諸国・米国・メキシコやオランダなどへも拡大しています(図2、図3)。
図2  アライアンスメンバー20 周年記念技術交流会(2024 年12 月開催) (写真提供:小方暁子)

図2  アライアンスメンバー20 周年記念技術交流会(2024 年12 月開催) (写真提供:小方暁子)

図3 技術交流会当日は約300 人が参加 (写真提供:小方暁子)

図3 技術交流会当日は約300 人が参加 (写真提供:小方暁子)

スマート工場の価値

 金型製作のスマート工場のモデルとして、今でも国内外の金型関連業界の方が見学に訪れていて、実際に拝見すると、金型製作を知っているからこそここまでのスマート化ができると納得でき、自社には何が必要かを考えたくなります。

 お話をうかがっていて、「企業をもっと強くしたい」という思いがひしひしと伝わってきます。アライアンスメンバーはもとより、彼らに賛同しているメンバー以外でも常に新しい材料やサービス・技術の情報があると、「それらを惜しまず共有して皆で強くなろう!」というオープンでワクワクする期待感がある雰囲気の中、デジタル世界とリアル世界での交流をうまく融合し最大限活用しているように感じます。金型企業にとってのスマート工場は業界のオープンイノベーションを推進するとともに、自社の価値を再発見し、新たなステージへの扉をあけるための重要な「カギ」であるのかもしれません。
■取材協力
上海特格高材技術服務有限公司(蘇州事務所)
蘇州工業園区九章路69 号 恒泰理想創新大厦B 座1105 室

蘇州誠模精密科技有限公司
蘇州市呉江区黎里鎮汾楊路東側

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